第四百七十七話 第二次コンビニ世界大戦
ミズガルドが引き連れてきた、バーディア帝国軍の所有する魔王遺物。黒い戦車隊の数は――合計で500台を超えていた。
帝国軍は森の中で整然と隊列を組み、後方に控えている戦車隊から一斉砲撃を行い。周辺地帯に接近してくる敵の機械兵達を寄せ付けない。
そして花嫁騎士のセーリスのロケラン攻撃と連携して、巨大な陸上戦艦と化した『黒いコンビニマンション』の軍勢に対して大攻勢を仕掛けていた。
「――彼方。敵の親玉は、あの6本脚を自在に動かして移動している巨大コンビニなのでしょう? 私達も敵の親玉を追いかけた方がいいの?」
「いや、ミズガルド……巨大コンビニ要塞は追わなくても大丈夫だ。あの要塞に接近し過ぎると、巨大なビーム砲を喰らう可能性があるからな。それをまともに喰らったら、帝国軍は大打撃を受けてしまう。だから世界各地に向けて動き出した、10棟の移動式コンビニマンションを撃破する事を優先して欲しい」
「分かったわ、じゃあそっちは私達に任せてね! 彼方は敵の親玉を倒す事だけに集中してくれていいからね!」
帝国の皇帝ミズガルドと、これからの作戦を話し合いながら。俺はようやく地面から体を起こして、一人だけの力で立ち上がる事が出来た。
上半身をゆっくりと回し、ちゃんと体が自分の意思で自由に動かせる事を確認する。
「ひゅ〜〜っ! 流石は『回復術師』の香苗だな。全身の骨がバッキバキに折れて、ほぼ瀕死状態だった俺をここまで完全に復活させてくれるなんて……マジで香苗がここに来てくれて助かったよ」
「どう致しまして、彼方くん。でも、まだ無理はしないでね。折れている骨の接合は済んだけれど、体から流出してしまった血液はまだまだ不足してるはずだから。本当はベッドの上で安静にして貰って、栄養のある食べ物を沢山食べて休んでいて欲しいくらいなんだからね!」
「ハハ……。そうだな。この戦いが終わったら、クラスのみんなとコンビニの鮭おにぎりや、肉まんをたらふく食べてゆっくり体を休める事にするよ。でも、すまない……。俺は今はアイツを追いかけて、全てを終わらせてこないといけないんだ!」
既に遠くに去ってしまった、巨大コンビニ要塞の方角を見つめて俺は目を細める。
体は何とか無事に回復出来たけど、依然としてコンビニの大魔王を倒す為の手段が見つかった訳じゃない。
『完全なる・コンビニ』の能力を持つアイツは、無敵装甲の巨大コンビニ要塞を自由に操り。体の周りに浮遊する黒い守護衛星から、大量のビーム砲を放ってくる。
まともに正面から向かっていっても、多分……今の俺じゃまたあっさりと瞬殺されて終わりだろう。
おまけに店長服の無敵ガード機能も全て失い、次にまともに攻撃を喰らったら、今度こそ即死は免れない状況だ。
けれど……それでも俺は、行かないといけない。
もう一人の秋ノ瀬彼方と戦って決着をつけるのは、必ず『コンビニの勇者』の俺じゃないといけないからだ。
ただ……今は巨大コンビニ要塞だけでなく。俺達が戦わないといけない相手は無数に増えていた。
コンビニの大魔王によって召喚された、あの黒くて巨大な移動式の『コンビニマンション』。
あんなにも凄まじい大きさがあるのに、まるで大型トレーラーみたいに床下に大きな車輪を沢山装備して。ゆっくりと大地を揺らしながら自走しているんだから、マジでタチが悪過ぎる。
あの10棟もある黒いマンションの侵攻も止めないと、グランデイル周辺国だけでなく。この世界のありとあらゆる街が攻撃されて、粉々に破壊されてしまうだろう。
「彼方。正直な所……私達、帝国軍の戦力だけじゃあの黒い建造物の全ては破壊出来ないと思うわ。ううん、それどころか一つ破壊するのも、やっとかもしれない……」
帝国の皇帝ミズガルドは、騎士として優れた剣術を持つだけでなく。皇帝としての理知的な聡明さも兼ね揃えているので、敵の戦力を正確に分析出来ているようだった。
例え花嫁騎士のセーリスがここに居てくれても、あの巨大コンビニマンションを全て同時に抑えるのはきついだろう。
しかも黒いマンションは、それぞれ別々の方向に向けて進軍している。そのうちの1棟だけに集中攻撃をかけて撃破しても、他の9棟のマンションがその間に全人類に対しての無差別攻撃を仕掛けてしまう。
だから例え10万人超える帝国軍がここに集結してくれていても、圧倒的にこちらの戦力が不足しているのが現状だった。
そんな意気消沈している俺の顔を見かねたのか、ザリルがいつもの胡散臭い笑い顔を浮かべて話しかけてきた。
「へっへっへ、旦那……! 今はこの世界に暮らす全ての人類にとっての存亡の危機なんですぜ? ここに援軍に駆けつけてきたのは、まさかバーディア帝国軍だけだと思ってたんですかい?」
