第四百七十六話 終焉に堕ちていく世界の中で
「ハァ……ハァ……」
体中が覚醒して、熱い血流が一向に収まらなかった。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけだ……。俺はコンビニの大魔王が繰り出す攻撃の軌跡が『先に』見えていた。
いや、見えたというよりも……。複数ある未来の選択肢がショート動画のように、同時に俺の頭の中で再生されたという方が正しい。
俺は生き残るのに必死で、未来に起こる選択肢の中から、唯一自分が助かる事の出来る動きを真似して。
ギリギリのタイミングで、アイツの攻撃を避ける事に成功したんだ。
そんな俺の様子を見て。コンビニの大魔王はニヤリと笑いながらこちらにゆっくりと近づいてきた。
「……ほぉ。まさか俺の蹴りをかわせるとはな。まぐれだと思いたいが、レイチェルがお前は俺の知らない予想外な能力を隠している可能性があると言っていたからな。ここは一応、用心しておく事にするぜ」
アレだけ精神が逝ってしまっているような、イカれた態度を取っているくせに。コンビニの大魔王は戦闘面においては、かなりの冷静さを持ち合わせているようだ。
敵の予想外な動きを分析して、己の力の強さに溺れて相手を見下すような事はしないらしい。
コンビニの大魔王は改めて、俺から少し距離を取ると。俺の様子を見極めるように睨みつけた後で、再び助走をつけたクラウチングスタートの姿勢を取り。
距離の離れた位置にいる俺に対して、巨大コンビニの硬い床の上をチーターのように、全速力で駆けながら一気に詰め寄ってきた。
そして今度は、至近距離からの『蹴り技』ではなく。
鉄砲の玉のように速く強烈な力を込めた『右ストレートパンチ』を、俺の顔面に目掛けてお見舞いしてきた。
「――クッ!? 『遮断光の壁』ーーッ!!」
とっさに俺は、両手を前方にかざし。目の前に光の壁を展開して魔王の攻撃を防ぐ。
相変わらず、マジで凄まじい力だな……。こっちは全力で防御シールドを展開してるっていうのに、これじゃ足を後ろに伸ばして踏ん張るのがやっとだ。
もう一人の俺は、まるで俺の力の限界点を試すかのように。ニヤリと笑いながら、徐々に右手の拳に込めた力を上げてきていやがる。
「グウゥゥッ……!?」
やべ、また腕の付け根の部分に亀裂が入ったらしい。
真っ赤な血が腕を伝って、足元にゆっくりと流れ落ちているのが分かった。
「……おいおい、もう限界なのかよ? 大昔に見たアニメの敵キャラの台詞じゃないけどよ、俺はまだ自分の本来の実力の30%も発揮していなんだぜ? しかも今の俺を倒しても、最低あと第3形態くらいは変身する可能性があると思った方がいいと思うぜ!」
マジかよ……。流石に変身するのは冗談っぽいけど、3割以下の力でという部分は割と本当な気がする。
俺の体は次第に押されて、光の障壁を両手で張っている部分に。奴の渾身の一撃を込めた右手の指が重なり合い。
薄い光の壁ごしに、遥かなる時代を超えて。2人の同一人物である秋ノ瀬彼方の手が直接触れ合う事になった。
そして俺と大魔王の手が重なり合った、その瞬間に。
俺達の体には――電撃のような大きな衝撃が走る。
まるで全身にビリビリと、強力な電気ショックが流れたような感覚だった。
そしてそれは、俺だけでなく……コンビニの大魔王も一緒だったらしい。
2人とも同時に、その場に座り込み。頭を両手で押さえて苦しがり始める。
「グハッ……! 何なんだ……今のは?」
――これは、まさか『共鳴』なのか? 同一人物である2人の秋ノ瀬彼方同士が直接触れ合ったから? 一瞬だけアイツの頭の奥底にあった記憶が、ダムが決壊して逆流する水のように俺の頭の中に流れ込んできたぞ。
それは本当に僅かだったけれど。この世界に召喚されたばかりの過去の秋ノ瀬彼方が、人々に期待されながら。異世界で勇者として、冒険の旅に出た時の記憶がダイレクトに伝わってきた。
