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第十四章 断罪

王都へ向かったのは、初夏の始まりの頃だった。


辺境の魔物の活動は、あの大侵攻の後、少し落ち着いていた。

私が力を流し続けたおかげか、砦周辺の瘴気濃度がずいぶん下がったとドルトが言っていた。

今がその隙だと、アルヴェインが判断した。

辺境軍の精鋭十名を連れ、ドルトと私とマリア、そういう一行で王都を目指した。


旅の間、空気の変化は如実だった。

王都に近づくほど、瘴気の重さが増していく。

三日目になると、野の花の色が鈍くなり、鳥の声が減った。

兵士たちも口数が少なくなっていった。


 


「ひどいですね」


 


馬車の窓から外を見ながら、私は呟いた。


 


「まだ良い方だ。一ヶ月前はもっと濃かったと、クロヴィス卿の書に記されていた」


 


ドルトが書類を見ながら言う。


私は目を閉じ、静かに力を流した。

辺境でやっていたように、周囲へ、周囲へ、波紋のように広げていく。

道沿いの草が、わずかに色を取り戻す気がした。


 


「リリアーナ」


 


アルヴェインが、馬上から馬車の窓越しに言った。


 


「無理をするなよ」


 


 


「少しだけです。道を整えているだけ」


 


 


「その少しだけが積み重なる」


 


返す言葉がなかった。

私は苦笑して、力を絞るのをやめた。


 


王都の城門が見えたのは、四日目の昼前のことだ。


かつてあれほど輝いていた石造りの門が、今は煤けたように見えた。

門の前には避難民とおぼしき人々が列をなし、兵士が交通を整理している。

城壁に、魔物の爪跡らしき傷が走っているのが見えた。


門をくぐった瞬間、空気が変わった。

重い。

瘴気の密度が、外の比ではない。

体が反射的に力を流し始める。

今度は止めなかった。


 


「誰かが来る」


 


アルヴェインが低く言った。


城門の内側から、老人が一人、早足で近づいてきた。

白髪を短く刈り込み、深緑の長衣を身につけている。

宮廷魔術師の服装だ。


 


「クロヴィス・ハルト卿」


 


ドルトが言った。


老魔術師は私たちの前で止まり、私の顔を見た。

その目は、舞踏会の夜に遠くから見ていたときと同じ、静かで深い目だった。


 


「来てくださった。ありがとうございます、エルトリア令嬢」


 


 


「お手紙を、ありがとうございました。急かさないでいてくださって」


 


クロヴィス卿が、わずかに目を細めた。


 


「急かす権利は、誰にもない。しかし、来てくださって助かった。今の王都には、あなたの力が必要です。そして、あなたに知ってほしいことがある」


 


 


「何かあったのですか」


 


 


「セシリア・ベルモン令嬢が、捕まりました」


 


 


王宮の一室で、クロヴィス卿から経緯を聞いた。


セシリアが王都を離れる前、彼女はある工作をしていたという。

王都の魔道具の要所に、細工を施していた。

結界の弱体化を促進し、混乱を拡大させる、小さな妨害の痕跡が各所で見つかった。


 


「なぜそんなことを」


 


 


「捕まえてから本人に問い質しました。彼女の言い分はこうです。婚約破棄後、自分が王妃になるためには王太子殿下が完全に前の婚約者を必要としない状況を作る必要があった。リリアーナ・エルトリアが戻れば、自分の立場が危うくなる。だから結界の崩壊を早め、あなたに呪いをかけたという噂を広め、あなたが戻れない状況を作ろうとした」


 


沈黙があった。


 


「それが露見したのは」


 


 


「魔道具師の一人が細工の痕跡に気づいたからです。調査が進むと、細工の術式がベルモン家に伝わる珍しい形式のものだとわかった。王都を離れた後、国境近くで捕縛されました」


 


哀れだと思った。

あそこまでしなければならなかった、その追い詰められた気持ちを想像すると、胸が重くなった。

許せるかと問われれば、簡単ではない。

でも、憎いかと問われれば、それも違う気がした。


 


「殿下は、この事実をご存じなのですか」


 


 


「知りました。昨日のことです」


 


クロヴィス卿が、少し疲れた顔をした。


 


「殿下は、かなり精神的に追い詰められた状態です。セシリアの件、結界の崩壊、民の不安、宮廷の混乱。それら全てが、殿下の判断の結果として積み重なっている。陛下は今朝、退位を決断されました」


 


 


「陛下が」


 


 


「殿下を王太子の座から退かせ、弟君を次期国王として準備を進める意向です。レオルド殿下は全ての地位と権限を失うことになります」


 


