第四百七十五話 魔王に対抗する能力
「ハッハッハーーッ! お前の低いコンビニレベルじゃ、コンビニ店長服の無敵ガード機能を使用出来る数は、合計で3回が限界だろう? さっき2回削ってやったから、次がラストの1回って訳だよなッ!」
コンビニの大魔王の右足が、空を切り裂く『黒い剣』と化し。凄まじい速度で、俺の頭上に振り下ろされる。
とっさにロングコートを硬化させて、防御態勢を整えようとしたが……ダメだ、間に合わないッ!
ここでコンビニ店長服の、最後の無敵ガード機能を削り取られてしまったら……。もう俺の体は丸裸も同然の状態にされてしまう。
ただの踵落とし攻撃だけで、こんなにもあっさりと生死の境にまで追い込まれてしまうんだ。
最後の無敵ガード機能を破られたなら、今の俺には最強のコンビニの大魔王の攻撃を防ぐ手段はもう、何も残されていないだろう。
そうなれば本当に俺の命は、ここで『終わって』しまう。この世界の未来も、大切な仲間達の命も、何もかも救う事が出来ずに。
こんな所でコンビニの勇者の物語は、終了してしまうというのかよ……!
そんな俺の必死の焦りを、全く意に介する事なく。
黒い剣と化したコンビニの大魔王の鋭い右脚が――無慈悲に俺の頭上に振り下ろされる、その直前に……。
コンビニの大魔王の側面から、奇襲攻撃を仕掛けようと決死の突撃を敢行する人物が割り込んできた。
「――おのれぇ、よくもエクレアを……ッ! 大切な仲間の命を奪った報いを受けて貰うぞ、コンビニの魔王よ! 必殺――『銀色槍閃光』――ッ!!」
それはまさに間一髪、ギリギリのタイミングだった。
俺の頭上にコンビニの大魔王の右足が振り下ろされる寸前で――魔女のオペラが銀色の長い槍を回転させながら、俺達の間に突っ込んできた。
「チィッ……! 横槍の乱入って訳かよ。ま、俺にはその程度の攻撃は全然効かないけどな!」
振り下ろしていた右足の動きを、器用に軌道修正して。大魔王は魔女のオペラの必殺の一撃を、華麗に蹴り飛ばして防いでみせた。
だが……オペラも、その場から一歩も退いたりはしない。臆する事なく決死の覚悟で、銀色の槍を何度も何度もコンビニの大魔王に向けて突き立て続ける。
「エクレアの仇だ、覚悟するが良い! 我とエクレアは千年以上もの長きに渡って、共に不老の人生を歩んできたかけがえのない仲間だったのだ。だからエクレアの死は決して無駄にはせぬ。ここで必ずお前を仕留めて、女神様の命を守らせて貰うぞ! コンビニの魔王よ!」
「ハァ、今……何て言いやがった? 千年以上だって? お前、まさか女神教に仕える不老の魔女なのかよ?」
オペラの叫びを聞いた途端に、コンビニの大魔王の顔色が急に激変する。
それまでの半笑いの表情が消失して。まるで悪鬼のような鋭い目つきで、乱入者であるオペラを睨みつけた。
そして体を半回転させて、完全に標的を俺から目の前に迫ってくる魔女のオペラに切り替えて、ロックオンする。
「フン。女神教のゴミ虫共と、薄汚れた罪人である魔女どもは1匹たりとも生かしてはおかないッ! この俺が必ずお前達全てを、この世界から滅してやるッ!」
オペラの槍の攻撃を華麗に受け流していた右足が、急に蛇のような不規則な動きに変化する。
それはまるで、スペインの闘牛士が華麗に操る細剣のように。素早い身のこなしで槍の攻撃をかわしながら、コンビニの大魔王は足先で『Z』の文字を刻み込むと。
銀髪長身の魔女であるオペラの体を、瞬時にしてバラバラに切り裂いてみせた。
「……うぅ……。女神……さ……ま………」
仲間のエクレアの死に方と同じように。首を切り落とされたオペラは、その場に倒れ込み瞬時に絶命した。
だが……相手が確実に死に絶えたのを、その目で確認したにも関わらず。
コンビニの大魔王の顔には、まだ恐ろしい程のドス黒い殺気が漂い続けている。
そこには俺を相手にしてた時の余裕や遊びは全く無い。この最強の魔王は女神教の魔女を殺す時だけは、一切の手加減無しで『本気』で相手を殺しにいっていた。
やはりコンビニの大魔王の精神の根底には、女神教徒や、この世界にいる全ての人類への復讐心が大きな土台となって蓄積されているらしいな。
悲しい事には……その元凶となった原因。
なぜ女神教や人間達をこれほどまでに憎み、恨んでいるのかという動機となった記憶。
彼の大切な恋人であった玉木紗希を、公開処刑されてしまったという動機の部分の記憶だけがレイチェルによって消去され。
この世界の人類全てに復讐するという、行動目的だけが頭の中に焼き付いてしまっているのだろう。
つまり今のコンビニの大魔王の精神は、目的と理由が完全には一致せず。チグハグな状態のままになっている。そしてただ復讐する事だけを目的とした、機械的な『怪物』と成り果ててしまっているんだ。
もしもそんなコンビニの大魔王が再び、恋人である玉木の記憶を呼び戻す事が出来たなら。
悲しみに取り憑かれて復讐鬼となった彼を、止める事が出来るのだろうか……?
