13話:森川さんの魅力?
△▽
何を言っているのよ、水野。
思わず睨みつけると、水野は悪びれる様子もなく、きらりと歯を見せて笑った。
その表情を見て、ようやく気づく。
この子、何か大きな勘違いをしている。
まるで――私と林くんが、もうとっくに両想いになっているみたいな言い方じゃない。
……まあ。
林くんは、私のことを……えっと……好き、なんだろうけど。
そう思った途端、胸の奥が急に落ち着かなくなった。
どうしよう。
なんて答えればいいの?
下手なことを言ったら、水野にまた何を言われるか分からない。
それに、林くん本人もここにいる。
私は膝の上で指先を絡めながら、どうにかこの場を切り抜ける方法を考えた。
「こら、水野――」
注意しようとした、そのときだった。
「……森川さんのいいところ? どういう意味?」
私より先に、林くんが口を開いた。
「え? いや、そのままの意味だよ?」
水野は何食わぬ顔で答える。
「質問の意図がよく分からないんだけど」
「……え?」
思わず林くんを見る。
林くんは本当に分かっていないらしい。
水野は、私のどこに惹かれたのかって聞いているんだよ?
どうしてそんな簡単なことも分からないの。
……もしかして。
林くんって、相当鈍感なのね。
そう考えていると、水野は少しだけ目を細め、楽しそうに笑った。
「むむむ。そうきたかー」
「へ?」
林くんは、ますます困惑した顔を浮かべている。
……もう。
やっぱり、分かってない。
でも、そういうところが林くんらしいと言えば、林くんらしいのかもしれない。
そして私は、ようやく理解した。
水野が今日、私をここへ連れてきた理由。
スタパに行くはずだったのに、急にセイゼリアへ行こうと言い出したことも、先に店へ入って私を待っていたことも。
全部、これが狙いだったんだ。
「……もう、水野ったら」
小さく呟くと、水野は何も答えず、満足そうに笑った。
その後も水野は、最初から自分の分だったかのような勢いで料理を次々と平らげていった。
割り勘にするには、あまりにも食べすぎじゃない?
そんなことを思いながらも、私はそれ以上何も言えなかった。
林くんと同じテーブルに座っているだけで、どうにも落ち着かない。
さっきの水野の質問が頭から離れない。
――林くんは、私のどこがいいと思っているんだろう。
そんなことを考えてしまう自分が恥ずかしくて、私は視線を落とした。
会計を済ませ、店の外へ出る。
夕方の風が頬を撫でていく。
けれど、顔に残った熱だけは、なかなか冷めてくれなかった。
△▽△▽
テーブルの上にきっちりと並べられた三等分の代金を手元に揃えながら、俺はさっきから頭の片隅に引っかかっていることを考えていた。
――俺が、森川さんのどこをいいと思っているのか。
改めて考えてみる。
まず思い浮かんだのは、やっぱり見た目だった。森川さんは学校でも目立つ存在だ。整った顔立ちをしているし、成績もいい。誰に対しても優しくて、クラスの中でも自然と人が集まっている。男子から人気があるのも、まあ納得できる。
でも、それだけなら、水野に聞かれたときにすぐ答えられたはずだ。
「……どこなんだろうな」
そう呟いてみても、答えは出てこない。
むしろ考えれば考えるほど、頭の中には別のことばかりが浮かんできた。
消しゴムを拾ったときに見せた、あの怒った顔。目が合うと、すぐに逸らされる視線。そして、図書室で俺のために問題を丁寧に教えてくれたときの顔。
どれも、特別な出来事というわけじゃない。
それなのに、どうしてか妙に鮮明に覚えていた。話していた内容だけじゃない。そのときの表情や声まで、思い出そうと思えばすぐに浮かんでくる。
「……分かんないな」
結局、俺にはそれしか言えなかった。
そもそも、森川さんのことをこんなふうに考えたこと自体、今までなかった気がする。
最初は、少し怖い人だと思っていた。
俺が何かするたびに怒っているように見えたし、目が合えば気まずそうに逸らされる。だから、できるだけ関わらないようにしていた。
それなのに最近は、森川さんが何を考えているのかが気になって仕方がない。
どうしてあのとき怒ったのか。どうして目を逸らすのか。図書室では、どうしてあんなに優しくしてくれたのか。
考えているうちに、また一つ、森川さんの顔が浮かんだ。
俺は小さく息を吐いて、椅子から立ち上がった。
空になった皿をまとめ、会計を済ませて店を出る。
外に出ると、夕方の風が頬を撫でた。さっきまでいた店の喧騒が遠ざかり、駅へ向かう人たちの足音だけが耳に残る。
歩きながら、俺はもう一度だけ考えてみた。
――俺が、森川さんのどこをいいと思っているのか。
考えても、まだ答えは出なかった。
ただ、不思議なことに、その答えを考えていたはずなのに、帰り道で頭に浮かんでくるのは、やっぱり森川さんのことだった。
どうしてなのかは、自分でもよく分からない。
けれどその日から、森川さんのことを考える時間が、少しずつ増えていった。




