第四百八十話 幕間 コンビニの大魔王 vs カヌレ
「――女神教の魔女だと? まだ魔女の残党が残っていやがったのか。滅ぼしても滅ぼしても、死体に群がるウジ虫みたいにウジャウジャと湧き出てくるゴミ汚物共め!」
「安心して下さい、コンビニの大魔王。私があなたの長い生涯で、一番最後に相手をする事になる魔女です。あなたにとってもう、私の『次』は無いですから」
「フン、ぬかせ! この俺がどれだけ大勢の女神教の魔女共を殺害してきたと思っているんだ? ついさっきも、お前の仲間の魔女を2人ほど始末してやったばかりだぜ? どっちも記憶にも残らないくらいに弱っちい奴らで、顔も名前も全く憶えてないけどな!」
エクレアとオペラの2人の魔女が、既にコンビニの大魔王によって殺害されている事実を聞いて。
血塗れのカヌレは、一瞬だけ両肩を震わせてみせた。その表情からは、血の気が少しだけ引いたようにみえる。
だが……すぐにいつもの余裕ある表情に戻り。屈託のない笑顔を見せながらゆっくりと前進していく。
「それは、奇遇ですね? 私も最近『魔王』を2人ほど始末しましたけど。どちらも余りにも呆気ない死に方で、私の記憶にも全く残りませんでしたよ。この世界で長く生きて、どれだけプライドと自尊心を塗り重ねた『高慢ちきなクズ魔王』と成り果てても。最期の死に方は、みんな無様なものです。だからきっとあなたも哀れなくらいに印象に残らない、地味な死に方を遂げると予言しておいてあげますね」
カヌレは笑いながら、そう宣言するや否や。
その場でいきなり大跳躍をして、コンビニの大魔王の真上の空高くに飛び上がってみせた。
カヌレの両手に握られている赤い鎖は、コンビニの大魔王の周囲を取り囲み。激しく燃え盛る赤い炎の壁を出現させて。空を舞うカヌレの位置を、把握出来ないように魔王の視界を閉ざしていく。
「――フン。雑魚めが! その程度の炎の目眩しで、俺の『完全なる・コンビニ』の全方位攻撃を避けられると思うなよ?」
コンビニの大魔王の背後に浮かぶ無数の黒い守護衛星は、その数を一気に数百に増殖させると。
巨大な炎の壁に囲まれた魔王の周囲に向けて、360度のあらゆる角度から白いビームの一斉射撃を開始する。
これなら例え魔女のカヌレが、どの方向から迫って来たとしても。彼女は必ず魔王の放つ白いビーム攻撃の直撃を受けるに違いない。
全ての方向に同時にビーム砲を放つ魔王の体に近づこうとするのは、無数の針を身にまとうハリネズミの体に裸で突っ込んでいくようなものだ。
自身の体に防御シールドを張れないカヌレには、その攻撃を避ける術は何も無いはずだった。
――ところが、赤い炎の壁の死角となる箇所から。
360度の方向に向けて放たれた、白いビーム砲の一斉放射をすり抜けて。
2本の赤い鎖が炎の壁を通過し。魔王の肉体を左右から挟み込むように、鋭いナイフのようなものを先端に付けた真紅の鎖が迫ってきた。
「チィ……! 小細工の多い手品師みたいな魔女だぜ!」
コンビニの大魔王は自身に向けて迫ってくる赤い鎖を、得意の右足による蹴り技で防ごうとする。
だが……右足の先端が、カヌレの操る真紅の鎖に触れた途端――。コンビニの大魔王の右足は強力な『何かの力』によって強く弾かれ、切り傷を負わされてしまった。
「なっ……!? 何だこの赤い鎖は……?」
コンビニの大魔王は5000年ぶりに、自分が他者から手傷を負わされたという屈辱に、一瞬だけ頭の中がパニックに陥ってしまう。
……なぜだ? なぜ敵の攻撃が当たった?
