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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第十二章:舞踏会編
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番外編:もう一人の王子様

 レティーラ王国が誇る七賢者『黎明の魔術師』デリック・ラン・フォーレは、目の前に座るアズノール公爵を前に、なんとか平静を取り繕おうとしていた。


 フィリップからアズノール公爵に一服盛るよう命じられ小瓶を渡されてから、既に数日が経過している。

 どのタイミングで、どうやって…その答えが出せぬまま悶々としていた矢先に誘われたのが、アズノール公爵邸での晩餐会。

 晩餐会と謳っているが、実際はアズノール公爵とデリック二人だけの近況報告のようなものだ。

 これはチャンスではあったが、いつ毒を盛るのかが大事だ。

 そこで考えた作戦は、公爵と自分の両方の料理に毒を盛って飲むというものだ。

 これではアズノール公爵のみならずデリック自身も死んでしまうが─


(ここまで覚悟しなければ、かの公爵を暗殺出来るとは到底思えない)


 既に、デリックは自分が死ぬ覚悟を決めていた。

 もしデリックが生き残れば御の字だが、晩餐会には公爵の護衛もいない。この状態なら、毒による暗殺が失敗したとしても魔術でどうとでもなる。魔術で殺害したら、デリックも不意を突かれて魔術を受けたように部屋を荒らしておけばいい。

 万が一この作戦が失敗したとしても、家族だけは巻き込まれないよう、既に第一王子のもとに送っている。途中で公爵の追っ手に襲われても大丈夫なように、残りの契約上位精霊に護衛してもらっている。

 もうデリックが恐れることは何もない。


(もう厨房で料理に毒は仕込んである)


 後は公爵に飲んでもらうだけだ。


 * * *


 給仕がテーブルに2人分の料理を置く。

 見るだけで食欲がそそられる鶏むね肉のソテーに、濃厚な香りを放つシンプルなスープ、大貴族でありながら庶民が食べるものと変わらないブール。

 デリックが毒を仕込んだのはスープ。公爵は晩餐会の時にはいつもスープから手につけているから、という何とも単純な理由である。

 スープに毒が仕込まれていることも知らず、アズノール公爵はスプーンを手に取る。

 ─どうしてか、そのスプーンはいつも公爵が使っているものより少し光沢があるように見えた─

 公爵がスープにスプーンを浸すと、そのスプーンは鮮やかな銀色が黒ずんでいった。


(まさか、銀のスプーンだったってのかよ!)

「………」


 黙り込むアズノール公爵の目は、冷ややかにスプーンを見つめる。

 もし銀のスプーンを使わなければ、毒が盛られていた事に気付かず死んでいたというのに、公爵はその過程に恐れる様子も見せない。

 その様子を見ているデリックの背に、冷たい汗が流れ落ちた。


「毒か─政治の世界に身を置けば、毒など日常茶飯事ではある─が、まさか我が屋敷内に私を暗殺しようなどという者がいるとはな。のう……デリック」


 静かに、あまりに自然に、公爵はデリックに問う。


「これは一体、誰の差し金だろうな?」


 デリックは、青い瞳から放たれる公爵の鋭い眼光にさらされた。そして─


「ふんっ!」


 デリックはテーブルを蹴飛ばし椅子の上に飛び乗った。

 毒が失敗した今、公爵を殺害するには魔術しかない。

 椅子に乗ったデリックは、右手を公爵に突き出す。

 デリックが行うのはミリアの、魔力変質による魔力放出。莫大な魔力が奔流となってデリックの手に集中し、公爵に向けて放たれる─はず、だった。


「なっ…」


 体内で魔力が霧散していく。まるで巨大な壁に阻まれているかのように。


「馬鹿な……!」


 再び魔力を練る。しかし無情にも結果は同じだ。魔力が発動寸前で掻き消えた。


「どういう……ッ!?」

「封魔結界だ。

 貴殿ほどの魔術師を相手にするのだ。何の備えも無しに二人きりになると思ったか?」


 技を防がれたことで冷静さを取り戻したデリックの視界の端に、部屋の四隅に埋め込まれていた宝石が見えた。

 その宝石は小さく赤く発光し、床一面に広がる巨大な魔法陣を展開していた。

 魔力感知を発動してみると、扉の外に3つの魔力反応があった。

 2人分は扉の前で待機している護衛だ。だが、見覚えのない魔力反応が1つだけある。


(いやこの魔力反応はまさか─)


 直後、カチャと扉が開かれた。

 開かれた扉の先に立っているのは、デリックに右手を向け詠唱を始める、金髪の美青年─フィリップ・アルト・レティーラ。ただいつもと違うのは、その瞳が水色ではなく青だというところだ。


「『苦い毒よ駆け抜けろペイルライダー・シェパード』」


 最後の一節が語られた瞬間、デリックが胸を抑えて倒れ込む。

 溶けるような胸の苦しみと、焼けるような痛みを伴う呼吸、そして先の詠唱から推察するに、この魔術は─毒だ。しかも、フィリップがデリックに渡した小瓶よりも強力な。


「魔術の発動は問題なく成功…良くやったフィリップよ」

「お褒めに預かり光栄です、お祖父様」

「アレが裏切ったことが分かり、お前の性能も完璧に近くなった今、もう見逃す必要もない」


 アレ、という言葉が誰を指すのかは言うまでもない。アズノール公爵は、第二王子の裏切りを予見していたのだ。

 だがそうするなら、本当にこのもう一人のフィリップは一体なんだというのか。

 デリックは公爵邸の従者とは比較的仲はよく、世間話として過去のことも聞いていた。

 その話の情報を元に、デリックの頭に1つの説が思い浮かぶ。


(……まさ、か─)


 暗殺を命じた第二王子は偽物で、かつこのフィリップは禁忌を用いて作り出された人形なのではないか─


「安心するといい、貴殿の家族には手は加えん」


 (うずくま)るデリックを哀れに思いながらかけた言葉だったが、デリックはすでに絶命していた。

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