外で、風が吹いた気がした。

王太子の地位も、名誉も、セシリアも、全部失った。

舞踏会の夜、私から全てを奪っていったあの人が、今度は全てを失った。


 


「リリアーナ様」


 


クロヴィス卿が言った。


 


「殿下が、あなたに会いたいと言っています。断っても構いません。ただ、知っておいてほしかった」


 


 


会うことにした。


アルヴェインは一言、


 


「俺も行く」


 


と言った。

止める理由がなかった。


通された部屋に、レオルド殿下はいた。

金色の髪は乱れ、礼服に皺が寄っている。

椅子に座ったまま、私が入ってきても顔を上げなかった。


しばらくして、ようやく顔を上げた。

その顔は、別人のようだった。

虚栄心が砕け、華やかさが消え、残ったのは疲弊した若者の顔だ。


 


「来てくれた」


 


声もかすれていた。


 


「クロヴィス卿に聞きました」


 


 


「全部、俺が間違えた。セシリアのことも、お前のことも、国のことも、何一つ正しく見ていなかった」


 


私は黙って聞いた。


 


「お前が必要だ、リリアーナ。もう王太子としてではなく、ただの俺として頼む。隣にいてくれ、もう一度だけ」


 


縋るような目だった。

かつてあれほど高いところから私を見下ろしていた目が、今は底から見上げている。


胸は痛かった。

痛くない、と言えば嘘になる。

五年間、この人のそばにいた。

それが全くの無だったわけではない。


でも。


 


「殿下」


 


静かに言った。


 


「第九章でお伝えしたことを、覚えていらっしゃいますか」


 


殿下が、眉を動かした。


 


「もう遅い、と申しました。あれから何も変わっていません。いいえ、変わりました。私が変わりました」


 


一歩、前に出た。


 


「今の私には、居場所があります。隣にいたい人がいます。その人は、私の好きなものを知っています。私が何を怖れて、何を喜ぶか、少しずつ知ってくれています。五年間で一度も持てなかったものを、今は持っている」


 


殿下が、アルヴェインを見た。

アルヴェインは何も言わず、ただそこに立っていた。


 


「縋る相手を、間違えています。今の殿下に必要なのは私ではない。ご自身と、向き合うことだと思います」


 


殿下がゆっくりと目を閉じた。

長い沈黙があった。


 


「……そうか」


 


やがて、静かに言った。

怒りも、懇願も、もうなかった。

ただ、疲れ果てた声だった。


 


「幸せになれ、リリアーナ」


 


その言葉は、本物だと思った。

最後にようやく、この人から本物の言葉を聞いた気がした。


 


「殿下も」


 


それだけ返して、私は部屋を出た。


廊下に出ると、アルヴェインが隣に並んだ。

何も言わなかった。

ただ、歩いた。


しばらくして、私が先に口を開いた。


 


「終わりました」


 


 


「ああ」


 


 


「本当に、今度こそ」


 


王都の廊下は長かった。

石畳の床に、二人の足音が響く。

窓から差し込む光が、床に四角い模様を描いていた。


外からは、市街地の喧騒が聞こえた。

まだ混乱は続いている。

でも今日から、少しずつ変わっていく。


私の力が王都に届き始めたのか、廊下の空気が、かすかに軽くなっていた。


 


「図書館へ行きましょう」


 


私は言った。


 


「術式の手がかりを探さないといけない。自分を削らなくてもいい方法を」


 


アルヴェインが、横目でこちらを見た。


 


「自分から言い出すとは」


 


 


「生きていたいと決めたので」


 


 


「それでいい」


 


廊下の先に、光が差していた。

広い窓から見える王都の空は、瘴気越しでも確かに青かった。

まだ傷んでいるけれど、回復できる空だ。


私たちは並んで、その光の方へ歩いていった。





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― 新着の感想 ―
これは酷い。突然のメタセリフ。AIの過去の命令や出力物の参照によって発生するやつですね。 せめて推敲して修正するくらいのことは、してほしいものです。AIポン出しの無修正だと、これくらい品質の低いもの…
会話の中で「第九章でお伝えしたことを、覚えていらっしゃいますか」は 本気で萎えます。メタ表現だったとしても稚拙です。この話の内容で メタ表現は入れるべきではないでしょう。萎えたのでもうここで読むのやめ…
初めまして ストーリーの原案は作者さんのアイデアだと思います 面白いお話になる大事な種だと思います しかし、文章にAI感が滲み出ていて、AI小説特有の読み進めるほどに砂を噛むような感覚になっていたとこ…
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