すこし有名になったらすぐこれだ
私は演劇コミュニケーション学科の方も頑張り始めた。こっちが本筋だ。
演劇を作る授業で、クラスメイトと奇抜な見せ方しようよ、という話になった。
小さな劇場じゃつまんない。というか、この街には劇場もない。空きテナントのビルを借りて、小さく1日やって終わるだけだ。
「でね、アイデアがあるの」と八乙女が言った。
まさか、ホントにやるとは。
いつも通り授業が終わってテレビ局に行く。今日は雑用バイトだけだ。ギャルにはならない。
編成って部署が報道って部署とざわついている。川の岸辺に殺人予告だってさ、あの坂から見下ろせる川っペリ。坂から見たら白骨死体が転がってるから、通報したんだってさ。警察が来て調べたら白く塗った枯れ木を上手く合わせて上手く並べてんだって、頭蓋骨は石だってさ。悪ふざけかよって眺めてたら、1枚写真があって「こいつを殺す」ってマジックで書いてある。その写真が由紀子ちゃん、ジミギャルユッキーなんだってさ。
警察は隠密にしてくれて、私のバイト先のテレビ局にだけ教えてくれた。
今日から私はSPに守られることになった。
でも待って、ジミギャルユッキーは私と分からないくらいメイクしてるから、SP付いたら逆にバレバレじゃん。
そう言ったら「あ、そうか」とディレクターが言った。アホカ、と思ったが警察署の人が言った。
「ふだんの片平さんの時は離れて見守ります。」
「犯人は、ふだんの姿も知っているかもですから。」
警察っていってもラフな格好だから説得力はないけど、街に溶け込んでるんだな。
この話をひっそり八乙女に伝えなきゃ。
私たちが捕まっちゃう!
八乙女は西公園にいた。図書館で待ち合わせたから。
中に入ると相席オッケーの閲覧コーナーについた。SPはいなさそうだ。
「で、話ってなに?」と八乙女が切り出すと
「あんた、何やってんの?ホントにやるか?」と私。
「それにしてもコトバがユッキーじゃん」と笑う八乙女。
私は周りを見た。やはり警察っぽい男はいない。子供とママさんだらけだ。
にしても小さい声で
「あのシナリオ、何で勝手に始めるの?」
坂から見下ろせる川ぎしから始まるミステリー。
フェイクの白骨死体から始まる殺人予告。
ふつうに小さく劇場でやってもつまんないから、街なかでいきなり始めようよ。喫茶店で参加カードを買ってもらって指示された場所に行くと白骨死体のフェイクがあって、次の指示があって、そこで僕らのミニ演劇が始まる。ストリートパフォーマンスだな。4回くらい街なかを巡ったら結末見せてゴール。
「それを勝手に始めることないじゃない!」
「しかも何で私が殺されなきゃなんないの?」
八乙女はきょとんとしていた。
そこに向かいの席の中年女性がこっちを見て言った。
「詳しくは署で聞きます。」
八乙女も私もあっさり取り調べ室にバラバラに連れて行かれた。
ディレクターもアンドーチェーンも怒っていた。
自分が人気者になったからって、それを利用して学生演劇で話題になろうとしやがって。
という話だ。
八乙女は反省していると思った。私はすいませんと謝るばかりだ。シナリオは八乙女が考えついたが、一緒に作品を作る私にも責任がある。
八乙女は堂々と「僕じゃない」と突っぱねた。
君ね、シナリオと同じことが起こってるの。分かる?しかもターゲットがその演者仲間でしょ。いい加減にしなさい!
と言っても八乙女はきかない。
決定的な証拠もないから、あれだ、写真に書いたマジックの筆跡鑑定で片付けろ!と調べたら八乙女じゃない!
