表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絵本は畑にある  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

第13話「カボチャの馬車」

シンデレラ計画が動き出して数日後、町の空気はまるで学園祭前夜のような熱気に包まれていた。


 「おう、隼人くん。これを使ってくれ」

 農家の一人が軽トラックいっぱいのカボチャを持ってきた。大小さまざまなカボチャがごろごろと積まれ、荷台はオレンジ色で埋め尽くされていた。


 「すごい……! これ、本当に全部いただいていいんですか?」

 隼人が目を丸くすると、農家は豪快に笑った。

 「もちろんよ。シンデレラといえばカボチャの馬車やろ? どうせなら本物のカボチャで作らにゃ面白くなか!」


 その一言で火がついた。

 「馬車を作ろう!」――町の誰もが口をそろえ、計画は一気に現実のものとなった。


 DIYが得意な移住者の青年や、地元の大工たちも集まってくる。畑の一角には即席の作業小屋が建てられ、町全体が工房のような雰囲気になった。

 金づちの音、木を削る音、子どもたちの歓声が入り混じり、田主丸はまるで文化祭の準備に沸く学校のようだった。


 「もっと丸みを出した方が“カボチャ感”が出るっすよ」

 俊がタブレットでデザインを見せながら提案する。

 「了解。じゃあこの木枠を削って、曲線を強調するか」大工の親方が腕をまくる。

 「馬を模した飾りもつけたら映えるな」亮が口を挟む。

 「うん、それなら子どもたちが喜ぶ!」美咲が笑顔を見せる。


 いつの間にか、計画の中心は隼人たちだけではなく、町の誰もが当事者になっていた。


 俊はさらに一歩進んだ仕掛けを考え出す。

 「亮さんがドローン撮影をもちろんやりますけど、今回はVRも導入しましょう。畑の中を歩いたら、シンデレラの舞踏会に迷い込むみたいに体験できるんです」

 「おお、それは面白そうだな!」亮が興奮気味にうなずく。


 一方、美咲は園に戻ると、子どもたちに声をかけた。

 「みんなで舞踏会を作ろう! 王子さまやお姫さまの役になったり、飾りを作ったりできるよ」

 「やりたいー!」

 「ぼく、王子さまがいい!」

 「わたし、ガラスの靴を持ちたい!」

 園児たちは目を輝かせ、折り紙や画用紙で星や花を作り始めた。


 その小さな手仕事は、やがて舞踏会の装飾として畑に飾られ、物語の世界を彩ることになる。


 夜、隼人は完成間近のカボチャの馬車を見上げていた。

 オレンジ色の外皮を模した木枠が組み上がり、内部には座席が取り付けられている。まだ未完成ながらも、その姿はすでに夢の象徴だった。


 「まさか本当にできるなんてな……」

 ぽつりとつぶやくと、亮が隣に立った。

 「できるさ。町のみんなが作ってるんだからな」


 俊も作業小屋から顔を出し、笑いながら言った。

 「VRだって順調っすよ。完成したら馬車に乗りながらシンデレラの世界を歩けます。絶対バズりますって」


 美咲も合流し、子どもたちの作った紙の星を見せた。

 「これも飾りましょう。舞踏会は子どもたちの夢があってこそだから」


 隼人は胸の奥が熱くなるのを感じた。

 ――これはもう、俺一人の夢じゃない。


 かつて東京でデザインに追われ、倒れて帰郷した自分。あの時は何もかもが空っぽで、未来が見えなかった。

 でも今は違う。仲間がいて、町があって、子どもたちの笑顔がある。夢は自分のものを超え、町全体のものになっている。


 夜空を見上げると、星が瞬いていた。

 ――もうすぐ、この星の下でシンデレラの舞踏会が始まる。


 隼人は強くそう確信した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