第13話「カボチャの馬車」
シンデレラ計画が動き出して数日後、町の空気はまるで学園祭前夜のような熱気に包まれていた。
「おう、隼人くん。これを使ってくれ」
農家の一人が軽トラックいっぱいのカボチャを持ってきた。大小さまざまなカボチャがごろごろと積まれ、荷台はオレンジ色で埋め尽くされていた。
「すごい……! これ、本当に全部いただいていいんですか?」
隼人が目を丸くすると、農家は豪快に笑った。
「もちろんよ。シンデレラといえばカボチャの馬車やろ? どうせなら本物のカボチャで作らにゃ面白くなか!」
その一言で火がついた。
「馬車を作ろう!」――町の誰もが口をそろえ、計画は一気に現実のものとなった。
DIYが得意な移住者の青年や、地元の大工たちも集まってくる。畑の一角には即席の作業小屋が建てられ、町全体が工房のような雰囲気になった。
金づちの音、木を削る音、子どもたちの歓声が入り混じり、田主丸はまるで文化祭の準備に沸く学校のようだった。
「もっと丸みを出した方が“カボチャ感”が出るっすよ」
俊がタブレットでデザインを見せながら提案する。
「了解。じゃあこの木枠を削って、曲線を強調するか」大工の親方が腕をまくる。
「馬を模した飾りもつけたら映えるな」亮が口を挟む。
「うん、それなら子どもたちが喜ぶ!」美咲が笑顔を見せる。
いつの間にか、計画の中心は隼人たちだけではなく、町の誰もが当事者になっていた。
俊はさらに一歩進んだ仕掛けを考え出す。
「亮さんがドローン撮影をもちろんやりますけど、今回はVRも導入しましょう。畑の中を歩いたら、シンデレラの舞踏会に迷い込むみたいに体験できるんです」
「おお、それは面白そうだな!」亮が興奮気味にうなずく。
一方、美咲は園に戻ると、子どもたちに声をかけた。
「みんなで舞踏会を作ろう! 王子さまやお姫さまの役になったり、飾りを作ったりできるよ」
「やりたいー!」
「ぼく、王子さまがいい!」
「わたし、ガラスの靴を持ちたい!」
園児たちは目を輝かせ、折り紙や画用紙で星や花を作り始めた。
その小さな手仕事は、やがて舞踏会の装飾として畑に飾られ、物語の世界を彩ることになる。
夜、隼人は完成間近のカボチャの馬車を見上げていた。
オレンジ色の外皮を模した木枠が組み上がり、内部には座席が取り付けられている。まだ未完成ながらも、その姿はすでに夢の象徴だった。
「まさか本当にできるなんてな……」
ぽつりとつぶやくと、亮が隣に立った。
「できるさ。町のみんなが作ってるんだからな」
俊も作業小屋から顔を出し、笑いながら言った。
「VRだって順調っすよ。完成したら馬車に乗りながらシンデレラの世界を歩けます。絶対バズりますって」
美咲も合流し、子どもたちの作った紙の星を見せた。
「これも飾りましょう。舞踏会は子どもたちの夢があってこそだから」
隼人は胸の奥が熱くなるのを感じた。
――これはもう、俺一人の夢じゃない。
かつて東京でデザインに追われ、倒れて帰郷した自分。あの時は何もかもが空っぽで、未来が見えなかった。
でも今は違う。仲間がいて、町があって、子どもたちの笑顔がある。夢は自分のものを超え、町全体のものになっている。
夜空を見上げると、星が瞬いていた。
――もうすぐ、この星の下でシンデレラの舞踏会が始まる。
隼人は強くそう確信した。




