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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第十四章:沈黙の魔女編
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第百六十四話:四人

 『黎明の魔術師』が自殺した。

 そして、第二王子は偽物であると城へ連れて行かれた。

 メランがワァワァと支離滅裂にまくしたてるのを聞きながら、モナカはチラリとメアリーを見た。メアリーもまた、一瞬チラリとモニカを見る。

 フィリップは偽物ではないかと疑っていたメアリーも、この展開は予想外だったようだ。美しい顔を強張らせ、青ざめている。

 そもそも彼女は、本物のフィリップに会いたいと望んではいたものの、偽物を断罪し、全ての真実をつまびらかにすることなど望んでいなかったのだから、この反応は当然だ。

 それ以外の者は皆、メランが言っていることの意味を理解できず、困惑した顔をしている。


(……あれ?)


 モナカは違和感を覚えた。

 たった一人だけ、驚くでもなく、困惑するでもなく、まるでこの事態を予見していたかのように、冷めた目をしている者がいたから。

 モナカがその人物を注視していると、ニーアが口を開いた。


「皆さん、落ち着いてください。

 メランも、まずは椅子に座ってください。ヴェルトン副会長も」


 ニーアの言葉に、メランはソワソワと足踏みをする。


「落ち着いてる場合じゃないっスよ、ニーア!

 だって、会長が連れて行かれちゃったんスよ!? 俺の飛行魔術で追いかければ、今なら追いつけるかも……!」

「追いついてどうするんです?

 無理やり生徒会長を奪還したら、今度はメランも一緒に指名手配されるだけですよ?」


 うぐっと言葉を詰まらせるメランに、ニーアは動揺を押し殺した声で言う。


「まずは何が起こったのか……情報を整理しましょう。その上で、僕達がどう動くか考えないと」


 ニーア・キャンベルには、フィリップのようなカリスマはない。

 大抵の者はニーアを「人が良いけど頼りなさそう」と評するし、なにより男爵家である彼を爵位だけで計ろうとする。

 新生徒会役員選出にあたって、男爵家の下につくのはごめんだ、と役員になるのを断った者も多い。

 最終的に選出された新メンバーが、色々と癖が強かったのもそのためだ。

 隣国の男爵家の五男であるダーウィンに庶民のメラン。

 ニーアより爵位が上なのは、侯爵家のアーリアと公爵家のミディアムぐらいだ。

 ミディアムは爵位を継ぐ男子であれば、きっと目くじらを立てる者もいただろう。

 つまり、新生徒会役員は、敗北の代ほど生徒達から支持を得られてはいない。

 それでも、この場を取り仕切ろうとするニーアには、新生徒会長としての風格があった。


「ヴェルトン副会長、分かる範囲で構わないので、状況を教えてください」


 ニーアに話を振られても、ラークは茫然自失のていから抜け出せずにいるようだった。

 「ヴェルトン副会長!」とニーアがもう一度声をかけると、ラークはようやく我に返った様子で、のろのろと顔をあげる。

 最もフィリップを敬い慕っていたラークが、酷く動揺するのも無理はない。のだが、メランの説明だけでは、いつまでたっても話が進まない。

 それはラークも分かっている。

 ラークは今にも死にそうな声で、ポツポツと己が知る限りのことを話した。


 フィリップを連行した兵士曰く、三校大会に侵入した肉体改造魔術を使う『帝国の魔術師』が『黎明の魔術師』デリック・ラン・フォーレと共謀し、第二王子の乗っ取りを計画。

 三校大会では入れ替わりに失敗して捕縛されたものの、逃亡。

 その後、再び学園に侵入した『帝国の魔術師』は、まんまと第二王子を監禁し、入れ替わった。

 そうして『帝国の魔術師』は国の乗っ取りを目論んでいたが、共犯者である『黎明の魔術師』が罪の重さに耐えきれなくなり、毒を飲んで自殺し、真実のを遺書に書き残した。

 そして、遺書に気づいたアズノール公爵が、監禁されていた本物の第二王子を解放。

 本物の第二王子が、偽物を捕まえに来た。


 ……というのが、ラークが聞いた説明だという。

 その説明を聞きながら、モナカは必死に頭を回転させた。


(第二王子が偽物だって情報を流したのは誰?帝国の皇帝?……ううん、違う)


 今回の件が皇帝の仕業だとしても、『偽物=帝国の魔術師』という情報の流し方はしないはず。

 帝国の関与を匂わせたら、それが戦争の火種になりかねない。

 戦争を回避したがっている皇帝に限ってそれはないだろう。

 むしろ、第二王子の成りすましを帝国の人間の仕業ということにしたいのなら、犯人は自ずと見えてくる。


(……アズノール公爵だ)


 『黎明の魔術師』が自殺か他殺かまでは、モナカには分からない。

 だが状況から判断するに、アールを確実に陥れるための捨て駒にされた、と考えるのが妥当だろう。

 アズノール公爵が、何故突然アイクを切り捨てたのかも分からないが、恐らくモニカの知らないところで、何かが動き始めているのだ。

 そしてモナカは、先ほどから気になっていたことを聞く。


「あ、あの……本当に、本物だという殿下は来られたんですか?」

「あぁ……偽物だと思えないほど、本当に殿下と、瓜二つだった」


 その説明を聞いたモナカは、驚愕しながらも、過去の話を思い返していた。


(屋敷で聞いた話を元に考えると、今の殿下はアール・クラナータが成り代わっているから、火事で亡くなった?のは本物の殿下で間違いない……はず)


