第四百七十八話 幕間 動物園の魔王の戦い
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「よっしゃーーッ! 私の旦那様は、ちゃんとグランデイル王都の方に向かったみたいだな! じゃあここからは、アタシらの腕の見せ所だぜーーッ!」
純白の花嫁衣装を着たセーリスが、押し寄せてくる無数の機械兵達の上に向かって飛び。
まるで白鳥が水面を羽ばたくかのように、敵の本拠地である黒いコンビニマンション目掛けて大跳躍をした。
そして空から一気に、マンションの側面にあるベランダ側から内部に飛び込もうとする。
対する巨大陸上戦艦と化した黒いマンションも、マンションの全部屋のベランダに備えられた総数2000門を超えるガトリング砲の照準を全て、空を飛んで迫ってくる白い花嫁の方角に向け。
一斉に赤い光弾の対空射撃による豪雨を、花嫁騎士のセーリスに向けて浴びせかけた。
”ズドドドドドーーーーーーーッ!!!”
”ズドドドドドーーーーーーーッ!!!”
”ズドドドドドーーーーーーーッ!!!”
”ズドドドドドーーーーーーーッ!!!”
「バーーカッ!! そんなのガラクタ弾の集中砲火なんて全然効かねーよ! 知らなかったのか? アタシには、あらゆる物理攻撃を無効化する『鋼鉄の純潔』のシールドがあるんだよッ!」
一斉放出された、2000門のガトリング砲による機銃掃射をものともせず。
花嫁騎士のセーリスは、自身の体に銀色の球体シールドを張りながら向かってくる赤い光弾を全て弾き返す。
「うおおおぉぉォォーーッ!! マンション内への侵入は、アタシが一番乗りだぜーーーッ!!」
両手に装備したロケットランチャーから、ロケット弾を放ち。無理やり外壁に穴を開けて黒いマンションの中層階に飛び込んだセーリスは、そのままマンション内部を駆け回り。単独でマンションの制圧を試みる。
「さぁて、中に入ったのはいいけど……どこを壊せばこの巨大マンションは止まるんだ? やっぱ動力炉とか、機関室みたいな場所がどこかにあるのかなー?」
マンションの内部でキョロキョロと周囲を見回すセーリスの元に、おびただしい数のカマキリ型の新型機械兵達が集まってくる。
どうやらこの黒いマンションの内部には、各部屋の中までギッシリと敵の機械兵達がひしめいているらしい。
「おっ、お出ましかい? いいぜ、やってやんよッ! 一番乗りしたアタシが、このまま一気にマンションを制圧して。絶対に後で私の旦那様にご褒美のキスをして貰うんだからな! キスの邪魔は誰にもさせねーぜッ!!」
巨大な陸上戦艦と化した黒いマンションに、一番最初に侵入する事に成功したセーリス。
彼女はマンション内で、無数に押し寄せてくる敵の機械兵達と対峙し。黒いマンションの進撃を止められる動力炉を探し出そうと、内部で激しい攻防を繰り広げる。
そんな白い花嫁の活躍を、遥か後方から見つめていたバーディア帝国軍も黙ってはいない。
セーリスの単独での突進に遅れを取るまいと、帝国軍は密集体形を取り。ゆっくりと前進する黒いマンションを後方から追いかけ。
皇帝ミズガルドの指揮のもと、戦車隊による激しい砲撃をマンションに浴びせながら、その進撃を食い止めようと試みていた。
「皆の者、よいか! 戦車隊の砲撃は外壁ではなく、あの黒い建造物の下に付いている無数の車輪に向けて集中させよ! 決して敵の光弾射撃の有効射程には入るな。十分な距離を取り、敵の動力部だけを狙い撃ちにするのだ!」
赤い髪の皇帝ミズガルドは、馬上から大声で指揮を取り。10万人を超える帝国騎士団の先頭に立って皆に指示を出す。
ミズガルドは以前、世界連合軍の一員として。エルフ領の奥にあるコンビニ共和国への攻撃に参加していた経験がある。
その時に、コンビニマンションが持つ無数のガトリング砲による弾幕射撃の恐ろしさは、嫌という程に目撃して理解していた。
