第四百七十四話 黒い守護衛星
「あ、ぅ……そんな? どうして、お前が……!?」
――あり得ない! なぜ、もう一人の俺……この世界の過去に召喚された、コンビニの大魔王の『秋ノ瀬彼方』がここに居るんだよ?
コンビニの大魔王の肉体は、過去のコンビニ大戦の時に、当時の暗殺者の勇者であった玉木紗希によって致命的な傷を受けて崩壊したはずだ。
だからコンビニの大魔王は精神体となり。この世界でひっそりと生き残り続けてたって話じゃないのかよ……。
だから5000年もの時間をかけて、自分の新しい肉体を再び手に入れる為に。異世界召喚の儀式を利用して、同じ日本から『この俺』を、わざわざもう一度呼び寄せたんだろう?
それなのに……そのコンビニの大魔王がどうして、自分の肉体を既に手に入れた状態で、完全復活を遂げて俺の前に出現しやがるんだよ!
そんなのは、話が違うにも程がある。まさかここでもう一人の俺とご対面するイベントがあるだなんて、あまりにも想定外すぎる。
そんな突発イベントが待ち受けているなんて、俺は誰からも、あの朝霧からでさえも、何も聞かされていなかったぞ……。
「……クックック、おいおい、あまり間抜け面を晒すなよな。お前は俺と全く同じ外見をしていやがるんだ。そんな顔面が真っ青になった、幽霊みたいな表情見せられたら。この俺の顔は、そんなにも青白いオタク顔をしていたのかと、ショックを受けちまうだろうが! 元々、俺は自分の顔に自信が持てないでいたのは、よく知っているだろう? せめて普段から表情には覇気を伴わせるように心がけておけよな」
「ふざけるな……! お前は、いや、コンビニの大魔王となったお前の肉体は死んでいたんじゃないのかよ! 精神体だけになった状態で生きながらえていたはずのお前が、どうして新しい肉体を手に入れてるんだよ!」
「――新しい肉体? ああ、これの事か? これはいわゆる『人造人間』って奴さ。ほら、俺達の故郷のアニメでもよく出てきただろう? 限りなく人間の肉体を忠実に再現した、最新バイオテクノロジーを駆使した有機サイボーグって奴さ。この体はレイチェルが作ってくれたんだけどな。俺がオンリーワンの初号機で、これから彼方2号機とか、3号機が出てくるような予定は今の所は無いから安心していいぜ!」
そんな……新しい肉体をレイチェルが作っだって?
という事は、魔王の墓所を守っていた黒い騎士のアイリーンと同じように。体を半分サイボーグ化させたような存在って事になるのか?
いや、この場合はおそらく……秋ノ瀬彼方という存在の肉体を、一から全て再現して作り上げたのだろう。
だってコンビニの大魔王の肉体は破壊されて、体の崩壊を防ぐ為に異世界に飛ばしたという話を俺は聞いているからな。
つまりあの肉体は、レイチェル特製の『夜鍋をして作ってみました』シリーズの最高峰。究極の手作りプラモの完成品という訳なのかよ……!
「ハッハッハーーッ! いや、マジで肉体があるって最高だよな? 美味いものを食うにも、最高の快楽を味わうにも自分の肉体があってこそだぜ。本当は5000年も待ち続けた、フレッシュなお前の体を手に入れたかったんだけどよ。もうそんなのは、どうでも良くなっちまったのさ。なにせ最高のオードブルが食卓に用意されてるんだ。女神アスティアに、暗殺者の勇者に、そしてもう一人の俺。早く食ってやらないと、勿体無いと思ったのさ!」
復活したコンビニの大魔王は、無駄に指をポキポキと鳴らせて。その場でストレッチと準備体操を始めた。
どっちかというと陰キャ寄りの性格だった俺が、無駄にプライドの高い倉持方面に偏って。尊大で陽キャな性格に変わり果てると、こんなにも痛々しいキャラに成ってしまうのかと……。
俺は目の前にいる、もう一人の俺の姿を見てショックを受けてしまう。
マジで外見が全く同じだけに、勘弁して欲しい気持ちでいっぱいだ。
ずっと隠していた親戚や家族の中にあった恥部を、世間様に知られてしまった時のような、いたたまれない気持ちに陥ってしまいそうだった。
「よーし、じゃあ早速行くぜ! さっさとお前を倒して、俺は女神をぶち殺しに行かないといけないからな。逃亡は絶対に許さない。女神は座標を使って『異世界』に渡るつもりなんだろう? そうはさせるかよ! この俺の顔に泥を塗っておいて。自分だけ目標を叶える為に、とっととこの世界から逃げ出すなんてのは認められないからな!」
「待ってくれ! お前はあのレイチェルによって利用されてるだけなんだ! お前の大切な恋人である玉木が殺害されたように見せかけ、お前の心を絶望へと追い込み。不老の魔王へと変貌させたのは、お前の心の中に潜んでいたレイチェル自身なんだぞ!」
「……ハァ? 玉木、誰だよそれ? 俺の恋人は、昔からずっと俺の帰りを実家で待ち続けてくれている愛猫のミミだけだったぜ? 俺に恋人なんている訳がないだろう? そんなのは、お前が一番良く知ってるんじゃないのかよ、兄弟?」
そう言うや、否や――。
コンビニの大魔王は、陸上の短距離走の選手のように。硬い床の上でクラウチングスタートを決めるポーズを取ると。いきなりこちらに向けて全速力で走り抜けてきた。
「うおおおおーーーッ!! 必殺スーパーコンビニ・ミラクルキーーック!!」
速い……!? このスピードは、あの枢機卿と同じくらいの素早さがあるというのか?
