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Zillion Ray'N  作者: Lynx097
11/27

Act11:たぶんワンパンで死ぬから、気を付けて


 あくとじゅういち。





 とある日のこと。


 俺が『始まりの街』にある私設工房『たくあん庵』を訪れると、店主はカウンター奥の定位置に座って、なにやら悩まし気な顔をしていた。

 カウンターに頬杖を付き、ウィンドウを開いてなにかを眺めているようだ。


 位置取り的に俺が入ってきたことがわからないはずがないので、ヤツはこちらに一瞥をくれて、ウィンドウに視線を戻した。

 今更礼儀がどうこう言うような仲でもないので、俺は軽く挨拶するにとどめる。



「よう」


「おー」



 気のない返事をしつつ、視線は相変わらずだ。

 流石に気になるので、俺はカウンターに歩み寄った。



「なに見てんだ?」


「ああ。これなんだけど」



 [†TAKUAN†]は特に隠すでもなく、至極あっさりと教えてくれた。

 なにを熱心に見ていたかと思えばSS(スクリーンショット)だったらしい。

 SSのアルバムなんかは通常、例えウィンドウを展開していても持ち主以外には画像が認識できないようにプロテクトされているのだが、ヤツが操作をすると設定が変わってアルバムが『鑑賞モード』で展開される。

 平たく言えば、全方向から同じように見える立体映像だ。

 カウンターの向かいに居る俺からも[†TAKUAN†]の見ていた画像が認識できる。



「電波メイドじゃねえか」


「うん」



 SSに写っていたのは『電波メイド』こと[アステリーゼ]の姿であった。

 だいぶ付き合いの長い俺のフレンドで、この工房の素材調達先の一人としてすっかりお馴染みの、あのジト目だ。


 そのジト目が、なんの冗談か花柄の可愛らしいビキニなんかを着て、自撮りのSSを撮ってきたらしい。



「なんでお前がこんなん持ってんだ」


「んー。なんか[アステリーゼ]さんからメールが来て、これが」



 添付されてた、と。



「いつのまに水着のセルフィーなんか送ってもらう仲になったんだよ。隅に置けねえな」


「本気でそう思う?」


「悪いが、微塵も思ってねえ」


「お前は極めて正しい」



 なんの脈絡もなくSSが送られてきたから、あんな悩まし気な顔をしていたのか?

 それはそれで不可解だ。

 あのジト目は電波だが、見た目は美少女だ。

 そんな美少女から水着のSSが送られてきたら、とりあえず狂喜乱舞して飛び上がって三回転くらいして、神棚に飾って拝み倒して、それからスッと真顔に戻るのがこの男の常だ。