だから決して配下の騎士達には、黒いマンションのガトリング砲有効射程距離内には入らないようにと叱咤する。
そして比較的、ガトリング砲の砲門数が少ないマンションの背面に向けて。帝国軍が引き連れて来た戦車隊による攻撃を集中させるようにと指示を飛ばした。
「陛下! カルツェン王国、ドリシア王国の空軍部隊が敵の前方に魔法攻撃を集中させてくれています。敵の進撃が鈍っている隙に、我々も敵の移動要塞に肉迫する事が出来るかもしれませんぞ!」
「そうか、それならば好都合だ。先に内部に侵入したセーリス殿の後に我も続くぞ! ついて来れる者だけ、我の後についてくるが良いッ!」
「へ、陛下……!? まさか敵の要塞内部に、単身で向かうおつもりなのですか!?」
「当然だ、敵の移動要塞は合計で10棟もあるのだぞ! たかが一つ攻め落とすのに、数日も時間をかけていたら。世界中の都市が敵の手によって、攻め滅ぼされてしまうではないか!」
皇帝ミズガルドは、必死に呼び止める部下の騎士の制止を無視して。
そのまま勢いよく白馬にまたがると。単身で一気に、黒いコンビニマンションの目前にまで突進していった。
ちょうど帝国軍の戦車隊の砲撃と、空から支援してくれているカルツェン王国軍の魔法攻撃が上手いタイミングで重なり。
黒いマンションの入り口から外に向けて、無限に出撃している機械兵達が爆発で吹き飛び。
敵の攻撃が僅かに緩んだ隙をついて、皇帝ミズガルドは単身で黒いマンションの内部への侵入を果たした。
そして敵の攻撃の流れを先読みする事の出来るミズガルドは、マンションの入り口付近に集まっていたカマキリ型の機械兵達を華麗な剣技で斬り倒していく。
マンションの内部では、すでに花嫁騎士のセーリスが機械兵達と激しい交戦を繰り広げていた。
セーリスは皇帝が単身でマンション内部に飛び込んできた事を確認すると、ロケットランチャーを両手に装備しながら、急いで皇帝のいる入り口付近にまでやって来る。
「おーー!? さっすがは皇帝陛下! めちゃくちゃつえーじゃんかよ! 帝国の皇帝自身が最強の騎士って、マジでカッコ良いよな。女のアタシでも思わず惚れちまうぜ! でも、あんまり無理はするなよー。あんたが死んだら帝国兵達が困っちまうだろうからなー」
「私は彼方の為なら、いつでも死ねる覚悟があるの! だから無用な心配はしなくていいわ。私が死んでも帝国の人民が明日の世界を希望を持って生き続けられるなら、それで良いんだから」
「あーーっ!? 何だよ、ソレーー!? 私の旦那様は絶対に渡さねーからな! こうなったらアタシも負けてらんねーぜ!」
ミズガルドとセーリスは、それぞれ華麗な剣技とロケットランチャー攻撃を交互に繰り出し。マンション内部にいる敵の機械兵達を次々と打ち倒していく。
だが……どれだけ敵を倒しても、マンション内の機械兵達の数は一向に減少する気配が無い。
おそらくコンビニ支店と同様に、黒いマンション内部においても。新型のカマキリタイプの機械兵達は、どこかで無限に生み出されている可能性が高かった。
「……チッ、このままじゃ埒が明かないな! やっぱ敵の機械兵達を生み出している倉庫か、このマンションを動かしている動力炉みたいな場所を見つけて破壊しないと、永遠に終わらないぜ!」
「セーリスさん、この黒い建造物は彼方の住んでいた元の世界ではどんな建物だったの? どこかに重要な機関室となるような部屋はないの?」
「あーー、マンションってのは、沢山の住人が集団で暮らせる居住場所なんだけどよー。大体どの部屋も同じような間取りの部屋が多いから、どこか特別な場所があるかって言われてもだなぁー……」
ロケットランチャーから、無数のロケット弾を撃ちつつ。セーリスは頭の中で思考を巡らし続ける。
そして、ミズガルドに聞かれた質問がヒントとなり。この黒いマンションの機関室ともなり得るかもしれない場所をセーリスは思いついた。
