第四百八十五話 人質となった倉持
「……ちょ!? 委員長の倉持くんを人質に取ってくるなんて、そんなの有りなのっ!? うちは一体、どうすればいいのよーーっ!?」
格上の相手であったはずのロジエッタを、まさかの大逆転劇で制した雪咲詩織。
彼女は、あまりにも予想外な展開が起きた事に驚き。頭の上から湯気を出して、脳の思考回路が完全に暴走駆動を起こしそうになっていた。
そんな激しく動揺する雪咲の様子を見た紗和乃は、急いで雪咲にいったんこちらに戻ってくるように指示を出す。
「――雪咲さん! こっちに戻ってきて! 全員で一度、作戦会議をしましょう!」
「でも、紗和乃さん! せっかくこの薔薇の服の厚化粧女を追い詰めたのに……。ここでコイツを取り逃してしまったら、また後で暴れ出すかもしれないよ!」
「大丈夫よ! その時は、また戦って倒せば良いだけだから。今は現在の状況を分析する事を優先しましょう!」
参謀役の紗和乃の言葉を聞いて。剣術使いの雪咲は、助かったとばかりに安堵の息を漏らし。
ロジエッタの喉元に突きつけていた長剣を下げて、黒い結界の前に集まるみんなの元へと、急いで駆け戻ってきた。
「ハァ……ハァ……助かったぁ! うち一人だけじゃ、こんなにも重要な問題を判断するのは、絶対に無理無理だったもの!」
戻ってきた雪咲に、『お疲れ様!』と労いの言葉をかけた後で。
元2年3組のメンバーである、紗和乃、雪咲、玉木の3人は……鬼気迫る表情で、緊急の作戦会議をその場で行う事にした。
そんな異世界組の女性達3人の慌てた様子を、ティーナとコンビニ猫のフィートは互いに顔を見合わせながら、不思議そうな表情で見守っている。
そう……それ程までに、元グランデイル女王のクルセイスがこちらに突きつけてきた――『不死者』の勇者の倉持悠都を人質にして、彼の命を奪うぞと脅してきた件については……。
日本からこの世界に召喚されてきた、異世界召喚組の勇者達にとって。あまりにも深刻で、複雑な内容を含んでいるらしかった。
『……んにゃ〜? 尻尾ねーちゃん達は、何をそんなに難しい顔をして悩んでいるのか、あたいにはさっぱり分からないのにゃ〜』
「そ、そうですね……。きっと異世界から来られた勇者様達にとって。倉持様が人質に取られるという事態は、あまりにも深刻な問題を突きつけられた状況なのは間違いなさそうですね」
ティーナと、コンビニ猫のフィートには、紗和乃や雪咲達の苦悩がすぐには理解出来なかった。
それもそのはずだ。彼女達3人が抱えている問題は、決してこの世界の人間には理解出来るはずが無いからだ。
これは、日本からやって来た。元2年3組のクラスメイト達の仲間でないと共有が出来ない。宿命とも呼ぶべき難題が今、彼女達には突きつけられていたのだから……。
「えっと……紗和乃さん? それに、副委員長。うち……率直に心の中で思ってる事を、ぶっちゃけちゃっても良いかな?」
雪咲が3人の中で先陣を切って、ぶっちゃけトークを開始しようと口火を切る。
「ええ。もちろん良いわよ、雪咲さん。本来は参謀役の私が言い出しっぺを務めるべきだったのだけど。思ってる事を何でも正直に告げてくれて大丈夫だから」
「う、うん……。詩織ちゃんが思ってる事を、私も聞いてみたいよ〜」
深刻な表情でお互いの目を見つめ合い。雪咲は一度唾をゴクリと飲み干して。一呼吸をおいてから、小さな声で語りだした。
「ぶっちゃけ……委員長(倉持)の命なんて、どうでも良くない?」
「そうよね、そうよね! 私もそう思ったのよ! だけど……何だか倫理観的に言いづらいというか。それを言ったら、嫌いな男なんてどうでも良いと思ってる冷たい女だと思われちゃいそうで、凄く言いづらかったんだけど。やっぱり雪咲さんも、そう思うわよね?」