だが……5000年前のコンビニ大戦においても。もう一人の秋ノ瀬彼方は、全く恋人の玉木の事を思い出す事は無かったという。
だからこそ、コンビニの大魔王の暴走を止める為に。当時の玉木紗希は女神教の力を借りて、枢機卿となり。自分の大切な恋人に戦いを挑んだくらいだからな。
例え俺が枢機卿と共に、復活したコンビニの大魔王と戦ったとしても。レイチェルによって消された恋人の玉木の記憶が彼の頭に蘇るという可能性は、限りなく低いのかもしれなかった……。
乱入してきたオペラを、あっさりと殺害したコンビニの大魔王は……。床に転がるオペラの死体を、地面に放り捨てられた空き缶のように遠くに蹴り飛ばすと。
再び顔に余裕の笑みを浮かべながら、俺のいる場所にゆっくりと近づいてきた。
「……これで残っているのは、お前だけみたいだな。俺はさっさと、女神アスティアを殺しに行かないといけないんだ。だからもう、遊びは終わりだ。ここできっちりとお前にとどめを刺させて貰うぜ!」
コンビニの大魔王は、その場で再び風を切るように回転すると。右足を長く伸びした全力の回し蹴りを、もう一度俺の顔に向けて放ってくる。
この一撃だけは、絶対に受ける訳にはいかなかった。
……でないと俺の首も、さっきのオペラと同じように。黒い剣のように鋭い切れ味を持つ、コンビニの大魔王の強烈な回し蹴りによって軽々と切断されてしまうからだ。
「うおおおぉぉッ――『遮断光の壁』ーーッ!!」
両手の先から『白銀剣』の全エネルギーを大放出させ。
俺は自分の体の周囲に、光の球体シールドを形成して。コンビニの大魔王の蹴り技を、ギリギリのラインで受け止める事に成功する。
だが……全身の骨がバラバラに砕け散ってしまいそうな、強烈な痛みと激震が体中に走った。
それほどまでに、勇者レベル99の上限を超えて。無敵の魔王となった元コンビニの勇者である、もう一人の俺の攻撃力は凄まじい。
あまりの衝撃の強さに、両手の付け根部分からは真っ赤な血が噴き出してくる。
それでも、ここであっさり殺られる訳にはいかない。
例え全身の骨がバラバラに砕けようとも。この攻撃だけは、絶対に防ぎきらないといけないんだ……!
「フッフッフ。そんな餃子の皮のみたいに薄い光の障壁で、本当に俺の攻撃が防ぎきれるとでも思ったのか? 俺はこの世の全てを超越した能力、『完全なる・コンビニ』を手に入れた男なんだぞッ!」
コンビニの大魔王の両肩に浮かぶ黒い守護衛星が、再び分裂して無数の黒い球体を空中に生み出す。
そして光の障壁で必死にガードしていた俺の体に向けて、黒い球体は全方位から容赦なく無数の白いレーザー砲を発射させてきた。
合計で100本を超える、白いレーザー砲の一斉射撃を浴びて。俺が必死に自分の体の周りに展開していた光の球体シールドは、あっという間に破壊されて粉々に霧散してしまう。
「バーカ! 勇者レベルがカンストしてるこの俺の力に、ヒヨッ子勇者のお前が対抗出来る訳が無いだろうが! さっさと無様に死んで、首をへし折られてゴミ虫みたいに床に這いつくばりやがれよ!」
光の障壁を突破したコンビニの大魔王が、俺の目の前に飛び込んできて。再び黒い剣のように、鋭利な右足による踵落とし攻撃を繰り出してくる。
それは、今までで一番速く。そして最も鋭い切れ味を伴った、本気のとどめの一撃だった。
光の障壁を打ち破られた俺には、もう……敵の攻撃を食い止める手段は何も残されていない。
ここでコンビニ店長服の最後の無敵ガード機能を消費させられたら、後には絶望の未来しか待ち受けていないのは間違いない。
「クッソ……! 何か、何か方法はないのかよ! コンビニの大魔王の攻撃を防ぐ事の出来る方法は、何も俺には残されていないのかよッ!?」
「ハッハッハ! 『完全なる・コンビニ』はこの世界で最も優れた、コンビニの勇者だけに許された万能なる能力なんだぞ? お前みたいな半端者のコンビニ勇者には、この俺に対抗出来る術なんて何も無いに決まっている!」
せっかくオペラがさっき、一瞬だけ時間を稼いでくれたというのに。これじゃ……さっき上映された映画のワンシーンの既視感でしかない。
ただほんの数分だけ、俺の処刑時間が延長されただけで。結局は……何もかもが同じだった。
コンビニの大魔王の右脚が、夏の砂浜のスイカ割り大会のように。真っ直ぐに俺の頭上に振り下ろされ。
俺はまたコンビニ店長服の無敵ガード機能を無惨に削られて、そしてすぐに命を落としてしまうだろう。
俺の視界には、死に際にだけ見えるという走馬灯の映像のように……。コンビニの大魔王の脚の動きが、コマ送りのスローモーションで見えて。
そしてなぜか視界の奥の方に――この場にはそぐわない『黄色い蝶』が飛んでいるように見えていた。
……えっ? 黄色い蝶だって?