 妙なものでも写ってんのか?と俺も目を凝らしてSSを観察してみる。



「普段からあの格好だし、あんま新鮮味もねえな」


「そうか?俺は普段見えない鼠径部と臀溝にロマンを感じるが」


「今あらためて、お前が気持ち悪いヤツだと思ったよ」



 どういうサービス精神なのか知らんが、なんかいっぱい撮ってきてくれたらしく、SSは一枚や二枚ではなかった。

 どれもこれも、水着の[アステリーゼ]がカメラ目線でピースしてる自撮りなわけだが、



「こうも見事にジト目だと、罰ゲームでやらされてるようにしか見えねえな」


「うん。なんかだんだん、嫌がるあの人を命令して屈服させてる征服感みたいなものまで錯覚してきてね」


「…………」


「いや待て、引くな[エッジ]。今のはまだ比較的ヤバくないほうの俺だ」


「ヤバいほうのお前は一生仕舞っておいてくれ。頼むから」



 SSの背景を見るに案の定『夢泡の天宮』のようだから、察するに水棲系の素材収集でも依頼したのだろう。

 俺はなんだかんだでまだ行ってないのだが、行かなくて正解だったかもと思い始めていた。


 もし昨日とかに『夢泡の天宮』を訪れていれば、かなりの高確率でこの電波とバッティングしていたであろうからだ。

 なにせ、フレンドなので同じ場所に居ることはリストを見れば即バレる。

 そしてアイツが絡んでこないはずがない。


 決して悪いヤツじゃないし、本質的には俺のフレンドにしては珍しいくらい(自覚アリ)に常識人ではあるのだが、なんというか親愛表現が独特過ぎて、とにかく疲れるのだ。



「結局、お前は何がそんなに気になってたんだ?」


「首輪だ」



 首輪か、となんとなく復唱する。

 考えるまでもなく[アステリーゼ]が常に身に着けている、ゴツイ首輪のアクセサリーのことだろう。

 無論、SSの彼女も水着だというのに当然のように首輪をしている。



「首輪の鎖があるだろ?」


「あるな」


「普段、あの鎖は彼女のとてもけしからん場所に挟まっていたわけだが」



 クソ真面目な顔でトンチキなことを語り始めた[†TAKUAN†]だが、俺はとりあえず聞くだけ聞いてやることにした。



「あの鎖の末端がどこに繋がっているのか…………それが俺の頭を悩ませていたわけだ」


「ナルホド」


「で、水着になってもらえばその謎も解けるだろう、と踏んでいたわけだが」



 もう一度、SSを見る。

 件の首輪の鎖は、ほんの10センチくらいのところで途切れてぷらぷらとぶら下がっているだけだった。



「どういうことなの……?」



 そのクソどうでもいいことに真面目に頭を悩ませていたというのか。

 平常運転と言えばそれまでだが。

 余談だがあの首輪、例によって入手方法はクラフトしかないわけであるが、レシピの解放難度はわりとえげつないので[†TAKUAN†]にも作ることはできない。この男にとってアクセサリー類のレシピ解放の優先順位は、まんま[さや]の興味が反映されている。要は、[さや]が欲しいと言ったものから優先して作れるようにしているのだ。

 その点、[さや]が首輪のアクセに興味を持たなかったことを、とりあえず兄としては安堵しておくべきか。



「あの鎖、長さ設定できるらしいぞ」


「なん……だと……?」



 何故か愕然とする[†TAKUAN†]。

 そこまで驚くほどのことなのか?



「待て[エッジ]。なら、メイド服のとき、あの鎖の末端はまさか――」


「適当な長さに設定してあって、別にどこにも繋がってねえと思うがな」



 身を乗り出して訊ねてきた[†TAKUAN†]に残酷な(?)真実を教えてやると、ヤツは力が抜けたようにカウンター上に項垂れた。

 まさしく『夢破れた』と表現するにふさわしい姿だった。

 迫真の悲壮感すら漂っていて、実に気持ち悪い。



「ふ、ふふ……そうか。結局は、滑稽な俺の独り相撲だったということか……」


「いつも通りじゃねえか」


「ん?だが待てよ?長さを設定できるということは、やはり鎖の先端をどこかに繋ぐこともできるのでは!?」



 そもそも繋げないなら、SSの[アステリーゼ]みたく、邪魔にならない程度の長さで固定のアクセサリーにしておけばいいだけだしな。



「どこにでも、とはいかないらしいが、特定のアクセとかコスとかには繋げるみたいだぞ」


「キタコレ! ところで、なんで[エッジ]がそんなこと知ってるんだ?」


「そりゃお前、あの電波メイドが前に俺の――――いや、この話はやめにしよう」


「なぜ!?気になる!何があった!?」


「まさかあんな場所にも繋げられるとはな……」



 思い出したくもないので多くは語らないが。


 一蓮托生という言葉の本当の意味を知った、とだけ言っておこう。



「頼む、教えてくれ[エッジ]! このままじゃ俺の妄想の翼が独りでに天へ羽ばたいてしまうっ!!」


「そのまま飛び去ってくれていいぞ」





 ◇◇◇





「では……『[アリア]育成計画』を、始動する……!」



 厳かな[Canaan]さんの宣言が響く。

 この場に集められたのは、その計画(プロジェクト)を遂行するにふさわしい精鋭たちだった。


 発起人の[Canaan]さんを始め、[エッジ]、[さや]ちゃん、俺、そして[アリア]さんという五人編成のパーティである。



「で、なんの集まり?」


「[アリア]殿のレベル上げをみんなでお手伝いする集まりですよ、[†TAKUAN†]殿」



 なるほど。それでその若干いかがわしい計画名なわけか。

 無論、俺は何も聞かされていない。

 己の城にて『至高の命題』に頭を悩ませていたところ、[エッジ]に『暇なら付き合え』と拉致られて現在に至る。



「方針を、説明する…………[エッジ]が」


「俺かよ」


「長台詞は、軸がブレるから……ぱす」



 十中八九喋りたくないだけだろう。

 面倒くさいとかではなくて、[Canaan]さんの人見知り癖を思えば、そもそも他者に説明するという行為に慣れていないであろうことは想像に難くない。

 [エッジ]は「身内だけなんだから頑張れよ……」とぼやいたものの、なんだかんだで女の子を甘やかしてしまうことに定評のあるヤツなので、結局説明役を肩代わりすることにしたらしい。