「えっ……それはどういう意味なんだ、ザリル?」
「ほら、旦那! あっちの空を見てみて下さいよ! ちょうど別の援軍も駆けつけてきたみたいですぜ?」
ザリルが不敵に笑いながら、指をさす方向を一緒に見上げて見ると。
そこには遠くの空から小型の飛竜に乗って空を飛んでくる、大勢の騎士達の姿が見えてきた。
「――アレはまさか、カルツェン王国軍なのか? そしてドリシア王国の騎士団もやって来ているのかよ!?」
まだ遠目での確認だが、空を飛んでやって来た騎士達の鎧の色から所属している国の判別が出来る。
空を飛んできた騎士達は、青い鳥の羽が付いた鎧と、真っ黒い鎧を装備した騎士達だった。それはそれぞれ、ドリシア王国と、カルツェン王国に所属している騎士達である事を意味している。
大空を埋めくす飛竜騎士達は、前進している黒いコンビニマンションの側面に装備されたガトリング砲の対空射撃が届かないギリギリの距離から、弓や魔法による空からの攻撃を繰り返し。
巨大マンションの進軍を、少しでも食い止めようとしてくれているのが分かった。
「そんな……、世界中の国の騎士団がここに駆けつけてきてくれるなんて……。みんな、ありがとう。本当にありがとう……!」
ここに来て欲しいと、こちらから呼びかけた訳では無かったのに。
こんな遠くにまで、世界中の国々から騎士達の援軍が駆けつけて来てくれた事に。俺は本当に心の底から感動して、目からまた涙が溢れ出てしまう。
みんなが俺達に協力してくれる事は、本当に嬉しい。
でもだからこそ、きつく締め付けられるくらいに心が苦しかった。
帝国軍が10万人もの大軍勢で駆けつけて来てくれても、例え魔王遺物である戦車隊が500台揃っていたとしても。
そしてドリシア王国や、カルツェン王国から出発した飛竜騎士達が援軍としてここに来てくれたとしても……。
それでもまだ圧倒的に、敵のコンビニマンションの方が戦力は上回っている事を俺は理解しているからだ。
あの黒い巨大マンションに近づけば、側面のベランダに配置された5連装式のガトリング砲がゲリラ豪雨のような赤い弾丸の雨を降らせてくる。
そしてカマキリタイプの新型機械兵を内部で量産して、外に出撃させながら移動する巨大コンビニマンションは、この世界の騎士団が束になっても到底勝てない、無敵の陸上戦艦だ。
そんな化け物みたいな巨大マンションが、合計で10棟も分散して世界各地に向けて進軍を開始している。
例え帝国軍や、世界各地の騎士団が協力してあの移動する巨大マンションに攻撃を仕掛けたとしても。きっと返り討ちにあってしまう可能性の方が遥かに高い。
みんな、みんな殺されてしまう……。
ミランダ領の戦闘の時とは、比較にならないくらいの犠牲者や、騎士達の屍の山がここに生み出されてしまうだろう。
それだけ敵の戦力は、圧倒的にこちらの陣営よりも強いからだ。
せめて花嫁騎士のセーリスに匹敵するくらいの、強い味方の援軍が……あともう2〜3人はここに駆けつけてくれたなら。少しは現在の戦況も、違うものになったのかもしれないのに……。
「――そんなに心配をしなくても大丈夫だよ、カナタ。ここは僕に任せてくれないか?」
「え? その声は……もしかしてマコマコなのか!?」
声の聞こえてきた方を振り返ると。そこにはいつの間にかに動物園の魔王である『冬馬このは』こと、マコマコが大きな木の裏に体をもたれかけながら座っていて、その側にはククリアの姿もあった。
俺は急いで、マコマコ達のいる場所に駆け寄っていく。
「――マコマコ、ククリア、生きていたのかのよ!? マジで心配したんだぞ……!」
そばにまで近づいてみると。俺はすぐにマコマコの体に起きている異変に気付いた。
マコマコ体は、明らかにやつれて弱っているように見える。元々細くて白い体の持ち主だったけれど。今は皮膚が薄くなり、体の血管が青く浮き出てしまっているように見えていた。
綺麗な白髪の下にある理性的な顔も、短めな呼吸を静かに繰り返し。とても苦しそうにしているのが分かった。
そんな俺の心配そうに見つめる眼差しを察して、マコマコの隣にいるククリアが先にマコマコの状態についての説明をしてくれた。
「……コンビニの勇者殿、このは様は前回の戦いの際に自身の力を放出し過ぎて、体に無理が生じてしまったようなのです。長い間ずっと眠りにつかれていたので、きっと動物園の能力をいきなりフル稼働させた事への、反動が体に出てしまったのでしょう。ボクは、このは様にはしばらく休むようにとお願いしているのですが……」
今にも泣きそうな顔で、ククリアは心配そうにやつれたマコマコの体に寄り添っていた。
そうか……。やはり前回のソラディスの森の中の戦いで、マコマコは自身の体力の限界値を遥かに超えてしまっていたのだろう。