「ええっと……でも、倉持くんだって私達のクラスメイトなんだし。流石にどうでも良い、はまずいんじゃないかなぁ〜? 詩織ちゃん、紗和ちゃんも、何だか2人とも目をキラキラと輝かせてるみたいだけど……」
3人の中で唯一、倉持に対してまだ同情的な姿勢を見せた玉木に対して。
紗和乃達は、食い入るようにして怒涛のツッコミを入れていく。
「そうは言うけどね、紗希ちゃん? あのクズ……じゃなくて、外見以外の全てが薄っぺらい倉持くんは、アッサム要塞攻略戦の時に。私達を捨てて真っ先に戦場から逃げ出そうとした最低の奴なのよ? そんな『クズ・オブ・クズ男』の委員長を人質に取られても、助ける必要なんて無いと私は思うの」
「さ、紗和ちゃん〜! それじゃ『クズ男の中のクズ』になっちゃうよ〜! 正しく倉持くんを形容するなら『キング・オブ・クズ男』にしないと文法がおかしいよ〜」
「ああーっ! やっぱり副委員長も、委員長の倉持くんの事をクズ男の代表格だと思ってたんじゃないですかー! なら、もう全員一致で認知しましょうよ。委員長の倉持くんはクズ男だから、人質に取られても私達が助ける価値は無いんだって!」
「ち、違うよ〜! 倉持くんは、ちょっとばかし自己中で。他人の事を平気で見下す癖のある、選民思想が強い妖怪キャラなだけで……。クラスの仕事はいつも真面目に取り組んでくれてたもの〜」
「ハイハイ、紗希ちゃんもアイツの事を『妖怪』認定していたって事で決定ね! 全く、最後に人質として登場するなら、もっと助けがいのあるヒロインであって欲しかったわ。これが上半身裸でセクシー水着を着た紗希ちゃんだったなら、私は死に物狂いで助けたでしょうけど……。倉持の裸を見せられても、誰得って感じなのよね……」
「紗和ちゃん〜! 私のセクシー水着姿ってどういう事なのよ〜!? 最近、昆布おにぎりを食べ過ぎてお腹周りが気になってるんだから、変な想像はしないでよね〜!」
元2年3組の女性陣である3人が、無数の白アリ兵達に囲まれているこの状況下で。
彼女達の元クラスの委員長であった倉持の事を、ボロカスに言い捨て合うという謎の状況が発生していた。
近くでそんな無駄話を聞かされていたティーナと、コンビニ猫のフィートは、呆れた目でその様子を眺めている事しか出来ないでいる。
その間にも、先ほど片腕を切り落とされた薔薇の騎士のロジエッタは回復を済まして、さっさとその場から立ち上がり。クルセイスの元に戻って準備体操を始めているような始末だった。
『もう〜、尻尾ねーちゃん達の会話があまりにもゲス過ぎて、あたいはついていけないのにゃ〜! よっぽどあの上半身裸のイケメン男は人気が無いみたいなのにゃ〜……。せめて味方のパーティーに男がいれば、別の意味のヒロイン枠を勝ち取れたのに、残念無念イケメンな不遇キャラなのにゃ〜!』
「……フィートさん? 別の意味のヒロイン枠ってどういう意味なんですか?」
『何でも無いのにゃ〜! 大人の世界には色んな愛の形があるという事なのにゃ〜』
その場でため息を何度も漏らしながら、フィートは尻尾をブルブルとすくめてみせる。
そう……異世界に召喚されてきた元2年3組のメンバーである女性陣にとって。それだけ元クラス委員長である、倉持悠都の評価が最悪だったのは間違いなかった。
そんな倉持の命を奪うぞ……と、ナイフを突きつけてこちらを脅してこられても。
『えっ、あっ……はい。どうぞ!』とは、正直に言いづらく。またそれを、おおっぴろげに口に出してしまったら世間的に冷たい人間だと思われないかと恐れて。
とっさの判断に迷った雪咲は、頭の回路が暴走駆動を起こし。助けを求めるように、紗和乃達の元に慌てて帰ってきたというのが事の真相だったようだ。
そんな異世界の女性勇者達の言動を、面白おかしそうにクルセイスはニヤニヤと見つめ。