 ちなみに、最初に簡単な事情説明と自己紹介くらいは済ませているので、[Canaan]さんと[アリア]さんが実はリアルのお友達であったことは聞いてるし、[さや]ちゃんが[エッジ]の実の妹であることは[Canaan]さんも知っている。



「当面の目標は[アリア]のコモンレベルを10まで上げることだ。そのためにパーティを組んでエネミーを狩りつつマップを開拓する」



 このゲームではエネミーを討伐して得られる経験値はパーティメンバー全員に入る。

 取得経験値はレベルシンクされるので、例えば[エッジ]がパーティを組んだ状態で高レベルエネミーを倒したとしても、それで[アリア]さんのレベルが一気に上がるということはない。

 だとしても、同レベル帯のエネミーを自分でちまちま倒すよりは圧倒的に多量の経験値が得られるので、まあ手っ取り早くレベル上げを行う場合の常套手段だ。



「まずは、『碧望の街道』を抜けて『夕凪の丘陵』ですね?」


「ああ」



 [さや]ちゃんの確認に[エッジ]が頷く。

 その辺のマップくらいまでなら俺や[さや]ちゃんでも普通に行くレベルだ。


 このゲームでは一度訪れた街マップには『ポータル』で一瞬にして移動できるが、最初の一回だけは自分の足でフィールドを踏破して行く必要がある。レベリングのためにちょっと高レベル帯のダンジョンに挑戦するとしても、まずはそこまで[アリア]さんを連れていく必要がある。

 ダンジョンの解放順はストーリーと連動しているので、いきなり高レベルのダンジョンに挑戦することもできなくて、ストーリーを消化しながら順を追って攻略していく必要があるのだ。



「今日のところは、次の街まで辿り着ければ上出来だな」


「[エッジ]と[Canaan]さんが居るからなぁ。まあ余裕だろ」



 なんせレベル三十台も後半の二人である。この近辺のエネミーなんて小指でも倒せるだろう。


 ダンジョン内では適正レベルより圧倒的に高レベルのプレイヤーにはレベルシンクが適用されるが、フィールドではそれがない。

 ちなみにダンジョンのそれは、適正レベルよりも10以上レベルが高いプレイヤーはステータスをそれ以下にまで落とされるというものだ。例を挙げれば、適正レベル20のダンジョンに挑戦する場合、レベル29のプレイヤーはそのままのステータスで挑戦できるが、レベル30以上のプレイヤーはステータスを落とされる。この時のステータスはレベル29のプレイヤーよりもむしろ弱くなるのだ。

 もっとも、もとのレベルが高ければその分アサルトスキルが解放されている可能性が高いので、実際の戦闘力は一概には判断できないが。


 基本的にはリアル指向のゲームなので、多少のレベル差はプレイヤーのセンス次第でひっくり返ったりもするのだが(事実、[エッジ]は格上のエネミーでも普通にボコる)、流石に10以上のレベル差があるとステータスに差が付きすぎるという判断だろう。

 どんなエネミーの攻撃を受けても耐久力が高すぎて1ダメージしか受けないなんてことになったら、逆にリアルではなくなってしまう。


 開発当初は普通にフィールドエネミーにもレベルシンクが実装されていたらしいのだが、確かベータテストかなんかのときに『流石にだるい』という意見が殺到してダンジョンのみに変更されたんだったか。

 よって倒すだけならフィールドエネミーを相手にしたほうが楽だが、ダンジョンと比べるとエネミーの出現頻度と密度が段違いに低いので、レベリングにはあんまり向いていない。



「基本的には俺と[Canaan]で分担してカバーするから、[さや]と[†TAKUAN†]は好きにしてくれていい。[アリア]ももちろん積極的にエネミーに攻撃して欲しいが、倒すよりはアサルトスキルの実績埋めを意識してくれ」


「承知しました。兄さま」


「あいあい。りょーかい」


「わっかりました!」



 [Canaan]さんがプロのガンナーメイジだから大抵の役割は彼女が担える。んで[エッジ]が前衛でエネミーのヘイト管理とかタンクをやってくれるので、基本二人に任せとけば穴はない。

 俺も『ウォーメイジ』である以上[Canaan]さんと役割が被るが、彼女以上の働きができるわけないので、いい機会だと思ってアサルトスキルの解放でも目指してみるとしますかね。