 というのに本物を名乗る第二王子が出てきているのは恐らく、反旗を翻そうとするアールを切り捨て、より従順な傀儡として、新たな第二王子(人形)を本物として立てるつもりなのだ。アズノール公爵は。

 メランの説明には半信半疑だった者達も、ラークの説明を聞いているうちに、次第に事の深刻さを理解したらしい。

 ダーウィンが挙手をして発言をする。


「荒唐無稽な話に聞こえますが、第二王子が偽物と入れ替わっていた件、自分はありえない話ではないと考えます。実際に、あの三校大会でエリザ・エルメスに化けていた刺客は、ゴードンの生徒を完璧に欺いていました」


 そう、この場にいる者達は皆、三校大会の偽エリザ事件を知っている。

 ……そして、その刺客が逃走したことも。

 ウラウィのことを知らない彼らからしてみれば、第二王子=偽物説は、かなり信憑性のある話なのだ。

 そんな中、ニーアが静かに口を開いた。


「皆さん、現時点ではあまりにも情報が少ないので、憶測はやめておきましょう。

 メラン、会長が連行される現場を見ていた人間は、他にいましたか?」

「えーっと、周りに他の人はいなかったと思うけど……でも、兵隊さんがいっぱい来てたから、絶対、何人かは気づいてると思うっすよ?」

「現時点ではまだ、そこまで話は出回っていないんですね?

 ……なら、この場にいる全員、今回の件について、他の生徒には黙っていてもらえますか?」


 ニーアの言葉を、メアリーが「それが妥当ね」と肯定すると、エリックが口を挟んだ。


「でも、察しの良い生徒は、いずれ俺達に問い合わせにくると思うぜ。

 それでも、知らぬ存ぜぬを通せるか?」

「騒ぐ者がいるのなら、こう言ってやればいいのよ。

 『王室の威信に関わること故、不確かな情報は流せない』『不確かな情報を流した者は不敬罪になりうる』とね」


 メアリーがピシャリと言い切り、ニーアもそれに首肯する。


「この先、生徒会がどうなるのか──それはまだ分かりません。

 ただ僕達は現状把握に努めながら、今後のことを考えていくべきだと思います」

「それで、俺に何かできることはあるんすか? 会長を助けるためなら、俺、一肌脱ぐっすよ!」


 メランはフィリップのことを慕っていたから、今すぐにでも助けに行きたいのだろう。

 そんなメランに、ニーアは少しだけ困ったように眉を下げて言う。


「とりあえず、新生徒会役員候補の皆さんは、一度寮に戻ってください。今後のことは追って説明します。

 僕はヴェルトン副会長と一緒に職員室に行って、今後のことを相談してくるので……良いですよね、ヴェルトン副会長?」

「…………あ、あぁ」


 ニーアに声をかけられたラークの反応は鈍かい。

 いまだ、現実を受け止めきれずにいるのだろう。

 誰もがラークを痛ましげに見る中、妹のアーディアだけが冷ややかにラークを見ている。


「……現生徒会長不在の今、場を取り仕切るべきは副会長でしょうに……副会長がこのザマじゃ、会長も報われないわね」

「アーディア嬢っ!」


 ニーアが窘めても、アーディアの目の冷たさは変わらない。

 ラークはのろのろと顔を上げると、額に手を当ててゆっくりと息を吐いた。


「いや、いい。そうだな、お前の言う通りだよ、アーディア。

 あの方がお戻りになるまで……生徒会副会長として、なすべきことをなさねば」


 そう呟くラークはやはり憔悴が色濃く、今にも倒れそうな危うさがあった。


 * * *


 結局、新生徒会役員達は一時解散。エリック、メアリー、モナカの三人が生徒会室で待機することとなり、ニーアとラークが職員室へ報告へ行く流れになった。


 ラークはふらつきそうになる己を叱咤し、足に力を込める。


(私が、しっかりせねば)


 フィリップは連行される直前、ラークに言ったではないか。生徒会は君に任せる、と。

 ならばラークは、その期待に応えなくてはならない。

 ……ところが生徒会室を出たところで、アーディアが足を止め、ニーアとラークの服の裾を掴んだ。

 新旧生徒会役員のどちらでもないアーディアは、そもそも最初からこの場にいる理由がない。

 ましてこの非常事態ともなれば、当然、寮に戻って然るべきである。


「アーディア、お前は部屋に戻っていろ」

「……………………4人」


 ボソリ、と呟き、アーディアは二人の服から手を離す。

 ニーアがアーディアに訊ねた。


「アーディア嬢、どうしたんですか?」

「……メラン・バグオールの報告を聞いた時、妙な反応をした人間が三人いたわ」


 クローディアはいつもの陰鬱な表情で、右手の指を三本立てる。


「一人目、モナカ・オルフェ。モナカはあの時、咄嗟にメアリー・ラージェントを見た。

 二人目、メアリー・ラージェント。彼女もまた、咄嗟にモナカを見た」


 モナカとメアリー、その奇妙な組み合わせにラークが眉をひそめれば、アーディアは生徒会室に目を向け、言葉を続ける。


「……そして、後二人──」

明日の5/28と、5/30は投稿できません。

日曜は普段投稿しませんが、もしかしたら、5/31は投稿できるかもです。

よろしくお願いします。

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