ナイフを喉元に突きつけている、女性陣から恐ろしい程に不人気で哀れな倉持に対して小さく声をかけた。
「……ウフフ。あらあら、とっても可哀想な倉持様。今、あなたが気を失っていて意識が無いのは、せめてもの救いだったかもしれないわね? だってお仲間の女性達からこんなにも嫌われている事を知ってしまったら、プライドの高い倉持様は発狂してしまったかもしれないもの」
クルセイスは、人質に取っている倉持の横顔を優しく撫でながら高らかに笑ってみせた。
その顔には、本当は眠っている倉持が起きていた方が面白かったのに……と。とても残念そうな表情をしているのが分かる。
クルセイスという女性は、それだけ人の痛みや心の傷を抉る事に、至上の喜びを見出す事か出来るサディスティックな性格をしている事は明らかだった。
そんなクルセイスに対してようやく玉木を除く、この場にいる異世界の勇者全員の総意が取れた紗和乃が、大きな声を発して言い放つ。
「――さぁ、私達の話す声が聞こえていたのなら、もう分かったでしょう、クルセイス! そこにいる上半身裸のクズ男を人質に取ったとしても、私達には何の効果も無いわ! またさっきみたいに敗北を重ねたくないなら、連れて来た白アリ兵達をすぐに退けなさい!」
紗和乃は改めて魔法の弓矢を構え直して、そう強く叫んでみせた。
それに対して、クルセイスはずっとニヤニヤと笑ったままでいる。まるで紗和乃達が、そう返答してくるのを最初から予想していたかのようだった。
「ウフフ……本当にそれで良いのかしらね? いえ、私は別に倉持様を殺しても構わないのよ? でも、この男には『不死者』の能力があり、現在は1回分は余分に生き返れる力を宿しているの。その1回分を、そこにいるティーナに複製させて、仲間に不死の能力を移植させれば。一回だけなら命を失っても死なない存在になれる。私の言いたい事が分かるかしら?」
クルセイスの話す内容に、紗和乃と雪咲の2人が顔を見合わせてハッとした。
それは、クルセイスの提案する内容が……彼女達の頭の中で瞬時に理解出来たからだ。
玉木だけは事態がよく分かっていないようで、その場で一人だけ目をキョロキョロと泳がせている。
「ウフフ……そうよ、つまりその黒い結界の先にある『ゲート』のある場所に行けば。あなた達は元の世界である、日本と呼ばれている場所に帰る事が出来るの。そのチャンスをここで棒に振ってしまって本当にいいの? と、私は聞いているの。あなた達、異世界から召喚された勇者は自分達の故郷に帰りたかったんじゃないのかしら?」
紗和乃は歯軋りをしながら、悔しそうにクルセイスの顔を睨みつける。
クルセイスの言いたい事は分かる。それは倉持の持つ、死んでも蘇る事の出来る『不死者』の能力をティーナにコピーさせ。その能力を移植して貰えば、ゲートを使って日本に戻れる可能性があるという事。
そのチャンスを持つ倉持を見殺しにして。むざむざ日本に帰れる可能性をこの場で放り捨ててしまって良いのかと、脅してきているのだ。
「――バカを言わないで! 異世界に渡ろうと画策していたのはあなたの方でしょう、クルセイス! あなたこそ、そこにいる『不死者』の勇者の命を奪ってしまったら困るんじゃないの? それに私達だって知っているのよ! ゲートは『座標』が無いと、自分達の望む世界に転移する事が出来ない。なら、私達は日本に帰る事なんて決して出来ないんだわ!」
紗和乃の言葉を聞いたクルセイスは、愚か者を見るような目つきをして大笑いをした。
「フフ。本当に馬鹿ね。この私がどうしてこんな最終局面の段階で、わざわざグランデイル王城の地下を襲撃したと思っているの? 女神アスティアはもう、ゲートを使って目的の異世界に旅立っているわ。……という事は今、ゲートには女神が使用した『座標』解析用の魔法装置が、取り付けられたままになっているとは考えなかったの?」