 ◇◇◇





 道中は順調だった。

 『始まりの街』周辺のマップは初心者がソロでも踏破できるように設計されているので、既プレイヤーばっかりフルメンバーのパーティで苦戦する可能性なんてそもそもないんだけど。


 現在地は『夕凪の丘陵』に存在するダンジョン『陽向の渓流』だ。

 このゲームを始めたプレイヤーが一番最初に訪れるダンジョンで、適正レベルは3だ。[さや]と[アリア]以外の面子はレベルシンクによって劇的にステータスを落とされているが、正直、だからどうしたというレベルの難易度でしかない。


 ロケーションとしては普通に綺麗な渓流地帯といった雰囲気だ。

 最初のダンジョンということで、これと言って奇を衒ったギミックもなく、移動もしやすく、普通に景色を楽しめる。


 難度的に5人でぞろぞろ移動するような場所でもないんで、野郎二人は『ついでに素材でも集めてくっか』などと言ってどこぞへと消えてしまった。インベントリに度々素材が入ってくるんで、元気に雑魚エネミーを乱獲しているようだ。


 自分たちはというと、ダンジョンの最深部を目指して、道中のエネミーを狩りながら進んでいるところだった。

 基本的に自分は後ろから援護で、前衛で[アリア]がわちゃわちゃやってるのを見守ってるだけだ。



「見ましたかカナ!今のタイミング完ぺきじゃなかったですかっ?」


「ん……いいね」



 [アリア]はエネミーを倒すたびに本当に楽しそうな笑顔を見せるもんだから、自分もそれを眺めてるだけでじんわりと幸せな気分になってくる。そうだよコレだよ。コレがやりたかったんだよ。そんな感じ。


 それから、と。

 もう一人の前衛のほうへと目を向ける。


 [エッジ]の実の妹だと紹介された[さや]だ。

 中学生らしいから、自分たちよりも年下だ。

 ちなみに[エッジ]が大学生だというのは本人の口から聞いたわけじゃないが、ログインの時間帯を見れば普通に予想はつく。


 [さや]のアバターの種族は兄と同じ『ヒューマン』、クラスは『ウォリアー』、レベルは11だ。キャラクリ勢であることが一目でわかるくらいに凝りっこりの格好をしている。まさか『幽冥尚武姫具足(ゆうめいしょうぶひめぐそく)』の実物をこの目で見るとは思わなかった。

 確かあれ作れる人って一人しか居ないんじゃなかったっけ、と片手間にスマホでWikiなど見てみたら、クラフトページには案の定[†TAKUAN†]の名前があって変な納得をしたもんだ。

 どうせ、[エッジ]が妹のために頑張ったんだろうなぁ……って。


 余談だが、このゲームでは本当の意味での『キャラクリ』はできないんで、衣装とか装備とかのコーデに心血を注ぐ人たちを総称して『キャラクリ勢』と呼ぶ。



 残るエネミーは最後の一体。

 相対する[さや]の姿を[アリア]と並んで見守る。


 エネミーは『ゴブリン』だ。レベルは3。

 ファンタジーにおなじみのヤツで、見た目は獣顔のちっこいおっさんって感じだ。つるりとした緑っぽい体表をしていて、ぼろ切れを身にまとい、粗末な棍棒を持っている。そんなステレオタイプのエネミーだ。

 自分たちの平均身長も大概ちっこいが、『ゴブリン』はそれよりさらに小さい。1メートルに届くかどうかってとこかな。


 最後の『ゴブリン』は奇声を上げながらがむしゃらに棍棒を振り回すが、[さや]はそれを危なげなく回避している。

 するすると、ほとんど上体を揺らさない、滑るみたいな歩法だ。

 太刀を持った右手からは適度に力が抜けていて、遊ぶように切っ先がゆらゆらと揺れている。

 ちなみに太刀は『大剣』カテゴリーの武器の一つだ。


 驚くべきは、[さや]の目だ。


 等身大の『ゴブリン』はそれなりに醜悪だし、迫力がある。

 しかも棍棒をがむしゃらに振り回してくるんで、下手に攻撃パターンが決まった相手よりも見切りにくかったりする。動きは全然速くないので、初心者が大袈裟に避けながらも反撃できるようにデザインされているんだが、逆に言えば余裕をもって回避すること前提のエネミーなんだ。


