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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第七章:学園祭編
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第七十四話:やめっ!やめろー!!

 出し物のメイド喫茶の準備を着実と進め、学園祭当日。

 朝、ミリアは廊下を行き交う生徒達の足音と浮き足立った声で起きた。

 

 ふと窓の外を見ると、まだ日が昇りきる前だというのに多くの来場者と思わしき人物達が1列で校門前に並んでいた。


(…うん…寝よう)


 ミリアは二度寝をしようとしたところで、お互いのプライベートゾーンを隠していたカーテンが勢いよく開かれた。


「ミリア!起きて!今から行かないと遅れちゃうわよ!」

「ニナ…あと…十分だけ…」

「ダメよ!早く準備しなさい!

 さもないとミリアの働く時間増やすように言うわよ!」

「…分かったよ…」


 ニナは上機嫌そのものだった。

 二週間前に愚痴を垂れ流していたあの人物と同じとは信じられない。

 ニナはまだなんとか抵抗しようと寝た体制をしているミリアの腕を引っ張る。

 ミリアは半ば引きずられながら、欠伸を噛み殺した。


(なんでこういう日に限って、朝から元気なんだろう……)


 昨日の夜、試着と最終確認で無駄に時間を取られたせいで、睡眠時間はあまり確保できていない。


(確か試着して廊下に出た時、偶然廊下を歩いてた男子生徒に求婚されたっけ…

 ゲイだな…

 頼むよ、今日は何事もなく終わってくれ…)


 * * *


 教室はよく飾られていた。

 全体の流れが意識された完璧な配置を邪魔しないように設置された控えめな飾りが多い。


「おお、ちゃんとそれっぽくなってるな」

「でしょ? やるからには中途半端は嫌だもん」


 すでに数名の男子生徒が机や椅子を配置し直し、入口付近では看板の最終調整が行われている。


「男子は設営と呼び込みを続行。女子は更衣に回ってくれ」


 ユーベルトの指示が飛ぶと、教室内は一気に動き出した。


 そして――


「ミリア君」

「……なに?」


 嫌な予感しかしない呼び方だった。


「君も着替えだから」


 ユーベルトは当然のようにそう言い、女子生徒が向かう簡易更衣スペースを指差した。


 一瞬、教室の空気が止まる。


「……いや、ちょっと待て」

「待たない」

「意味がわからない」


 ミリアが抵抗する間もなく、ニナとアーリアが左右から腕を掴んだ。


「ほらほら、観念しなさい」

「大丈夫、すぐ終わるから」


「終わる終わらないの問題じゃ――」


 抗議は最後まで言い切れなかった。

 そのまま、ミリアは半ば強制的に更衣スペースへと連行された。


「…うッ!や、やめっ!やめろー!!」


 赤面しながら必死に首を横に振ったが、抵抗は無意味だった。

 …逃げ場は、なかった。


「せっ!せめてっ!アイッマスクをっ!」


 * * *


「……サイズ、ぴったりだね」

「誰が用意したんだよ……」


 ミリアが着せられたメイド服は、驚くほど体に合っていた。

 装飾は控えめで、過度に派手ではない。

 だが、それが逆に質の良さを際立たせている。


 髪を整えられ、最低限の化粧を施される。

 魔術的な細工は一切ない。

 純粋に――素材と仕立てと顔立ちの問題だった。


「……できた」


 誰かの小さな声が、やけに大きく聞こえた。


 ミリアがクラスメイト達の前に立たされると、教室は一瞬、静まり返った。


「…………」

「……え」

「ちょっと待って」


 次の瞬間、ざわりと空気が揺れる。


「普通に可愛いんだけど」

「いや、普通以上じゃない?」

「これ、反則では……?」


 ニナは腕を組み、満足そうに頷いた。


「ほらね。言ったでしょ」


 ミリアは鏡の中の自分を見つめ、静かに現実を受け入れ─られなかった。


「うあぁァあーー!見るなっ!こっち、見るなぁ!」


 赤面しながら暴れたミリアは、大勢の女子生徒達に10分以上格闘されることでようやく取り押さえられた。

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