「えっ……?」
紗和乃はクルセイスの話す、思いがけない言葉を聞いて驚きの声をあげる。
確かに……そうだ。女神アスティアは、彼女の目的であった魔王種子を10個集める事に成功し。おそらく、本当の意味での『不老不死』を実現する事が出来たのだろう。
そして異世界に渡る為に『ゲート』を使用して、目的の世界に転移したのだろうと思われる。
という事は……女神アスティアは既に、自分の望む異世界に渡る為に必要な『座標』を解析出来るツールを開発する事に、成功していたと考える方が自然だ。
おそらくクルセイスは、このチャンスをずっと待っていたのだろう。
女神アスティアが、完全なる不老不死を実現させ。そして彼女の望む異世界に渡る為に必要な『座標』の解析装置も完成させている事。
そしてそれらを用いて、彼女の望む異世界に渡った直後に残されたゲートには、その全ての準備が整っているはず。
その段階でゲートを奪い取り、倉持とティーナの能力を組み合わせれば、自身も好きな異世界に渡る事が出来る。
だからこそクルセイス達は、コンビニの大魔王が進撃してきているこの土壇場のタイミングで。不老の魔女達が次々と殺害され、手薄になった女神教の軍隊を圧倒的な数の白アリ兵達を持って制圧し。
グランデイル王城の地下を強襲するという、強引な作戦に打って出たに違いなかった。
「クッ、分かったわ……。倉持くんは殺さないで! 武装を解いて、私達はあなたの指示に従う事にするから!」
「さ、紗和ちゃん……!? 大丈夫なの?」
事実上、クルセイスに降伏する事に同意した紗和乃の事を、心配そうに玉木が見つめる。
もちろん紗和乃にとってそれは、苦渋の決断だったのは間違いない。だが、ティーナも雪咲も、フィートも、紗和乃がそういう決断をした事について、彼女を責める事はしなかった。
なぜならそれは、仕方の無い事だったからだ。
倉持なんてどうでも良い。煮るなり焼くなり、好きにしなさい……と、さじを投げるような事は出来ない。
ゲートに『座標』を解析出来る装置が付けられている可能性が高い以上、倉持の持つ『不死者』の能力と。ティーナの持つ『複製&移植』を組み合わせれば、確かに自分達は元の世界である日本に帰る事が出来るはずだ。
倉持を見捨てるという決断は、日本に帰れるという現実的に実現可能な選択肢を放棄する事になる。
ここには居ない、この世界で生存している他の2年3組のクラスメイト達、全ての意思確認を取った訳でもない状況下で――。
紗和乃だけの独断で、日本に帰れる可能性を放棄するという訳にはいかなかったからだ。
例えここで一時的に、クルセイス達の指示に従ったとしても。まだ、逆転出来るチャンスは必ず訪れるはず。
その僅かなチャンスに賭けるしかない……と、この時の紗和乃は頭の中で考えていた。
「ウッフッフ……いいわ。それで良いのよ。あなた達は、そのまま黒い結界の前にまで進みなさい。そして全員、その結界に手を伸ばして両手をつけるのよ」
所持している武器を地面に放り捨てた雪咲と玉木も、魔法の弓をしまった紗和乃も……一瞬だけ、お互いの顔を見合わせた。
クルセイスが指示した内容の意味が、彼女達にはすぐには理解出来なかったからだ。
だが……ここは黙って指示に従うしかない。
紗和乃達は全員、言われた通りにゲートのある空間へと繋がる通路を進み。その先に張られている『黒い結界』の前にまで辿り着いた。
「……こ、ここに手をつければいいのかな〜?」
メンバー達の中で最もおっかなびっくりした様子の玉木が、おそるおそる手の平を黒い結界に触れさせてみる。
すると――紗和乃や、雪咲、そしてティーナが手を触れても、何も反応を示さなかった黒い結界が……。