「そっか! いや、マジでその可能性は十分にありえるぞ。皇帝陛下、日本に建てられているマンションには『ペントハウス』っていう、マンション内でも特別に値段と価値の高い部屋が用意されてるんだよ。大体そこは、お金持ちが買う事が多いんだけどよー。もしかしたら、そこにこのマンションの動力源みたいなのが設置されているかもしれないぜ!」
「ペントハウス? 分かったわ、その部屋はこの巨大な建物の中のどこにあるの?」
「へっへー。それはだなー、一番てっぺんの見晴らしが良い屋上階に用意されてるのさー!」
セーリスは両手に持ったロケットランチャーから、ロケット弾を発射させると。
マンションの階段付近に密集していた、敵の機械兵達を全て吹き飛ばしてみせた。
「よっしゃーーッ!! アタシは屋上に向かうぜー! ついてこれるかい? 皇帝さんよ!」
「ハイ、ついていきます! 彼方の為に少しでも役に立ちたいから!」
マンション内のエレベーターは、敵の手によって機能停止されている。だが、高層階に向かう階段だけはまだ無傷で残っていた。
花嫁騎士のセーリスと、皇帝ミズガルドは、高層マンションの階段を一気に駆け上り。
2人で黒いマンションの最上階にある、ペントハウスと呼ばれる部屋を目指す。
そして、とうとう辿りついたその場所には……。
コンビニ支店の中の事務所のように。明らかに建物全体を管理する為のコンピューターや、制御パネルが無数に取り付けられた特殊な場所が待ち受けていた。
「よっしゃーーッ! 明らかにここが、このマンションの機関室になってるみたいだな! アタシのロケランで全部ぶっ壊してやるよ!」
「セーリスさん、後ろから敵が押し寄せてきてます!」
ミズガルドとセーリスが、背後を振り返ると。下層階から階段を駆け上がり。マンション内の各部屋に潜んでいた無数の新型機械兵達が、びっしりとペントハウスの周囲を閉ざすかのように埋め尽くしていた。
「おーおー、これだけの数が慌てて駆け寄ってくるって事は……やっぱりこの部屋は、マンションの中枢を司る場所って事でビンゴらしいな!」
「セーリスさん、ここは私が食い止めますッ! セーリスさんはこの部屋にある機械を全て破壊して下さい!」
ミズガルドは長剣を構えて、ペントハウスの狭い入り口部分に立つと。押し寄せてくる機械兵達を侵入させないように、華麗な剣技で敵を一体一体切り伏せていく。
コンビニの守護者でもなく、遺伝能力者でもない、ただの人間の剣士であるミズガルドは、狭い部屋の侵入口に自らの身を置いて『蓋』をすることで。
圧倒的な戦力差のある敵からの、集中攻撃を受けないように。数のハンデを補うようにして、敵の侵攻をたった一人だけで食い止めていた。
「ひゅ〜〜っ、マジで皇帝さんカッコ良いぜ! 後で戦いが全て終わったら、5番目のコンビニの守護者としてアタシが私の旦那様に推薦しといてやるよ!」
「その必要はないです。推薦なんてされなくても私は今も、そしてこれからも、コンビニの勇者を守る『彼方の騎士』ですから! そしてこの世界大戦が終わった後は、コンビニ共和国のリーダーの彼方を政治的に守る為に尽力する、後見人役のバーディア帝国の皇帝ですから。私はずっと彼方一筋なんです!」
「やっべ!! いきなり純真系のヒロイン候補が、後入りで参加してくるなんてアタシは聞いてねーぞ!? ちっくしょう、これはマジでアタシも頑張らないと、私の旦那様に振り向いて貰えなくなっちまいそうだぜーーッ!!」
セーリスはロケットランチャーから、ロケット弾を発射させて。黒いマンションの最上階に備え付けられたペントハウスの機関室を破壊していく。
セーリスとミズガルドの活躍もあり。帝国軍、そしてカルツェン王国、ドリシア王国の3ヶ国連合軍が黒い移動式マンションの撃破にとうとう成功したのは……それから約2時間後の事であった。