信頼出来る仲間達と共に旅をして、この世界で魔王退治の冒険に明け暮れていた頃の幸せな記憶……。
その時のコンビニの大魔王は、今の俺の同じように。コンビニの守護者や、クラスメイト達に囲まれて。
そしてその傍らには、恋人である玉木紗希がいて。何不自由無く、何も疑う事なく。異世界の勇者としての責任を全うしようと、純真な気持ちで頑張っていたんだ。
俺の目の前で、同じように頭を押さえていた魔王も。その表情には、不思議そうな顔色を浮かべていた。
「――今のは、お前の記憶なのか? ほんの少しだけだが……お前がこの世界で経験してきた旅の記憶と知識が、俺の頭の中に流れ込んできたぞ……」
しばらく自分の手のひらを見つめながら、瞬きを何度も繰り返すコンビニの大魔王。
だが……やがて魔王は、不意に笑う。
その表情には、今までに見た事が無いほどの邪悪な笑みが満ち溢れていた。
「フッフッフ。ティーナだって? この女はお前の恋人なのか? この金髪の小娘に関する記憶は、実に興味深いじゃないか……」
コンビニの大魔王は、真っ直ぐに俺の目を見つめながら話しかけてきた。
「他人の能力をコピーして、移植までする事の出来るお前の恋人のティーナ。そして不死者の能力を持つ倉持の力も利用すれば、一時的にだが『不死の能力』を他者に譲り渡す事が出来る。そうすれば……ゲートを超えて異世界に渡る事だって出来るじゃないかよ!」
『クックック……』と喉の奥から、笑いが無限に込み上げてきて止まらないといった様子で。
コンビニの大魔王はその場で、高らかに笑い続けた。
「俺とレイチェルは、既に異世界に渡る為の『座標』を自動数値化するツールの開発に成功している。そしてそれはおそらく、女神アスティアも同じだろう。だが『不死』の力だけは、どうしても手に入らなかった。なにせあのゲートは、使用して異世界に渡ろうとする者の命を奪い取るという――とんでも仕様になってやがるからな」
コンビニの大魔王の言葉に、俺は愕然とする。
薄々、予想はしていたけれど……。やはりレイチェルとコンビニの大魔王は、異世界に渡る為の『座標』を手に入れているという事らしい。
つまり女神アスティアも、コンビニの大魔王も。共に後は『不死の力』さえ手に入れば、それぞれ好きな異世界に渡る事が出来る状態にあるようだ。
「ハッハッハーー! 女神アスティアなんて、その不死の力を手に入れる為だけに、魔王種子を10個集める魔法研究を一万年も続けていたくらいだからな。俺もあわよくば、女神の研究成果を奪い取ってやろうと思っていたんだが……。お前の恋人であるティーナと、倉持をセットで手に入れれば。もう女神アスティアから、不死の研究成果を奪い取る必要は無い! いや、マジで最高過ぎるだろう! 女神の一万年に渡る研究なんて、何の意味があったんだよ……って話になるからな!」
高らかに笑い続けていたコンビニの大魔王は、ようやく目に正気を取り戻すと。
驚愕している床に倒れ込んでいる、俺の目の前にまで再び迫ってきた。
「お前のティーナは、俺の所有物にしてやる。なーに、安心しろよ! 俺達の見た目は全く一緒だからな。一緒にベッドを共にしても、気付かれたりなんてしないさ。レイチェルの作った『発明シリーズ』には、他人の精神を自由に操れる物もある。ティーナは俺のものにして、これからたっぷりと可愛がってやるよ。ハハハ。そうと分かれば、こんなクソみたいな世界ともさっさとおさらばだ! 跡形も残らないくらいに完全にぶち壊してやるよ!」
「何だと……!? お前一体、何をする気なんだ?」
卑しい浮浪者を見るような目つきで、俺の事を見下すコンビニの大魔王は……。その場でニヤリと笑い。空に手を広げて、大きな声で叫んでみせた。
「ハッハッハーー! 出でよッ! 『新型コンビニマンション【改】』よーーーッ!!」
””ズドドドドドーーーーーーン!!!””