確実に右足で、敵の放った鎖を蹴り払ってみせたのに。なぜ触れた途端に、俺の足先にダメージが負わされてしまったんだ?
「……私の『血塗れの拷問鎖』の一撃が当たったのを、不思議に思っているようですね? コンビニの大魔王。私は枢機卿様が育てて下さった、最強の魔王狩り。特殊な『不死者特効』の能力を持つ魔女なの。そしてそれは不老の寿命を持つ魔王に対しても有効で、魔王に対して唯一超特効攻撃を与える事の出来るチートの魔女なのよ!」
激しく燃え盛る炎の壁に囲まれたコンビニの大魔王の頭上から、カヌレの声が聞こえてくる。
その事に気付き、魔王が上を見上げた時には……。
既にカヌレは赤い鎖を握りしめ。真上から一直線に、コンビニの大魔王のいる場所に向かって降下してきていた。
そして素早い動作で、ナイフのように鋭利な赤い鎖を振り回し。コンビニの大魔王の『首』を切り落とす、致命の一撃を喰らわせようとする。
だが……カヌレが勝利を確信した、その瞬間に。
コンビニの大魔王の周囲には、緑色の透明なシールドが発生し。強い衝撃でカヌレの体を、遠くにまで弾き飛ばしてしまう。
「クッ……! あと、少しでコンビニの大魔王の首を打ち取れたのに……!」
魔王の体から弾き飛ばされたカヌレは、体勢を立て直し。急いで自身の体を守る為の防御を固めようとした。
しかし、そんなカヌレに目掛けて。
凄まじい威力を誇る青いレーザー砲が、既にコンビニの大魔王の両肩から勢いよく放たれていた。
「―――『青双龍波動砲』―――!」
コンビニの大魔王の両肩に浮かぶ、黒い守護衛星から発射された青い2本のレーザービーム砲が魔女のカヌレに襲いかかる。
それは今までとは比べものにならない、格段に威力の高いレーザー砲である事は間違いなかった。
このレーザー砲の一撃が直撃すれば、絶対に助からないだろう。下手をすれば、大きな山を丸ごと削って抉り取ってしまう程の威力がある……と、瞬時に判断したカヌレは、とっさに硬い床を蹴り。
まるで新体操選手のように、空中で体を大きく反らせながら間一髪、ギリギリのタイミングで青いレーザー砲をかわしてみせた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
命を失う危機を何とか脱し。硬い巨大コンビニ要塞の屋上の床に着地したカヌレは、激しく呼吸を乱しながら数十メートル先にいるコンビニの大魔王を睨み付けた。
対するコンビニの大魔王は、先ほどと何も変わらない、王者の威厳に満ちた表情のままで笑ってみせた。
「ハッハッハーーッ! 面白いぞ! 『魔王特効』なんて面白い能力を持つ魔女がいたのかよ! まさか女神教が、そんな面白い珍獣を育ててあげているなんて思わなかったぜ! 流石は女神様だな。チートでも何でも使う。手段は選ばない。まさに自分勝手にこの世界を蹂躙してきた、女神に相応しいやり方じゃないかよ!」
「バカ笑いしてる所、申し訳ないのだけど。私を育ててくれたのは、枢機卿様よ? 私は女神様の為に仕えているのでなく、母親代わりとして私を育ててくれた枢機卿様の為だけに生きているの。私は今日という、この日の為に育てられた不老の魔女。強い魔王を倒す事だけが、私の存在意義なの」
「――枢機卿だと? そうか、俺がこの世で必ず殺さないといけないクソ勇者の名前だな。女神教に所属するクソ魔女共には、この俺を倒すのは絶対に不可能なのだとその身を持って思い知るがいいッ!」