この感覚は一体、何なんだ……? 俺の視界の中に、同時に3つの動きをする、約1秒先の俺の『未来の動き』がスローモーションで流れ込んでくる。
敵の攻撃を避ける為に、右に体を動かした未来と。
敵の攻撃を避ける為に、左に体を動かした未来。
その2つの可能性の未来の中で、俺の体はコンビニの大魔王が放つ右脚の攻撃の直撃を受けてしまっている。
そして唯一、体をわずかにその場で半回転させた未来だけが……。敵の攻撃をギリギリのタイミングで避ける事に成功していた。
それら3つの未来の可能性を示したスロー映像が、まるでショート動画のように俺の脳内で同時に再生され。これから起きる未来で、俺がどういう行動を取るのが正解なのかを知らせてくれている。
俺はとっさに、自分が唯一生存の出来る正解ルートのモーションをなぞるように、その場で体を半回転させて。
コンビニの大魔王が振り下ろしてきた右足の攻撃を、ギリギリのタイミングでかわす事に成功した。
「何だと……!? 俺の攻撃がかわされたのか? お前、今……一体何をしたんだ!?」
とどめの一撃として繰り出した、必殺の攻撃を俺が避けるなんて。コンビニの大魔王は1ミリたりとも想定していなかったに違いない。
だから激しく動揺して、動きが止まっていたコンビニの大魔王の側から俺はすぐに離れて。いったん距離を取り、遠くにまで逃走する事が出来た。
「ハァ……ハァ……ハァ………」
マジで、ギリギリだった。本当に攻撃を受ける直前のほんの僅かなタイミングで、あの黒い剣のような右脚の踵落としを避ける事が出来た……。
「今のはまさか……『未来予知』の一種なのか?」
それは今までに、全く経験した事の無い感覚だった。
仮想夢を見ている時のように、深い眠りについて意識を失っていた訳ではない。
ちゃんと現実に起きていて。実際に意識のある状態のまま、俺は直近の未来で起きる数種類の未来の可能性をまるでショート動画のように。同時に脳内で再生させて見る事が出来ていた。
そしてそれらの選択肢の中から、俺が生き残る事の出来る、唯一の選択肢となる未来の行動を選び取り。
俺はアイツの攻撃ギリギリでかわして、何とか生き残る事に成功したんだ。
「あの時、確かに俺の視界の先には『黄色い蝶』が飛んで見えていた。……という事はまさか、これは『朝霧冷夏』が俺に見せてくれた、未来予知の能力という事になるのか?」
正直、確証は全く無い。
でも、それしか今の俺には想像出来なかった。
もしこれが本当にそうなのだとしたら。朝霧は未来を擬似体験出来る、仮想夢を俺に見せるのではなく。
現実のリアルタイムを生きている俺の脳内に、数秒先の未来に起きる出来事を、同時にショート動画でシュミレート体験させて。
俺に自分が取るべき、最善の未来の選択肢を事前に選ばせてくれた……という事になる。
そんな奇跡のような能力が実現するのなら、この絶望的に戦力差のあるコンビニの大魔王との戦いにおいて。
唯一、魔王と対等に戦う事の出来る、最後の『切り札』となる新能力を……。もしかしたら朝霧が、俺にもたらしてくれたのかもしれなかった。