事前情報の全く無かった、まさかのコンビニの大魔王の出現。そしてもう一人の秋ノ瀬彼方が、一体どんな攻撃をしてくるのか予想も出来ていなかった俺の頭上に――。
まるで鋭利な剣を振り下ろすかのように。赤い髪のコンビニの大魔王は、右足を思いっきり頭上に振り上げてからの、強烈な『踵落とし』攻撃をいきなり仕掛けてきた。
そうだった……! 最近の俺は勇者レイモンドから継承した『白銀剣』ばかりを戦いで使用していたけれど。
それ以前はずっと、コンビニの勇者の得意技でもあった『脚技』を使った格闘技術を常用していたんだった。
つまりコンビニの大魔王は、以前の俺の攻撃スタイルの進化版。長い脚を自由自在に動かす事の出来る、超接近戦スタイルの格闘技を得意とする戦闘方法を使用してくるって訳なのかよ……!
「――『白銀剣自動防御』――!!」
俺の右手から光速のスピードで伸びた光の剣が、コンビニの大魔王の振り下ろしてくる右足の攻撃をガードしようと試みる。
だが……。
「――グゴッッ……!?」
頭上からハンマーのように振り下ろされた大魔王の右足は、自動防御機能を発動した光の剣の防御シールドをあっさりと貫通し。
そのままダイレクトに、無防備になった俺の頭に黒いシューズの踵部分を直撃させてきた。
硬い鋼鉄の棒で、バスケットボールを体育館の床に思いっきり打ちつけたかのように。
俺の頭は巨大コンビニ要塞の外壁に強く打ちつけられ、あまりの衝撃に重度の脳震盪を起こしてしまう。
「…………う、ぐっ……!!」
とっさに両手で頭を押さえ込むが、あまりの痛みと衝撃で気絶してしまいそうだった。
スイカ割りのように頭が破裂しなかったのは、きっとコンビニ店長服の無敵ガード機能が発動してくれたからだろう。……でなきゃ、俺の頭はとっくに粉々に砕け散っていただろうからな。
「……おおっと、なかなかナイスな蹴り具合だったな? もしかしてアレか、コンビニ店長服の無敵ガード機能を発動させたのか? 自分が服にガードして貰う事はあっても、相手がそれを発動しているのを味わうのは初めての経験だから、マジで感動しちまったぜ!」
「……クッ……こ、の、野郎……!」
俺は天を仰ぐように、上を見つめるが。そこには既に、2回目の蹴りが俺の頭上目掛けて振り上げられていた。
もう一人の俺であるコンビニの大魔王は、マジで手加減無しでこの俺の事を殺す気マンマンらしい。
「コンビニマスター様ぁ〜〜!! この、赤い髪の偽物めっ!! これでも喰らいやがれなのですぅ〜!」
とっさにパティが三色団子の槍を突き出して、コンビニの大魔王に向かって攻撃を加える。
そしてその攻撃に便乗するように、銀髪の魔女オペラも長い槍を大魔王に向けて同時に突き出してみせた。
「おおっと、今度はパティかよ!? お前、見た目が若いな〜! 俺に仕えていた方のパティは殺されちまったって聞いていたけど。まさかそんなにピチピチした、若い姿のパティにまた会えるとは思ってなかったぜ! っていうか、俺は元コンビニの勇者なんだぞ? そんな俺に守護者であるお前が槍先を向けていいのかよ?」
「お前はパティめのお仕えする、本物のコンビニマスター様とは別物の存在なのです! パティめのお仕えしているコンビニマスター様は、そんなに派手な赤い髪はしてませんし、もっと童貞臭い弱者男子の匂いがプンプンしますのですぅ〜! お前みたいに無駄に高慢ちきで、オラオラ系のオーラ全開な陽キャじゃないのですぅ〜!」