コンビニの大魔王は、背後に浮かぶ黒い無数の球体を操り。再び白いビーム砲を360度のあらゆる角度から連射させてきた。
そこには『魔王特効』の能力を持つという、チート性能を持つカヌレに対しての恐れは微塵も感じられない。
ただ……目の前にいる、憎き女神教の魔女を粉砕するという憎悪だけが、魔王の心を支配しているように見える。
そんなコンビニの大魔王の態度を見て、カヌレは理解した。
カヌレは事前に、枢機卿から聞かされていた。コンビニの大魔王は、彼が着ている衣服の特殊性能により。即死に至るような致命的な攻撃を受けても、それを避ける事の出来る『無敵シールド』があるのだと。
おそらくさっきの緑色の透明な結界は、魔王の身を守る為にそれが自動発動したのだろう。
カヌレは自身の身に、ゲリラ豪雨のように降り注いでくる無数の白いビーム砲の雨をかわしながら。コンビニの大魔王に向けて話しかける。
「……確かに私は、魔王特効の能力を持つチートの魔女だけど。でもあなたのチート能力には、遥かに及ばないわね。私はさっき、確かにあなたの首を切り落とせる致命の一撃を与えたはずだった。でもあなたはそれを防いでみせたわ。それはあなたの着ている、その『黒い服』の効能なのでしょう?」
「ほう……コンビニ店長服の『無敵シールド』を知っていたのか? フフ、そうだ。誇るが良い。俺が着ているコンビニ店長服の無敵シールド機能を発動させたのは、この世界ではお前が2人目なのだからな。大昔に俺の体に傷を負わせた『暗殺者』の勇者が、その1人目という訳だ」
「そう、それは実に光栄ね。私が偉大なる……暗殺者の勇者様――枢機卿様と肩を並べる事が出来たなんてね!」
カヌレは必死に巨大コンビニ要塞の上を飛び回り。コンビニの大魔王の放つビーム砲の攻撃を避け続ける。
ビーム砲の数も、その威力も。先ほどより、明らかに強まっていた。
コンビニの大魔王は魔王特効の能力を持つカヌレに対して、一切の手加減をやめて。全力で攻撃をする態勢にシフトしたらしい。
「フン。俺の持つ無敵シールド機能は、全部で10回分ある。つまり後9回は、致命の一撃を防げるという訳だ。だが……本気を出した俺はもう、お前に攻撃をさせるチャンスは二度と与えてはやらないぞ!」
「クッ……これは本当に、良く無きかなかなの展開になったみたいね!」
カヌレはしばらくの間、巨大コンビニ要塞の屋上で。必死にコンビニの大魔王の放つ『完全なる・コンビニ』によるビーム砲を避ける、死のダンスを踊り続ける事しか出来ないでいた。
例え一発でもビーム砲が体に命中してしまえば、致命傷を受けてしまう。
だから、必死に攻撃のチャンスを狙いつつも。
カヌレはまずは、コンビニの大魔王の放つ無数のビーム砲を避ける事に集中するしか無かった。
それでも、360度の角度から放たれる無数の白いビーム砲を避ける事が出来るているのは、女神教序列3位の魔女であるカヌレが常人を遥かに凌ぐ。化け物級の強さと、身体能力を持っているからだ。
コンビニの大魔王は、顔に余裕の笑みを浮かべながら。自身の放つビーム攻撃を必死に避け続けるカヌレに、まるでゲームのようにビーム砲による攻撃を繰り返し。カヌレに休む暇を与えずに追い込み続ける。
大魔王と魔女のギリギリの攻防は数十分にも及んだ。
だがそれでもまだ、コンビニの大魔王は血塗れのカヌレに一発もビーム砲を当てる事が出来ずにいる。