玉木がそっと水面に手を置くように、手の平を慎重に結界の壁に接触させた途端に。
まるで水面に波紋が広がっていくかのように、黒い結界の表面に変化が生じ始めた。
この時の玉木達には、理解出来ていなかったが。この黒い結界は……女神教の枢機卿によって、ゲートの場所を守る為に張られた結界だった。
つまり、この黒い結界は枢機卿が直接手を触れないと解除する事が出来ない仕組みになっている。
そして今……コンビニメンバーの一員である、枢機卿と同じ『暗殺者』の能力を持つ玉木紗希が手を触れた事によって。結界は音を立てて、崩壊したのだった。
「えっ……これは一体、どうなってるの〜!? 結界がいきなり壊れちゃったよ〜!?」
突然の変化に驚き、思わず声を上げて驚く玉木。
だが……そんな玉木の驚愕した声とは対照的に。紗和乃達の後方に控えていたクルセイスは、邪悪な笑みを浮かべて。
目の前の結界が崩壊した事に対して、この世の全ての望みが叶ったような歓喜の声を上げて叫んだ。
「やったわ、黒い結果が消失したわ……! チャンスよ、全軍、突撃開始! 異世界の勇者はティーナだけを生かして、他の雑魚は全員その場で殺害して構わないわ! まずは全力で『ゲート』を確保しなさい!」
クルセイスの号令を受けた、無数の白アリ兵達が待ってましたとばかりに猛烈な勢いで突進を仕掛けてくる。
その先頭には、傷の癒えた薔薇の騎士のロジエッタも控えていて。先ほど手傷を負わされた事への復讐に燃えて。凄まじい勢いでこちらに向けて、猛突進を開始してきていた。
「ヤバヤバヤバーッ!! ど、どうするの!? この状況ガチで詰んでるんじゃないのー!?」
「と、とにかく! ゲートのある空間にまで全力で逃げましょう! そこで武器を見つけて立て直すわよ!」
「了解だよ〜、紗和ちゃん! でも、本当に立て直せるのか凄く不安だよ〜〜っ!」
ティーナ、紗和乃、玉木、雪咲、フィートの5人は脱兎のごとく。彼女達の人生の中で最も速いスピードを出して猛ダッシュを開始する。
それぞれ武器を放り捨ててしまっているこの状況では、反撃する事さえ困難だ。しかも敵は凄まじい数を誇る、無数の白アリ兵達を前進させて来ている。
もしも捕まったら、おそらくティーナ以外はすぐに囲まれてなぶり殺されてしまうに違いない。だからここは全力で逃げないといけない。後ろを振り返る余裕なんて無い。
ただ前に向かって、僅かに生き残れる可能性に賭けて走り続けるしかなかった。
その時……疾走する紗和乃達の後方で、突然――大きな爆発音のような轟音が鳴り響いた。
全力ダッシュをして、後方を振り返る余裕の無かった紗和乃達が、ゲートのある空間に辿り着き。慌てて後方の様子を確認する為に、振り返ってみると……。
先ほどまで黒い結界が張られていた場所に、今度は虹色に光る『別の結界』が張られている事に気付いた。
新たな結界は、背後から追走してきていた白アリ兵の軍団を完全に締め出し。
再び強固な硬さを誇る虹色の壁を形成して、ゲートある空間に逃げ込んだ紗和乃達全員を守ってくれているようだった。
「これは……!? どういう事なの!?」
事態の変化に驚いた紗和乃は、自分達の命が助けられた理由を探そうと。慌てて周囲の様子を注意深く見回してみると――。
ゲートの置かれた地下空間に、額から血を流し。激しく呼吸を乱している一人の女性が倒れている事に気付いた。
しかもその女性の背には、何と……上半身裸の倉持が背負われている。
紗和乃や雪咲達は、その女性の事をよく知っていた。
そう……眼鏡をかけたその女性は、彼女達2年3組のクラスメイトの一人であり。
倉持と共に、消息不明扱いとなっていた『結界師』の勇者である、名取美雪であったからだ。