「ハッハッハ! 魔王がオラついて何が悪いんだよ? 俺は全てを手に入れる事の出来る、選ばれた『エリート勇者』様なんだぞ? コンビニはこの世の全ての能力の頂点に君臨する、唯一無二の最強の能力なんだからなッ!」
ぐっ……俺の頭の中でずっと、時計の振り子のように揺れ続けていた脳細胞がようやく正常に稼働し始めてくれたらしい。
頭を押さえながら、まだぼんやりとする視界の中で俺は前方を見渡してみると――。
チョコミントの騎士のパティと、魔女のオペラの2人がそれぞれ長い槍を連続で突き出しながら。負傷した俺を守る為に、コンビニの大魔王に攻撃を加えてくれている姿が見えてきた。
「おいおい、何だよそのトロい攻撃はよッ! パティ……お前、まだレベルが全然低い状態のようだな! 俺に仕えていたパティは、もっと動きが俊敏だったぞ? そんなレベル3〜40程度の雑魚勇者に仕えてないで、この俺に仕えた方がいいぜ? 俺がいくらでもお前にチョコミントを食わせて満足させてやるからよ!」
「お前のチョコミントなんて、全然要らないのですぅ〜! それにパティはちゃんと有給もくれる、ホワイト企業で働きたいのですぅ〜! お前とあの悪玉のレイチェル様に仕えたら、きっとパティめはブラック労働をずっとさせられるに決まってるのですぅ〜!」
パティもオペラも全力で槍を突き出して、コンビニの大魔王を倒すつもりで攻撃を加えているのが分かる。
それなのに、赤い髪をしたもう一人の俺は……涼しい顔で2人の槍の攻撃をかわしていやがった。
それだけじゃない。恐ろしい事に、コンビニの大魔王はさっきから一歩たりともその場から動いていなかった。
軸足となる左脚だけで、自分の全体重を支え。振り上げた右足だけでパティとオペラの槍を巧みにさばいてかわしてみせている。
俺がまだ勇者として未熟なのはともかくとしても、パティはあの虚無の魔王を宿したアリスを一撃で葬ったほどの実力者なんだぞ?
オペラにしても、女神教の中で序列5位の強さを持つ実力者だ。それなのに、そんな2人が繰り出している槍の攻撃を、アイツは右足一本だけで余裕で防ぎきってしまえるのかよ……。
「フン。雑魚共が……! お前達にコンビニ店員の鉄の掟を教えてやるよ! いいか? 耳の穴をかっぽじって良く聞いとけよッ! コンビニ店員はなぁ……常にいかなる時も、絶対に閉店する事なく客の前に立ち。地域最大級の便利さを供給し続けないといけないんだよ! コンビニのレジ店員なら常に片足上げでレジ打ちをして、客に見えないで所で足腰を鍛え上げておきやがれよなぁぁぁッ!!」
コンビニの大魔王の右足が蛇のような俊敏な動きをして。三色団子の槍を持つパティと、銀色の槍を持つオペラの2人を思いっきり遠くへと蹴り飛ばしてみせた。
「コイツ……! どこの時代のコンビニ店員の話だよ! そんなブラックな掟が現代コンビニ経営で、成立する訳が無いだろうがッ!! これでも喰らって、消し飛びやがれ!! 必殺、『青双龍波動砲』ーーーッ!!!」
パティ達が遠くに蹴り飛ばされた瞬間を見計らって。俺はタイミング良く、両肩に浮かぶ銀色の守護衛星からレーザー砲を最大出力でコンビニの大魔王に向けて放った。
””ズドドドドドーーーーーン!!!””
