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絵本は畑にある  作者: やしゅまる


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第14話「シンデレラの完成」

秋も深まり、冷たい風が田んぼの稲株を揺らしていた。稲刈りを終えた畑は、今や土の舞台としてシンデレラの世界に姿を変えつつあった。


 「……できた」

 隼人は畑の真ん中に立ち、目の前に広がる光景を見渡した。


 舞踏会のシーンを描いた巨大な模様が畑一面に広がり、その奥には白い布と木材で組み立てられた城がそびえている。

 隣の畑にはガラスの靴をかたどった透明なアクリルのオブジェ。日差しを浴びてキラキラと輝き、まるで本物の魔法が宿っているかのようだった。

 そして仕上げは――町中の人の力で完成した、オレンジ色のカボチャの馬車。光沢を帯びた丸い車体が夕日を受け、柔らかな光を放っていた。


 「まさか、本当に城まで建てるとはな」亮が笑いながら肩をすくめる。

 「いやあ、でも子どもたちの歓声が目に浮かぶっすよ」俊がドローンを操りながら応じる。

 上空のモニターには、巨大な“畑の絵本”がページを開いたような光景が映し出されていた。


 その夜、俊がSNSに空撮映像を投稿すると、反響は瞬く間に全国へ広がった。

 「畑が絵本になってる!」「本物のカボチャ馬車だ!」

 コメントと拡散が止まらず、翌日には大手メディアが取材に訪れた。さらに数日後、海外のニュース番組にも映像が流れ、田主丸の名は海を越えて広まっていった。


 「すごいことになってきたな……」

 畑に立つ隼人は、夢の広がりに胸を高鳴らせながらも、足元が少しふわふわと頼りない感覚を覚えた。


 ――けれど、不思議と怖くはなかった。

 夢を見ているのは自分だけじゃない。町全体が同じ夢を見ている。その確信が隼人を支えていた。


 やがて迎えた「シンデレラ完成記念イベント」の日。

 町はこれまでにない人で溢れかえった。駅前には観光客が列をなし、民宿はどこも満室。畑へ続く道には、県外ナンバーの車や観光バスがずらりと並んだ。


 舞踏会の畑には、手作りのドレスに身を包んだ園児たちが並び、観光客にガラスの靴や折り紙の星を配っている。

 「どうぞ! シンデレラの招待状です!」

 無邪気な声が響くたび、人々は笑顔で受け取り、写真を撮った。


 中央の広場にはカボチャの馬車が置かれ、観光客が順番に乗り込んで記念撮影を楽しんだ。

 「すごい……本当に夢の世界みたい」

 「これ、町の人たちが作ったんですか?」

 感嘆の声があちこちで上がり、隼人たちの胸に温かい誇りが灯った。


 イベントの最後には、俊が編集したドローン映像が大画面で上映された。上空から見ると、畑一面に広がる舞踏会の模様、城、ガラスの靴、カボチャの馬車――すべてが一冊の絵本のページとして繋がり、壮大な物語を描き出していた。

 上映が終わると同時に、観客から大きな拍手が湧き起こる。


 「隼人さん、これ!」

 美咲が両手で大切そうに差し出したのは、印刷を終えたばかりの絵本だった。

 表紙には《畑のシンデレラ》の文字と、空撮写真から切り取ったカボチャ馬車の姿。


 「二冊目、完成だな」

 亮が誇らしげに笑い、俊は「これでまた全国に夢を届けられますね」と自信満々にうなずいた。

 隼人はページをめくりながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。


 ――“夢を追いかける場所”だったこの町が、今は“夢を広げる場所”になっている。


 都会で心が折れ、居場所を失ったあの日からは考えられない未来が、ここにあった。

 畑の上に広がる物語と、笑顔に包まれた人々。

 それこそが、隼人が求めていた「夢」と「居場所」だった。


 夜空に打ち上がった小さな花火が、静かに広がる。

 町全体が一冊の絵本となり、次のページをめくる準備をしているようだった。


 隼人は心の中で静かに誓った。

 ――この物語は、まだ終わらない。


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