だがそれは、全世界の都市群に向けて移動を開始した10棟の黒いマンションの中の、たったの1棟だけをようやく破壊出来たという事でしかない。
この時――既に他の方面に進撃を開始した、移動式の陸上戦艦である黒いマンションを食い止めようと。
各地でコンビニマンションの軍団と激しい戦闘を繰り広げていたのは……主に動物園の魔王である『冬馬このは』の方であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――このは様! どうか一度、休憩をとって下さい! このままでは、このは様の体が持ちません……」
グランデイル王国の北側に広がる平原で、動物園の魔王である冬馬このはと、ドリシア王国女王のククリアの2人は共に力尽きて地面の上に倒れていた。
既に冬馬このはの体は、限界をとうに超えていた。
体は極限まで痩せ細り、顔は青白く変色して。全身から生気が完全に失われてしまったのでは……と思わせるほどにまで衰弱しきっている。
「メリッサ……。今の君はドリシア王国のククリア女王と精神融合して、沢山の人に必要とされている立場だ。だから僕の事はここに置いていって構わないから、自分が生き延びる事だけを優先させてね……」
「そんな事は、絶対に出来る訳が無いのです! ボクは亡くなったラプトル達の分まで、このは様を最後までお守りすると誓ったのです。だから、お願いです。このは様……どうか、ご自分の体を大切にして下さい……!」
ククリアは必死に懇願をしたが、冬馬このはの意識はそこでプツリと途切れて。そのまま意識を失ってしまったようだった。
ククリアは慌てて、冬馬このはの胸に自分の耳を押し当てる。
……息はまだある。だから、まだ生きている。
ククリアはホッと安堵の息を漏らしたが、冬馬このはの命は今や……風前の灯火である事は誰の目から見ても明らかだった。
冬馬このはこと、マコマコは……コンビニの勇者の彼方がグランデイル王都に向かった後。
ククリアを連れてたった2人で、北の平原地帯に向かい。世界各地に向かって進撃を開始した、10棟の黒いコンビニマンションに対して。無限に動物を生み出す事の出来る能力を用いて、数十万を超える銀色の狼達による大規模な同時攻撃を行い、その侵攻を阻んでいた。
マコマコが生み出す無限の動物達の群れは、各地で大軍団を形成して。バラバラに分散出撃した黒いコンビニマンションに対して、それぞれの場所で集中攻撃を仕掛けている。
そして黒いマンションからのガトリング砲射撃を浴びても、敵の機械兵達による反撃を受けても一切怯む事なく。銀色の狼の群れは、黒いマンションの内部にまで侵入を果たし。
マンション内の機関室と、動力炉をそれぞれ破壊して。既に合計で3棟にも及ぶ、黒いマンションを撃破する事に成功していた。
だが……もう、マコマコの能力は限界値をとうに超えてしまっていた。
無限に動物達を生み出せなくなったマコマコは、線香花火が燃え尽きて、地面に炎の粒を落下させるように。
小さな呼吸を繰り返しながら、何も無い平原の地面の上に体を横たえて気を失ってしまっている。
その意識はもう、完全に途切れていて。側にいるククリアが必死に呼びかける声も、彼女の耳には届いていないようだった。
動物園の魔王が意識を失った事により、彼女の能力によって無限に生み出された銀色の狼達は、もう出現しなくなってしまっている。
そして、そんな最悪のタイミングで――。
世界各地の都市に向けて、バラバラに進撃していた黒いマンションが一斉に方向転換をして。
冬馬このはとククリアのいる、北の平原地帯に向けて反転して向かってきていた。
動物園の魔王によって、3つのマンションが破壊されてしまった事を警戒して。どうやら各地に分散出撃していた黒いマンションは、まずは一箇所に集結して。冬馬このはを優先的に倒す事に決めたらしい。
この時点で意識を失ったマコマコのいる北の平原地帯には、合計で6棟の黒いコンビニマンションがゆっくりと、まるで津波のように押し寄せて来ていた。