 それを[さや]は、規則性などないように見える棍棒の動きをすべて捉えているんだ。

 端から見てるとよくわかる。

 全部、見てから避けてる。

 そして、



「――そこですっ!」



 くんっ、と太刀の切っ先が跳ね上がる。

 いつの間にか、としか言えないタイミングで、彼女の太刀は桜色のマナを纏っていた。

 太刀の切っ先は掠るように『ゴブリン』の軸足を切りつけ、バランスを刈り取る。


 相手の姿勢を崩すウォリアースキル『ブレイドピック』だ。


 たたらを踏んだ『ゴブリン』の眼前で悠々と、[さや]はわずかに足を踏み変え、右手で保持していた太刀の柄に左手を添える。

 間髪入れず、太刀の刀身がマナを纏う。



「――疾ッ!」



 雷光の如き袈裟斬りが迸る。

 棍棒を握っていた『ゴブリン』の腕が、上膊から綺麗にぶっ飛んだ。

 吹き出すのは血液ではなくマナの粒子とはいえ、それなり以上にショッキングな光景だと思うのだが、[さや]は眉一つ動かさずに、引くどころかさらに一歩を踏み込んだ。



「――破ッ!!」



 返す刃でもう一度同じスキルが発動し、憐れな『ゴブリン』の首が宙を舞った。

 斬撃の切れ味を強化するウォリアースキル『レイジングキャリバー』だ。

 しっかりと残心を終えて構えを解く[さや]の姿を[アリア]と二人でぽけ~、と眺めていた。


 彼女の雅な装いとあいまって、まるで舞踊の如き華麗さすら感じさせる戦闘だった。



「すごいですねぇ[さや]ちゃん。何度見てもカッコいいです!」


「お恥ずかしい……私など、兄さまに比べればまだまだ未熟です」



 近寄って行って声を掛ける[アリア]の手放しの賞賛に、[さや]がはにかみがちに応える。

 自分に言わせれば、そもそも比較対象が[エッジ]の時点で何かがおかしいんだが。


 言うだけあって、[さや]の戦闘法は[エッジ]のそれと似通っている。

 基本的に、アサルトスキルの発動はすべてモーショントリガーだ。

 しかも、当たり前のように『連撃』を繰り出す。



「わたし、[さや]ちゃんは[エッジ]さんに戦い方を教わってるって聞いてたんで、てっきり同じ初心者なのかなぁ~なんて思ってました」


「初心者ではありませんが、エネミーとの戦闘経験は素人同然ですよ」



 深部へ向かって歩きつつ、話を続ける。

 おそらく、戦い方を教えると一口に言っても、[アリア]のようにシステム的な意味での戦闘方法を教えるんではなく、[さや]のそれは、文字通りの意味で[エッジ]が自身の戦闘法を伝授していたんだろう。