例え無限に動物達を召喚出来る魔王の力を手に入れているとはいえ。その力の解放し続けるには、大幅に自身の体力が削り取られてしまう、負の一面もあったのかもしれない。
「マコマコ、今は少し休むんだ。このままだと力の放出量が体の限界値を超えて、命の危険に晒されてしまうかもしれないんだぞ……!」
木陰で体を休めているマコマコに、俺は休養を取るようにと進言する。
だが……マコマコは微笑むようにしてこちらを見上げると。首をゆっくりと横に振って、俺とククリアからの提案を拒否してみせた。
「……カナタ? 僕以外に一体誰が、あの黒い10棟の戦艦の進撃を止められるんだい? 君も知っているだろう。例えコンビニの大魔王を倒しても、その力によって生み出された創造物は『魔王遺物』としてこの世界に残り続ける。つまりあの黒いマンションは必ず破壊しないと、いつまでもこの世界で災厄を振り撒き続ける事になるんだ」
マコマコの発した言葉は、全て事実だった。
例え俺が巨大コンビニ要塞を撃破して、もう一人の秋ノ瀬彼方を倒せたのだとしても。
既にこの世界を破壊する為に動き出した、あの10棟の黒い陸上戦艦は、コンビニの大魔王が消滅しても稼働し続けてしまう。
だから敵の親玉であるコンビニの大魔王を倒すという事と――動き出した10棟の黒いコンビニマンションを破壊する事は、同時に行わないといけないないんだ。
片方だけを破壊すれば、全てが無事に解決に至るという単純な話では済まなかった。
「僕が長い眠りについている間に、ラプトル達がこの世界の人々にかけてしまった『罪』を償う為にも、僕はここで最後まで戦う必要があるんだ。僕の事を心配して、この世界の人々に戦争を仕掛けた動物園の守護者達の行動は決して許されるものじゃない。でもだからこそ、僕はこの世界の人々の為に、持てる力を全て解放して最後の戦いに臨みたいんだよ」
体のやつれたマコマコは、ククリアに体を支えて貰いながらも。真剣な眼差しで俺の目を見つめてくる。
その熱い視線を確認して、俺はマコマコの覚悟を汲み取る事にした。
どのみち俺だって、一か八かの最後の大賭博にうって出るしかないんだ。
コンビニ店長服の無敵ガード機能は全て失われてしまったし。相手は俺よりも遥かに強い、レベル99のカンスト超えをした無敵のコンビニの大魔王だ。
俺だけ命を賭けて戦うけど、みんなには命を賭けないで欲しいなんて、そんな理屈はこの場では通らない。
今、この最後の戦場に集ったこの世界の全ての人々が、命懸けで自分達の未来を勝ち取ろうとしているんだ。
だから……俺もみんなの事を、ここに集まった全ての人々の力を信じる事にする!
「すまない、マコマコ、ククリア! みんなの事を頼む。俺は巨大コンビニ要塞を追いかける事にするよ!」
「うん。必ず魔王を倒してくるんだよ、カナタ! 僕はカナタならきっとやり遂げてくれると信じてるから」
「コンビニの勇者殿、このは様の事はボクにお任せ下さい。ご武運をお祈りしています!」
「彼方! 帝国軍は他の国の騎士団とも連携して、必ずあの黒い建物の進撃を止めてみせるから。だからこっちの事は全部任せてね! 私は魔王を倒した後の世界で、彼方の後見人を務めるって約束したでしょう? 絶対にみんなで生き残ってみせるから、安心してね!」
「旦那〜! オレは戦闘では役に立ちそうにないんで、ソラディスの森の方面にいるカルタロス王国や、グランデイル王国の騎士団との連絡役をさせて貰いますぜ! やっと全ての国の騎士団が団結して、共通の敵と戦う事が出来てるんです。きっとこの戦いが終わったら、世界平和はすぐ目前ですぜ!」
「私の旦那様ーーッ!! こいつらの世話は全部アタシに任せておきなー! マンションのガトリング砲を受けないように、内部に侵入して一つ一つロケランで爆破してきてやるよー! 全部終わったら、ご褒美のキスをまたしてくれよなーッ!」
俺はみんなに向かって手を振り。急いでグランデイル王都の方面に向けて走り出す事にする。
もう、決して後ろは振り向かない。
俺はみんなを信じて、みんなの力を頼る事にしたんだ。
だから今は――巨大コンビニ要塞の後を追おう。そして必ずこの俺の手で決着をつけてみせる。
5000年前の過去に、この世界に召喚されたもう一人の秋ノ瀬彼方の暴走を必ず止めて。この世界に蔓延る全ての過去の怨念やしがらみから、みんなが生き残る事の出来るたった一つの明るい未来を解き放つんだ。
もう魔王も、不老の魔女も、異世界の勇者も、この世界には要らない。
ただ世界中の人々が手を取り合って一つになれる。そんな平和で争いの起きない、明るい世界を必ずみんなと一緒に取り戻してみせる!