「……チッ、いい加減に逃げ回るハエにビームを当てるゲームにも飽きてきたな。おい、そろそろ諦めろ。俺の攻撃を避け続けるだけしか出来ないお前には、もう決して勝機は巡ってこないんだからな!」
「そうね。ただ逃げ回っているだけじゃ、埒があかないのは確かね。なら、そろそろこちらからも反撃をさせて貰うわよ、コンビニの大魔王!」
カヌレは無数のビーム砲を避けつつも。こっそりと地面を蛇のように這わせていた赤い鎖を操り。
コンビニの大魔王の死角になる角度から、再び魔王の首を刈り取る為の致命の一撃を放とうとする。
だが……カヌレの操る赤い鎖は、魔王の首に到達する前に。巨大コンビニ要塞の屋上に出現した、5連装式のガトリング砲による重火力射撃によって粉砕されてしまった。
「ハッハッハ、俺はもうスマートウォッチを操作しなくても。脳細胞が指示を発するだけで、コンビニ要塞の全ての機能を操作する事が出来るからな! 無敵のコンビニ要塞を自由に操れる俺に、女神教の魔女なんぞの力では到底及ぶ事など出来ないぞ!」
「……そうなの? それじゃあ、その必要の無くなったスマートウォッチとやらは、今はどうしたのかしら? もしかしてどこかに捨ててしまったというの?」
「……ん? 俺のスマートウォッチは、どうしたのかだって? それは確か、昔……『誰かに』渡してしまったような気がしたが……?」
コンビニの大魔王は、カヌレからの突然の問いかけを受けて。
忘れてしまった自分の過去の記憶を思い出そうと、少しだけ考え込むような仕草をとった。
それは今の彼にはもう決して思い出す事が出来ない、大切な『誰か』に関する記憶であった気がする。
カヌレはコンビニの大魔王の動きに迷いが生じた、その僅かな隙を突いて――。
最後の起死回生の一撃を放とうと、赤い鎖を操りながら。猛烈な勢いでコンビニの大魔王の前に向かって突進していった。
「――さぁ、コンビニの大魔王!! 今度こそ、その首を頂戴させて貰うわ! これが、私の最後の一撃よ!」
明らかに油断しているコンビニの大魔王の首を目掛けて。猛スピードで前進するカヌレの前に――。
突如として『黒い球体』が出現し。カヌレの放った赤い鎖の攻撃を、全て目の前で吸い込んでしまう。
「……なっ!? これは……?」
「ウフフ、バカね。あなたが相手にしないといけないのは、魔王様だけではないのよ? この私も魔王様の側に常にいる事を忘れてしまったのかしら?」
カヌレの後方には、いつの間にかにピンク色の髪をしたコンビニの守護者――レイチェルが接近してきていた。
レイチェルは両手から黒い重力を操る球体を放つと、カヌレの背後にそれを直撃させようとする。
「クッ……! まだよ、まだ終わらないわ!」
とっさに背後から襲撃してきた、レイチェルの攻撃をギリギリのタイミングでかわしてみせるカヌレ。
だが……余りにも無理な姿勢で着地をした為。
コンビニの大魔王が放つ、無数のビーム砲の攻撃がカヌレの右足に一発だけ着弾してしまう。
たった一撃だけの被弾だというのに。カヌレの右足は瞬時に蒸発して消し飛び。片足だけで、その場に着地したカヌレは態勢を崩して倒れかけてしまった。
「ハッハッハ……! とんだ無様なザマに成り下がったな! 片足だけでは、もう俺の『完全なる・コンビニ』のオール・レンジ攻撃を避ける事は出来まい?」
自分の左腕に付いていない、スマートウォッチの行方を思い出す事をやめたコンビニの大魔王は、再び尊大な態度に戻り。
右足を失い、明らかに行動不能に陥っているカヌレの元へと、ゆっくりと近づいていく。