空から巨大な黒い山のような大きさを持つ建造物が、連続で10個落ちてきた。
よく見れば……それは、あまりにも規格外の大きさを誇る黒い『コンビニマンション』だった。
合計で10棟にも及ぶマンション群の、その凄まじい重量の衝撃に耐えかねて。大地が悲鳴を上げるように大きく揺れて地震が起きている。
落下してきた10棟の黒いコンビニマンションの下には、コンビニ支店のように、超重量級の建造物を支える巨大な車輪が無数に装着されていた。
その巨大車輪を使用して、自らの力で前に向かって進む事の出来る黒いマンションは、自走式の改造が施された巨大な『陸上戦艦』とも呼べる状態になっている。
そして10棟の巨大な黒いマンションは、それぞれ別方向に向けてゆっくりと前進を開始し始めていた。
しかも黒いマンションは、入り口部分から大量のカマキリタイプの新型機械兵達を外に出撃させながら稼働しているようだった。
「フッフッフ。この世界に暮らす人間共の都市を全て破壊し尽くしてやるよ! 俺は異世界に渡って、そこで新しい『コンビニ帝国』を建国する事にする。そうだな、俺の故郷の日本に戻るのもいいかもしれないな。異世界コンビニの圧倒的な強さを見せつけて、この世に存在する全ての異世界を破壊し尽くしてやるんだ。ハッハッハ、マジで楽しい未来しか見えてこないよなッ!」
「な、何を……倉持みたいな、中二病全開のイカれた妄想を垂れ流してやがるんだよッ! そんなバカげた事は、この俺が絶対にさせる訳にはいかないッ!!」
俺は雄叫びを上げながら、白銀剣を振りかぶり。コンビニの大魔王に向けて突進していく。
だが……奴に接近を果たす前に、逆にカウンターの回し蹴りを喰らって。
俺の体はホームランバッターのバットで弾き飛ばされた野球ボールのように。巨大コンビニ要塞から遠く離れた大地にまで蹴り飛ばされてしまった。
強烈な蹴りを喰らって吹き飛ばされていく俺の体には、強い衝撃が走り。『パリン』と障壁が割れて壊されたような音が聞こえてくる。
おそらく……最後の一回だった、コンビニ店長服の無敵ガード機能が完全に破壊されてしまったのだろう。
これで俺の体はもう、二度と奴の即死攻撃に耐える事は出来ない。完全に残機を全て失った丸裸の状態にされてしまった。
コンビニの大魔王に蹴り飛ばされた時、さっきのように俺の目の前に黄色い蝶が出現し。一瞬だけ『未来が見える』……というような奇跡は起きなかった。
俺は愚かにも、また黄色い蝶が見える事に期待をして。その事に過信して。不用意にも奴の目の前にまで飛び込んでいってしまった。
きっと心のどこかで、朝霧がまた俺の手助けをしてくれるに違いないと思っていたのかもしれない。だが、朝霧は俺に力を貸してくれる事は無かった。
朝霧……何でなんだよ!? さっきのアレは絶対に、お前が俺に協力をして見せてくれたものなんだろう?
俺はもう、お前の求めるのは何でも与えてやると約束をするから! お前が望むのなら……濃厚なキスでも何でもするし。ティーナにも渡してなかった、俺の童貞をお前に捧げたって構わない!!
――だから頼むよ! アイツを……もう一人の暴走したコンビニの大魔王である秋ノ瀬彼方を、俺はどうしても止めたいんだ!
そうでないと……この世界の全てが、アイツに壊されてしまう。いや、この世界だけじゃない。
元の日本も、この世に存在する全ての異世界が、暴走したコンビニの大魔王によって、破壊されてしまうんだ!
だからお前の『未来予知』能力を俺に授けてくれ!
お前の全てを、俺に渡して欲しい! 俺とお前は『一つ』になる必要があるんだ。
そうでないと、あの最強のコンビニの大魔王には、決して打ち勝つ事が出来ないのだから……!
巨大コンビニから地上に蹴り落とされた俺の体は、途中で何度も生い茂る木にぶつかり。体をゴムのようにバウンドさせながら、地面に衝突して叩きつけられた。
強い衝撃で地面に打ちつけられた俺は、あまりの痛みでしばらく体を動かす事が出来ずにいた。
そんな生きた死屍状態と化した俺の真上を、無情にも再び移動を再開した巨大コンビニ要塞がゆっくりと通過していく。
コンビニの大魔王はもう、要塞の外に放り捨てた『ゴミ屑』である俺の事なんか、どうでも良いと言わんばかりに、最後のとどめを刺す事も無く。
一路――巨大コンビニ要塞を操りながら、グランデイルの王都方面に向けて進撃を再開する。
その絶望的な光景を、体を負傷した俺は地面の上に倒れながら、ただ見上げている事しか出来かった。
「クソ……ダメだ! アイツを王都方面に行かせる訳には絶対にいかないッ!!」
すぐに手を伸ばして、コンビニ要塞を追いかけようとしたけど……。
俺の体は、全く動かなかった。
どうやら両足の骨が、完全に折れているらしい。
それだけじゃない。きっと腰の骨や、肋骨も数本折れているのだろう。体を少し動かそうとするだけで、尋常じゃない痛みが全身に襲いかかってくる。
……そうだった。もう店長服の無敵ガード機能は既に3回分全て使い切ってしまったんだ。そんな無防備な状態で、あんなにも高いコンビニ要塞から真下の地上に向けて俺は落とされたんだ。
それはきっと高いビルの屋上から、真下に飛び降りたと同じくらいの衝撃があったに違いない。
地上に落ちていく途中、木の枝のクッションが沢山あったおかげで。少しはダメージが軽減したのだろうが……普通なら即死してもおかしくない程のダメージだ。
おいおい、冗談はマジでやめてくれよな。
これじゃ体を全く動かす事が出来ないぞ……。
アイツの……コンビニの大魔王の暴走をすぐに止めないと、大切なティーナの身が危ないっていうのに!