至近距離からのレーザー砲撃だった為、俺の体は反動でコンビニの大魔王のいる場所から遠くへと吹き飛ばされてしまう。
凄まじい爆煙の立ち込める黒い煙の中で、注意深く俺は敵の様子を探ろうとすると。
――いた! コンビニの大魔王の奴……。
至近距離からレーザー砲を放ったのに、さっき立っていた場所から全く微動だにしていないのかよ。
それどころか先ほどと全く同じ姿勢で、片足立ちをしたままで体を固定させていやがった。
「そんな……?どうしてノーダメージなんだ!? 防御バリアーが張られているようには見えなかったぞ!?」
何か強力な障壁でレーザー砲が防がれた様子は無かったはずだ。それなのにコンビニの大魔王は微動だにせず、無傷のままでいる。
これは一体……どういう事なんだ?
バリアーで防がれてないとしたら、何が俺の放った最大出力のレーザー砲を弾いたんだ?
確か……ほんの一瞬だけ。アイツの体の周りから白い光が複数放たれたような気がしたけど。
もしかしたら、その白い光が俺のレーザー攻撃を防いだとでもいうのか……?
「――コンビニマスター様ぁ〜☆ ここは、このパティめにお任せ下さい〜! 今度は必殺、追撃の『クラシックプリン【超固め】連続落とし』なのです〜〜!」
先ほど蹴り飛ばされたパティが、いつの間にかに空中に大ジャンプをして。コンビニの大魔王の頭上の空に浮かんでいた。
そしてカチカチに固まった、超巨大な鋼鉄プリンを空から連続で下に落としていく。
その数は合計で10個を超える、凄まじい物量を伴うものだった。まるで頭上から10トン越えのトラックが連続で降り注いてくるような迫力がある。
パティからの奇襲を受ける格好になった、コンビニの大魔王は……口元だけニヤリと歪めると。
まるでハエを落とすかのような余裕の表情で、その場でゆっくりと両手を広げてみせた。
「フッフッフ……そんなモノで世界を統べるコンビニの王者の体に、傷一つでも付けられると思うなよ? 知るがいい。コンビニを支配する者は、全ての異世界を統治する資格のある最強の王者なのだという事を……! 真のコンビニマスターである、この俺の最強の必殺技を味わえッ!! 『完全なる・コンビニ』――!!」
「なっ……! 何だ、あの黒い球体は……!?」
コンビニの大魔王の両肩に浮かぶ、黒い球体が破裂して周辺に飛び散った。
それは小さな球体の群れとなり。まるで黒い翼を両肩から生やしたかのように、コンビニの大魔王の体の周囲に拡散していくと――。
大量の黒い『守護衛星』達が、一斉に白いレーザー砲を放ち。巨大プリンを空から落とそうとしたパティの体と、その体から放たれた鋼鉄製のプリンを……まるでハチの巣のように。無数の穴を開けて、全て空中で粉々に溶かしてしまった。
「パティーーーーッ!!!」
「ハッハッハ、仲間の心配をしている場合かよ!! この未熟者のコンビニ店長めがーーッ!!」
チョコミントの騎士のパティの体をバラバラに粉砕したコンビニの大魔王が、すぐさま床に倒れている俺の側にまで駆け寄ってくる。
俺はとっさにロングコートを硬化させて、自分の身を守ろうとしたが……。
”ドゴーーーーーン!!!”
またしても俺の体は、鋼鉄ハンマーで打ち砕かれたかのように。コンビニの大魔王の回転してくる右足の回し蹴りによって吹き飛ばされ。
全身の骨にヒビが入るような激痛を味わいながら、遠くの空の果てにまで蹴り飛ばされてしまう。
もしそのままだったなら、確実に俺の体は砕かれてしまっていただろう。
どうやら2回目のコンビニ店長服の無敵ガード機能が発動して、俺の体をギリギリで守ってくれたようだった。
「つ、強すぎる……ッ!? これじゃ、絶対に……!」
「ハーン? 俺が強いのは当然だろう? コンビニを統べる者が、世界を支配するんだよ! そう……俺は最強のコンビニ店長なんだからなッ!!」
蹴り飛ばされた俺と同じ速さで、コンビニの大魔王は加速をしながら追いかけてきていた。
そして俺の体が鋼鉄の床に落ちるよりも早く、再び右足を振り下ろして。あらゆる物を粉砕する、高速スピードの踵落としを繰り出してきた。
その恐怖の光景を見て、俺は瞬時に……悟る。
この最強のコンビニ店長である、コンビニの大魔王には――今の俺では、絶対に勝てないのだと……。