これでは、まさに万事休すだ。
無限の動物達を生み出せなくなった動物園の魔王には、攻め寄せてくる6棟の陸上戦艦である黒いマンションに対抗出来る手段は、何も残されていなかった。
ククリアは眠りについた冬馬このはの手を強く握り。たった一人だけで、その場でスッと立ち上がってみせる。
「このは様……大丈夫です! このボクが、必ずこのは様を守りきってみせますから」
意識を失った冬馬このはを、敵の攻撃から守る為に。ククリアは自身が操れる『巨大土竜』を、地中から50体出現させた。
そして巨大なモグラ達に、自分達の周りをぐるりと囲ませて。押し寄せてくる強大な敵の攻撃に備える。
だがそれは……明らかに戦力不足であった。
迫り来る黒いマンションは、その周りに数万体を超えるカマキリタイプの新型機械兵達を引き連れてきている。
そしてマンションの側面のベランダには、合計2000門を超える5連装式のガトリング砲という重火力を装備した陸上戦艦の群れを相手に。
たった50体しかいない、大きなモグラの群れを引き連れたククリア一人の抵抗は……おそらく、完全に無意味でしかないだろう。
既にククリア自身も、冬馬このはと共に戦場で戦い続けて体力はほとんど尽きかけていた。
そんなククリアの決死の覚悟とは別に、感情を持たない機械兵達は、容赦なく幼い少女の外見をしたククリアの首を切り落とそうと、目前にまで押し寄せてきている。
「みんな……本当に、ごめんなさいなのです。ボクだけが唯一、動物園の守護者の中でこの世界に残されたというのに。そしてとうとう、このは様が長い眠りから目覚めてくれたというのに。ボクだけの力では、このは様を守り抜く事が出来ないかもしれないのです……」
ククリアの頭の中では今、動物園の守護者である『紫魔龍公爵』こと、メリッサの過去の記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。
この世界に初めて冬馬このはが召喚された、300年前の時代。動物園の勇者である冬馬このはと、その仲間である4人の守護者達は、希望に満ち溢れて冒険の旅に出た。
あの時は誰もが『未来』の世界には、きっと希望があると信じていた。
癖のあるメンバー達ばかりだったけれど、優しい冬馬このはの言葉に支えられて。みんなで協力をしながら明るく前に向かって進んでこれた気がする。
そう――ボク達は、コンビニの勇者の仲間達の団結力にも負けないくらいに。
立派に『異世界の勇者』としての役割を果たし、この世界の人々を守ろうと頑張っていた仲の良い本当に素敵なチームだったんだ。
それなのに……女神教に騙されて、貶められて。
心に強いショックを受けたこのは様が、300年もの長い間、目覚めない深い眠りについてしまい。
ボク達、動物園の守護者の団結は見るも無惨にバラバラに砕けてしまった。
もう、あの頃のみんなは全員……生きていないけれど。この世界に唯一残されたボクは、みんなの分までこのは様をちゃんと守り抜かないといけないのに……。
ククリアの視界には、迫り来る6棟の巨大な黒いマンションが姿が映り込み。思わず、現実から目を背けてしまいそうになる。
「みんな……本当にごめんなさいなのです……」
ボクが不甲斐ないから、このは様をしっかりと守り抜く事が出来ずに、本当にごめんなさい……!
「……まったく、メリッサは相変わらずしょうがないなー。そんな風に自分一人で、すぐに何もかもを抱え込む性格をしてるから、自殺をしてこの世界から消え去ろうなんて考えてしまったんだろー?」
「…………えっ?」
ククリアは、自分の耳に懐かしい声が聞こえてきた事に驚き。思わず声を上げてしまう。
だって、その声は……絶対にあり得ないはずの、昔の仲間が発した声にあまりにもそっくりだったからだ。
””ズドドドドドーーーーーーン!!!””