それだけじゃない、このままだと世界の全てが壊されて。俺達の住んでいた日本だって、破壊されてしまうかもしれないというのに……!
この世界の危機を救うはずの、肝心なコンビニの勇者は、全身の骨が折れて。ゴミのように地面の上に打ち捨てられて。
その場で指先一本さえ動かす事が出来ずに、敵が通過していくのを、ただ見上げている事しか出来なんて……。
自分のあまりの無力さに、目からは大粒の涙が勢いよくこぼれ落ちてきた。
こんな結末で『終わり』なのかよ……?
何も出来ない、戦う事も出来ない。
それがこの物語の主人公である、コンビニの勇者の『最期』だったのかよ。これがコンビニの勇者の物語の終盤に記されたラストページの内容なのかよ?
なぁ、頼むから答えてくれよ……朝霧。
以前にお前は、俺に教えてくれたよな?
本当の正しい歴史の中では、コンビニの大魔王がこの世界も、元の日本の世界も、全てを壊してしまう未来が待ち受けていたんだって。
でも、そんな最悪な未来を変える為に。俺に未来の出来事が分かる『仮想夢』を見せてくれて。お前はこの物語のラストを、俺達好みのハッピーエンドに書き換えようとしてくれたんだよな?
このままじゃ、何も未来は変わらないぞ……。
本来の結末通りに、コンビニの勇者の物語はバットエンドで終わってしまうんだぞ?
もう一人の俺は、きっとこの世界をめちゃくちゃに破壊し尽くす。既に動き出したあの黒い10棟のコンビニマンションは、世界中に向けて放たれてしまった。
大量のガトリング砲を装備して、無数の機械兵を量産する巨大な陸上戦艦と化した黒いコンビニマンションは、この世界に存在する全ての都市を破壊するまて進撃を止めないだろう。
そんな最悪な未来は……絶対にダメなんだ! この俺が認める訳にはいかない!
俺はもう一人の闇堕ちした秋ノ瀬彼方を倒して。ティーナを必ず守り通す!
だからこんな場所で、何も出来ずに。たった一人で朽ち果てて終わるなんて、絶対に嫌だ! そんな結末で終わったら、俺は死んでも死に切れないんだ……ッ!!
「彼方くん……」
遠くから、俺を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。
その声に誘われるようにして、俺の全身を優しくて温かな光が包み込んでいくのが感じられた。
――この優しい声は、一体誰なんだろう?
ティーナ? 玉木……?
それともまさか……朝霧なのか?
「彼方くん……大丈夫? 今、体の傷を全て治してあげるからね! そのまま安静にしていてね!」
優しい女性の声に誘われて、俺は目を覚ます。
目の前には、いつの間にかに『回復術師』の香苗美花がいた。香苗は俺の体に両手を当てて、体を修復する回復魔法の光を当ててくれていた。
「――えっ、香苗? どうして香苗がここに……?」
「よお、旦那! お元気ですかい? まぁ、どう見ても健康そうには見えませんけどね!」
「お前はザリル? そんな……どうして!?」
「私の旦那様ーーッ! ここはアタシに全部任せておけよなー!! 雑魚どもは、アタシのロケランでぶっ飛ばしておいてやるぜー!」
近くにいるのは、香苗とザリルだけじゃなかった。
俺の目の先には、花嫁騎士のセーリスも立っていて。セーリスは白いウェディングドレスのスカートを風になびかせながら、周囲に群がってきている敵の機械兵達と戦ってくれている。
そして、俺にはよく聞き覚えのある。誰よりも俺が頼りにしている、海賊のように力強い声色をした女性の声も聞こえてきた。
「皆の者、砲撃を開始せよーー!! 何人たりとも、コンビニの勇者の側には、決して敵を近づけされてはならぬぞッ!!」
『『おおおおおーーーーッ!!!!』』
沢山の真っ赤な鎧を着た騎士達が、大声を上げながら森の中を突進していく。
それは本当に、凄まじい人数だった……。しかも赤い騎士達の背後には、轟音を鳴り響かせながら、大量の黒い戦車隊も一緒に行軍しているようだ。
ここにいるのは、まさかバーディア帝国軍なのか? そんな……遠い帝国にいるはずのみんなが、どうしてここに急に現れたんだ!?