カヌレの後方には、ピンク髪のレイチェルも既に回り込んでいて。もはや女神教最強の魔女と言われた、血塗れのカヌレには……勝機が全く残されていない事は誰の目にも明らかだった。
カヌレは正面から歩いてくるコンビニの大魔王。そして背後から迫ってくるレイチェルの2人に囲まれて。
その場で両目を閉じて。静かに吐息を吐き出してみせる。
そんな大人しくなったカヌレの元に、コンビニの大魔王は容赦なく迫ってきた。
「フン。どうやら観念をしたみたいだな。安心しろ、女神教の魔女は肉片一つ残さないように、体の全てを高熱のレーザーで溶かしてやるからな」
「……残念ね。でも、私も最強の魔王狩りとして、女神教の中で名を馳せてきた魔女よ。魔王とその従者の手にかかって殺されるのは、余りにも良く無きかなかなだから、勘弁させて貰うわ。私の命は、私自身の意思で終わらせる事にするから」
そう不敵に笑ってみせると。カヌレは茶色いドレスの中から。小さなナイフと、緑色の粉袋を取り出してみせた。
「おいおい! まさかそんな果物ナイフみたいな小さなナイフで、この俺に最後の反撃を挑もうとしている訳じゃないだろうな?」
「……安心して、コンビニの大魔王。これは枢機卿様に託された、とっておきの『魔王遺物』なの。このナイフは斬りつけた相手の『記憶を一部消す』能力が宿っているのよ。そしてこの緑色の袋に入っている粉は、ふりかけた武器の能力を真逆に『反転』させる性質があるの。この2つを組み合わせると、あら不思議? さて、どんな能力がこのナイフには付与されるのかしらね。とっても良きかなかなでしょう?」
「――ハァ? 何だそれ? 意味が分からないぞ」
心底呆れ果てて、そしてこれから死にゆく雑魚の言葉など、どうでもいいと言わんばかりに。
コンビニの大魔王は首を斜めにして、その場で退屈そうに欠伸をしてみせた。
そんなコンビニの大魔王の姿を、ニコリと笑いながらカヌレは見つめると。
誰にも聞こえないように小さく口を動かし。目から大粒の涙を流しなから、彼女の長い人生の最後に発する言葉を呟いてみせた。
「枢機卿様……。いいえ、玉木お母さま……。貧民街の靴磨きでしかなかった、こんな私を拾ってくれて。そしてこんなにも長く大切に育てあげて下さり、本当にありがとうございます。カヌレは、お母さまより先にここで終わります。どうか……お母さまの最後の願いが成就しますよう、カヌレは祈っています……」
既に観念して静かに座り込んでいる……と思われた魔女のカヌレは――。
突然、今までに一度も見せた事の無い、闘志あふれる『戦士』の顔つきに変わると。
全身から激しい炎を発生させて、まるで巨大な火の玉と化し。コンビニの大魔王の体に目掛けて、猛スピードでまさに命懸けの突進を開始した。
「フン。最後の悪あがきが自爆前提の特攻とはな! 無駄だ、お前には俺の体に傷一つ付ける事は出来ない!」
コンビニの大魔王は、自身の背後に浮かぶ無数の黒い球体から。360度の角度よりビーム砲を放つ、オール・レンジ攻撃を放つ。
それは今までで、最もビーム砲の数が多く。威力も桁違いに増した、まさにカヌレに対して本気のとどめを刺しにいく攻撃だった。
無数のビーム砲の直撃を浴びたカヌレの体は、周囲に展開していた赤い鎖からも激しい炎を放出させ。
まるで大きな火炎の津波が押し寄せる激しい勢いで、コンビニ要塞の屋上の全てを焼き尽くすほどの大爆発を引き起こす。
””ズドドドドーーーーーーーン!!!””