 とは言えど、普通は教わったからと言ってできるものではない。

 ある程度、何らかの下地がなければ。



「[さや]……」


「はい。なんでしょう?」


「アナタたち兄妹は、リアルでも……武術みたいなの、習ってるの……?」



 十中八九、なにかやっているはずだ。

 そのくらい、一般のプレイヤーとは明らかに動きが違う。



「ええ。習っていますよ」


「わぁ~、そうなんですねぇ。ちなみにちなみにっ、なにを習ってるんですか?」


「実家が古武術の道場を経営してるんです。私も兄さまもそこの門下です。あっと、兄さまはもう師範代ですが」



 なるほど、古武術と来たか。

 しかも師範代と言うことは相当な熟練者ということだろう。

 そういう下地があって、あの『ブレイカーおじさん』が誕生したわけか。


 兄のことを話せるのが嬉しいのか、[さや]は饒舌に教えてくれる。



「うちの流派では棒術とか剣術も使いますので、兄さまはそちらも達者ですよ。私は、そちらには手を出さずに、別口で薙刀術を嗜んでおります」



 なんか、リアルでは絶対に縁がないと思っていた単語がぽんぽんと出てくる。

 [アリア]なんかは「ほぇ~」と呟きながら口が開きっぱなしだ。


 薙刀なんてのは自分の認識では完全に、お金と時間を持て余したいいとこのご令嬢が護身術とかでやるもの、というイメージだ。

 事実、いいとこのご令嬢である理音さんなんかは習い事で、薙刀術や合気道を含む総合護身術とやらを学んでいると言っていたし。


 まあ、それをいったら自分の横で口を開けてるこの子も、かなりいいとこのご令嬢のはずなんだけど……。



「ねえカナ。そーゆーのってやっぱり、リアルでやってる人のほうがゲーム内でも有利だったりするの?」


「ん…………それは、そう」



 リアルで習熟している人間の強みはその動作に『慣れている』ということだ。

 慣れた動作だから咄嗟でも繰り出せるし、もちろん単純に上手い。


 [さや]たち兄妹は間違いなく稀有な例だろうが、彼らほど極端でなくても例はたくさんある。


 例えば、ダーツが趣味のプレイヤーは『ジャグラー』クラスの習熟が早い。

 武器を投擲して獲物を狙い撃つ、と言う動作に慣れているからだ。そこに投げるものの違いとか、姿勢の違いとかいうのは実は些細な差でしかない。ダイレクトリンクで重要なのは、物を投げて目標に中てる、そして外れた場合に軌道を修正する、という動作モデルをどれだけ持っているかだ。

 リアルでナイフなど投げたことがないプレイヤー同士であっても、日常的にものを投げ慣れているかどうか、で習熟速度は明白に異なるんだ。


 あるいは、同じ『フェンサー』クラスでも、剣道が趣味の人と、フェンシングが趣味の人では挙動がまったく異なる。

 だが、どちらも相応に強い。

 剣を振り、相対し、弱点を狙い打つという動作モデルが出来上がっているからだ。


 もっと言えば、野球少年とサッカー少年だったら、『スマッシャー』クラスを使った時に強いのは前者だ。

 バットを振るのに慣れている、というそれだけの差でも結構違うものだ。




 もうそろそろ最深部かな、という頃。

 PSIにボイスチャット申請のアイコンが点灯する。

 [エッジ]からだ。


 [アリア]たちにその旨を告げて立ち止まり、申請を許可すると、自分の手の中にスマホっぽい端末が出現する。

 ゲーム内ボイスチャットは、普通に電話なんだよね。

 この端末は見た目完全にスマートフォンだけど、正式には『大気中のマナを媒介にした小型通信機』という設定らしく、プレイヤーからは『マナホ』とかあるいは普通に『スマホ』とかって呼ばれてたりする。



「……なに?」


『今どの辺だ?』


「ボス部屋の、手前くらい……」


『なら合流する。ボス部屋の前で落ち合おう』


「ん」



 各ダンジョンの最奥には『ボスエネミー』というちょっと強力なエネミーが控えていて、これを撃破することでダンジョン攻略となるんだ。

 そのボスが居る空間を通称『ボス部屋』と呼ぶ。ここは屋外マップなんで、部屋と言ってもちょっと開けた空間くらいのものでしかないんだが。

 自分たちがボス部屋の手前に辿り着いたのと同時くらいに、別方向から[エッジ]と[†TAKUAN†]が姿を見せた。



「さて、ボスだが……」



 どうする?と[エッジ]が視線で問うてくる。

 『陽向の渓流』のボスエネミーは『エルダーゴブリン』。身の丈二メートル程度のでかいゴブリンだ。

 ほんとにただゴブリンがでかくなっただけなんで、大した相手じゃない。


 ボスエネミーの特徴として、プレイヤー側の人数に応じて強さが変わる、というのがある。

 要はソロで挑んだ場合と、5人パーティで挑んだ場合にはボスの強さが違うんだ。


 というわけで、[アリア]が参加するにはちょっとボスが強い。

 自分たちもレベルシンクで弱体化を受けているが、まあ苦戦する相手ではない。



「[エッジ]が前……自分が援護。[さや]は遊撃……[†TAKUAN†]は回復、[アリア]は――」


「大人しく後ろに居ます」


「ん……今の[アリア]だと、たぶんワンパンで死ぬから、気を付けて」



 もしもの時は[†TAKUAN†]を盾にしていい、と言うと[アリア]は苦笑気味に頷いた。

 この物言いは流石に失礼過ぎるかも、とか一瞬だけ考えたけど、当の[†TAKUAN†]本人は『美少女の盾になれるだって?うおおご褒美じゃねえか!?』って顔してる(※言ってません)から、たぶん大丈夫だ。

 彼への接し方は、これであってる(確信)。





 とまあ、できる限り慎重に挑んでみたわけなんだけど。


 結局[エッジ]がパリングしながら三回殴っただけで終わったのは余談である。

 最初のボスだし、そんなもんだよね……。





 あくとじゅういち。えんど。









 本日の理不尽。



戦バカ「すまん終わった」


犬「それはないわ」


妹「空気読んでください」


漬物「俺のご褒美がぁ!?」


アリア「あはは……」




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