地面に倒れている俺の元に。帝国軍の騎士達の中から赤い髪をなびかせた、とんでもない美人の女騎士さんが、大急ぎでこちらに駆け寄ってくる。
そしてその赤髪の女性は、全身を負傷している俺の手をを大切そうに握りしめて。目から大粒の涙を流した。
「彼方、良かった……! 無事で本当に良かった……。彼方に危害を加えようとする奴は、この私が絶対に許さないから! だから、もう安心して体を休めて良いんだからね、彼方!」
温かい手で俺の手を握りしめてくれたのは、帝国の皇帝ミズガルドだった。
「ミズガルド……どうしてここに?」
「まだ喋っちゃダメよ、彼方! そのまま安静にしていて。後の事は彼方の専属騎士であるこの私が、全部何とかしてみせるから! 私は彼方の為なら、どんなに遠い場所からでも一気にワープして駆けつけるんだからね!」
力強い言葉で俺を励ましてくれたミズガルドは、俺の目を見ながら、優しくウインクをすると。
その場でスッと立ち上がり。この場に駆けつけてきてくれた、合計で10万人近い数を誇る帝国軍の最精鋭の騎士達全員に向けて大声で宣言をする。
「――皆のもの! 我が帝国軍の精鋭10万の騎士団は全軍をもって、この世界の救世主であるコンビニの勇者をお守りする為に尽力するのだ! ここが最後の決戦場となる! 全員決死の覚悟でこの一戦に挑むのだ! 良いか、皆でこの世界の未来を守り通してみせるぞッ!!」
『『おおおおおーーーーッッ!!!!』』
ミズガルドの号令に呼応して。赤い鎧を着た凄まじい数の帝国騎士達が大声で雄叫びを上げる。
こんなにも大勢の騎士団が、本当にどうやってここに来たのかは全く分からなかった。
まるで『瞬間移動』をしてきたのかのように、いつの間にかにミズガルド率いる帝国軍は、突然この場に駆けつけてきてくれていた。
負傷して倒れていた俺の目の前に広がっている光景は、決して俺が見ている白昼夢でも、幻覚でも無い。
帝国領にいたはずのミズガルドや、香苗、ザリル、そしてセーリスのみんなが、間違いなくここに援軍に駆けつけてきてくれていた。
「おーーい、彼方ーーっ!! 俺も居るんだからな! せっかく助けに来たのに、俺だけアウト・オブ・眼中みたいなモブ扱いはやめてくれよなーーっ!!」
よく見ると、帝国軍の騎士達の中に混じって『裁縫師』の桂木真二もいた。
桂木は……まぁ、いっか。
せいぜい死なないように頑張ってくれよな。
「うぉい、彼方! 何だよその目は! 俺もめっちゃパワーアップして、ちゃんと戦闘が出来る頼れる勇者になってるんだから、マジで期待しておけよなっ!」
「悪い、悪い、桂木も来てくれてマジでありがとうな! 敵は強敵だから、油断して命を落とさないように気をつけてくれよな!」
「おう! 任せとけって! 花嫁衣装のヤンキー娘の後にピッタリとついていくから俺は大丈夫だぜ! ちゃんと自分の身は自分で守ってみせるからなーっ!」
久しぶりに元気なクラスメイトの桂木の声も聞けて。俺の両目からは、もう一度大きな涙がこぼれ落ちてきた。
でもそれは……決してさっきのように、自分の無力さが情けなくて、悔しかったからではない。
絶望的だった状況に、全く想定していなかった希望の光が差し込んできて。
俺はもう一度だけ、ここにいるみんなと共に。また……アイツと。もう一人のコンビニの能力を持つ、暴走したコンビニの大魔王と化した秋ノ瀬彼方と。
今度こそ、本当の意味での最終決戦に望む事が出来るからだった……!