凄まじい轟音と、爆発による熱波が巨大コンビニ要塞の表面の外壁全てを炎で覆い尽くしていく。
だが、それだけの火炎の爆発を至近距離で受けても。コンビニの大魔王の体は、完全なる無傷の状態を維持していた。
カヌレが最後の放った激しい炎の熱波は、コンビニの大魔王の体に触れる前に。無数の白いビーム砲によってかき消されてしまったからだ。
「最後に無駄な悪あがきの自爆をして果てたか。フン、所詮……女神教の魔女共など、この程度でしかない。全く時間を無駄にしたもんだぜ……」
嘲るように笑い、コンビニの大魔王はその場から離れて。元々座っていた黄金の玉座に戻ろうとする。
そんな、コンビニの大魔王の背後に――。
燃え盛る激しい炎の熱波をかき分けるようにして、全身が真紅の色に染まった『血塗れのカヌレ』が勢いよく突進してきた。
「――何だと……!? 貴様、まだ生きて……!?」
「魔王様!? 危ないです……!!」
まさかのカヌレによる奇襲に驚いた、コンビニの大魔王とレイチェルの2人は……。
慌ててそれぞれ白いビーム砲と黒い球体を、燃え盛る炎の弾丸と化したカヌレに向けて放つ。
だが……その攻撃が全てカヌレの体に命中して。
その体を完全に消滅させる前に……。
真紅の魔女は、その手に握っていた『小さなナイフ』で。コンビニの大魔王の首に僅かな切り傷を付けながら、最後に振り払ってみせた。
「クッ……この、死に損ないがぁぁぁぁッ!!」
無数に浮かぶ黒い球体から発射された、白いビーム砲の攻撃を全て被弾したカヌレの体は……大きな爆発音を立てて、その場で爆散して消滅した。
カヌレの死によって。巨大コンビニ要塞の屋上を覆っていた、激しい炎の熱波はようやく収まり。
後には、爆発によって真っ黒に焦げた要塞の硬い外壁だけが無傷の状態で残されていた。
レイチェルとコンビニの大魔王の攻撃をまともに受けた魔女のカヌレの体は、肉片一つ残す事なく。コンビニの大魔王の宣言通り。この世にその痕跡を何一つ残さずに、完全に消滅して消え失せていた。
「フゥ……。全く、本当にしつこい燃えネズミだったな。最後にこの俺の喉に小さな『かすり傷』だけ、残していきやがったぜ……」
「魔王様、大丈夫ですか……?」
コンビニの大魔王の体を心配したレイチェルが、急いで彼の元に駆け寄ってくる。
「ああ、これくらい何でもないさ。時間を無駄にしたな。行くぞ、レイチェル! 俺の目標は今は全員、グランデイルの王都に集まっているらしいからな。すぐにまた要塞を移動させるぞ!」
まるで血塗れのカヌレの襲撃など、何も無かったかのように。
落ち着きを取り戻したコンビニの大魔王は、黄金の玉座に座ると。再び巨大コンビニ要塞を稼働させて、ソラディスの森の上をゆっくりと前進していく。
大地に轟音を響かせながら移動する、巨大コンビニ要塞の上で。
首元に付けられた小さな傷をさすりながら、コンビニの大魔王は側にいるレイチェルに向かって話しかけた。
「……そういえば、レイチェル? 俺が左腕に付けていたはずの『スマートウォッチ』はなぜ無いんだ? 誰かにくれてやってしまったのか?」
突然、予想外な質問をされたレイチェルは、一瞬だけ青ざめた表情を浮かべ、言葉に詰まってしまう。
だが……すぐにいつもの落ち着いたビジネススマイルを取り戻すと。冷静に彼女の魔王に向けて返答をした。
「スマートウォッチは、大昔に壊れて捨ててしまったのです。そんな事も忘れてしまいましたか、彼方様? 今はもう、スマートウォッチなど無くても、コンビニ要塞の全てを自由に操れるではないですか」
レイチェルに、そう指摘されたコンビニの大魔王は、なぜか……少しだけ腑に落ちないような顔色を浮かべて、呟いた。
「そっか。俺はスマートウォッチを捨ててしまったのか。いや……なぜか遠い昔に。誰か俺にとって大切な存在の人にプレゼントしたような気がしてな……。まぁ、きっと俺の気のせいだろうな」
「…………」
レイチェルは何も答えない。いや、答えられない。
それどろこか、レイチェルは全身を震わせて。激しく動揺しながら何かに怯えるように。
彼女の主人の様子を、無言で注意深く見つめ続ける事しか出来ないでいた。
「――よーし、行くぞ、レイチェル! 目指す場所は、グランデイルの王都だ。そこで女神を始末して、そしてアイツの恋人であるティーナという女を必ず手に入れてやるからな!」