慌てて目を開いて、真っ直ぐに前を見つめてみると。
ククリアの目の前には……。
大爆発を起こして、大きな炎に包まれている6棟の黒いマンションの光景が見えてきた。
急いで空を見上げると、大空には大きな翼を持った『赤いドラゴン』の群れが出現し。
空から地上を移動する黒いマンションの一団に対して、炎のブレス攻撃を吹きかけている。
それだけじゃない……! いつの間にかに周辺の地面からは、無数の『緑色の巨大カエル』の群れが沸騰した水の泡のように大量に湧き出ていて。
ククリアの目前にまで迫ってきていた敵の機械兵達を、カエル達が長い舌を伸ばしてパクパクと捕食しながら食べていく。
そして遠くの山からは、同じく『黒いヒョウ』の大群が出現し。敵の黒いマンションに目掛けて、地上から猛攻撃を加えているようだった。
「こ、これは……まさか……!?」
両目を大きく開けて、驚愕の顔をして前を見つめるククリアの前に。彼女がよく知っている、3人の見知った仲間達がいつの間にかに立っていた。
そう……彼らこそは、元動物園の勇者の守護者達。
赤魔龍公爵こと――デイトリッシュ。
緑魔龍公爵こと――ミレイユ。
そして黒魔龍公爵こと――ラプトルの3人組であった。
「な、何で……みんながここにいるのです!? みんなはもう、死んでしまったはずなのに……!」
「ハイハイ、もちろんあたしらはもう死んでるよー。でも、あたしの特殊能力を忘れちゃった訳じゃないだろうねー? あたしは分身体を使って、本体の代わりに敵と戦わせる事が出来る能力を持っているんだ。だから、万が一このは様の肉体に危機が及んだ時に備えて、他のみんなの分身体を、このは様の体の中に封印しておいたって訳なのさ!」
「分身体……? それじゃあ、みんなは……!」
「ああ。やっぱりもうとっくに死んでるよー。だけど、ほんの僅かな時間だけなら、生前と同じ能力を使える状態で戦う事が出来る。だから今からあたしらは、このは様の為に最後の力を使って、ここで大暴れさせて貰うつもりさ、ねえ、みんなー?」
「まぁ、きっと僕達が自由に動ける活動時間は……2時間くらいが限界だろうけどね」
「フン。それで十分だ。このは様の前で無様な姿は決して見せられん。今こそオレ達、最強の動物園の守護者の力を世界中に見せつけてやる時だぞ!」
ククリアには目の前に広がる景色が、まるで夢の中の光景のように見えていた。
だってそうじゃないか。死んでしまった動物園の守護者の仲間達が最後の最後に、まさかここに駆けつけてきてくれるなんて……。
そんな都合の良い展開がある訳が無い。これはきっと死ぬ前に自分が心の中で願った、空想の産物なのだと思い込もうとした。
だけど、ククリアの背中を……『ポン』と、ラプトルが優しく押してくる。
その感触は……決して空想などでは無かった。生身の肉体を持った温かい仲間の感触が確かにした。
「メリッサ。あんたはここで、このは様を守っていなよ。後の事はあたしらが全部終わらせてきてやるからさー」
ククリアの前に立った3人の最強の動物園の守護者達は、それぞれその場で戦闘態勢を整える。
「待って……ボクも、みんなと一緒に戦うから! また、みんなでこのは様の為に一緒に協力しようよ!」
「――フン。では、遅れをとるなよ! 行くぞ、女神教の不老の魔女達さえも震え上がらせた、オレ達最強の『動物園の4守護者』の力を見せつけてやるぞ!」
平原の上に倒れていた、冬馬このはが意識を失っている間に。
この日――約300年ぶりに再結成した、最強の動物園の守護者達が、コンビニの大魔王が生み出した黒いマンションの軍団に総攻撃を仕掛ける。
それは、あの女神教徒達でさえ恐れさせ。史上最も強いと噂された、伝説の最強軍団による攻撃であった事は間違いなかった。
コンビニの勇者が巨大コンビニ要塞を追いかけて、グランデイルの王都に向かっていた時。
世界各地に向けて侵攻を開始した、10棟の黒いマンション軍団との間に起きた大規模な世界大戦は……。
誰もが想像もしなかった、協力な援軍達の活躍によって見事に食い止められたのである。