困った警察署は「誰に書いてもらった!」と
怒鳴りつける。それはそれで困る。
八乙女は、確かに僕が仲間に話した内容と同じですけど、元ネタがあって、立町の古本屋の同人誌からパクったんですと白状した。ミステリーが専門の古本屋ですとも。警察署は八乙女を拘束しつつ古本屋にも行ったらしい。
「あのね、古本屋なんてなかったぞ。」
私は釈放された。テレビ局もクビだし大学からも停学処分になった。ひまな街でさらに暇になる。
古本屋がないってどういうこっちゃ。
八乙女は顔が青ざめた。あーこれは何かのテロリストが何かの陰謀で一般人の僕に濡れ衣を着せて、はめられたんだ。
ホントの犯人は警察で、あらかじめ用意されたシナリオに沿って僕は無期懲役かー。
「いい加減にしなさい!」
「君が謝れば、終わりだよ。誰も殺されてないでしょ。」
「ま、停学は決定的かな。」と取り調べる側は言う。
八乙女は強情だ。僕じゃないと言い続け、1週間を取り調べ室で過ごしてしまった。
ご飯は美味しかった。好きに出前を取れる。自腹だけど。
筆跡鑑定と同じ筆跡で、警察署に殺人予告が来た。八乙女を殺すとある。取り調べは苛立つ。
「だから、仲間は誰だ?って聞いてんだろが」
「これもお前のシナリオで」
「仲間に書かせて仕掛けてるよな?」
私は相変わらずSPに守られている。というか監視されている。何しろ家にいる。母親はお茶を出すうちに「娘がすいませんね、交代しながら寝ずの番で。」
と言い、SPも
「ホントにね、悪ふざけもいい加減にして下さいね。」
「筆跡鑑定が娘さんとも違うから。」
「ジミギャルユッキーのストーカーがっていう線もあるので。」
片平由紀子に早く戻ってジミギャルユッキーをこの街から消したい。
そう思うようになった。
八乙女は一旦釈放された。SPが彼にも付いた。彼の場合は、泳がせた方が犯人としてシッポ出すだろうと警察署はにらんだのだ。
片平由紀子と八乙女はあえて、この街の真ん中のカフェビローチェで待ち合わせした。
「まさか周りの客全部、SPじゃないよね。」
八乙女が元ネタを見つけた古本屋がないってことが2人は気になっていた。実際に行ってみよう。警察はないって言ってたけどホントかな?
行くとあるじゃないか、警察はあてにならない。看板がないのがこの古本屋の特徴だ。
「まったく、エラい目にあったよ」と八乙女は主人に言った。
「私もここは雑貨屋だと突っぱねるのに大変でした」と笑う。
古本屋の主人はむかし、学生運動ってのをやっていて捕まったことがある。一部の生徒は事件を起こしたり。警察に過去がばれたらややこしいから、しらばっくれていたんだと。
「古本屋だけど看板なし。本は隠して、雑貨ばかり並べてるのは、そのため。」
でね、警察が言ってた殺人予告の筆跡って誰なんだ?
この疑問は片平と八乙女には分からない。
主人に聞いてみたら、あれはワタクシだと主人。
八乙女は「やっぱそうかー」
「ちょっとどういうこと?」と片平。
「主人とは飲みに行くくらいの仲なんだ。」
「いつもシナリオ作りで相談してた。僕は才能ないから。」
「で、白骨死体のフェイク始まり。あれは主人が学生時代に書いたやつなの。作品に悩んで相談したら見せてくれた。」
少し黙る主人。
「うん。八乙女君の言うとおりだ。私のシナリオだ。」
片平は、ダメだよ人のアイデアは、と言うと主人も
「そう、参考は良いが、自分の作品は自分で考えないと。」
主人は続ける。
「そこでね、先回りして私が白骨死体と殺人予告をこしらえました。ユッキーの写真はテレビの画面を写真に撮ってね。」
主人はこうも言った。
「人のパクリはバチが当たる。荒療治だったかな?」
「まわりのSPの皆さんも聞こえてますね。」
「私が犯人ですよ。愉快犯かな。どうぞ捕まえてください。余罪もあるかな、もう時効かな?」
「私も学生たちを見て、若いころを清算したくなりました。」
「詳しくは署で聞きましょう。」
SPが主人を連れて行った。
面白先生が新聞を読んでうなっていた。
「あの、昔の学生運動がしでかした迷宮入り事件」
「まさか、この街に犯人がいたとは!」
古本屋の主人から手紙が届いた。
捕まっていても手紙は書けるらしい。
文面にはこうあった。
若い頃は間違いもたくさんある。
それを反省しながら前に進む。逃げてはいけない。
君たちの作る演劇は、街を変える未来図であってほしい。
ならば、店は居抜きで劇場として使って良いよ。と。
主人が若い頃に起こしてしまった事件は時効だったらしく、あっさり店に戻ってきた。
今回の件は悪ふざけとして厳重注意。
過去の余罪は
予告状を3000万枚、仲間と全国の新聞折り込みに忍び込ませて、テレビ局にも新聞社にも仲間を送り込んで1日だけ日本がパニックになった、デンセツの迷宮入り事件だった。
何回もドラマ化が検討されたが、不謹慎と却下された、あの事件だ。人によっては興味をそそる話らしい。
面白先生が言った。
「この君たちと古本屋の話さ、シナリオにして東京に売り込まない?」
「オモシロクねーわ。」
私生活でジミギャルユッキーの姿をした私は言い返した。
久しぶりにジミギャルの私の写真を付けて
年賀状を送ったら
若林が「似合うじゃん!今度会いに行くね!」って返してきた。
そう、今日が彼に会う日。
8年ぶりに八木山小学校の人気遊具、
登れば海が見える、海賊砦の木の下で。




