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絵本は畑にある  作者: やしゅまる


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15/15

第15話「絵本の村」

 冬の柔らかな日差しが差し込み、山の稜線に薄く雪が残っていた。

 田主丸の町は今、全国からの注目を集めていた。


 「桃太郎」と「シンデレラ」――二冊の畑絵本は書店やネットで話題を呼び、町には毎週のように観光客が訪れている。駅前には新しいカフェや雑貨屋が並び、移住者が始めた民宿はどこも予約でいっぱい。農家たちの直売所もにぎわいを見せ、子ども連れの観光客が地元の果物を買い求めていた。


 町は変わり始めていた。

 静かで、時に取り残されているように思われたこの田舎が――今は「絵本の町」として知られ、夢を届ける場所になっていた。


 「すげぇな……」

 駅前を歩きながら亮がつぶやいた。かつてシャッターが閉じていた商店街に、新しくできたカフェから若い声が溢れている。

 「移住者も増えてるみたいっすよ。DIY得意な人やアーティストが『自分も何か作りたい』って」俊がスマホを見せながら言う。SNSには田主丸での新しい暮らしを紹介する投稿が増えていた。


 「ほんとに町が変わったね……」

 美咲は園児たちと手をつなぎながら、笑顔で通りを歩いていた。彼女の保育園も“畑の絵本体験”と連携し、県外からの見学者で賑わっている。


 隼人はその光景を見ながら胸の奥がじんわりと熱くなった。

 都会で居場所をなくし、ただ生きるだけで精一杯だった自分。

 けれど、この町で仲間と共に畑に絵本を描き、子どもたちの笑顔に出会ったことで――再び夢を信じられるようになった。


 「隼人さん」

 声に振り向くと、美咲がにこやかに立っていた。

 「子どもたちが言ってるよ。『次は何の物語?』って」


 園児たちが一斉に顔を上げる。

 「浦島太郎!」「白雪姫!」「ピーターパンがいい!」

 小さな声が冬空に弾け、町全体が新しいページをめくろうとしているように感じられた。


 「そうだな……」隼人は空を見上げ、ゆっくりと答えた。

 「次の物語を描こう。みんなで、この町全体で」


 亮が肩を組み、「よっしゃ、次もド派手にやるか!」と笑い、俊は「今度は海外からも人呼びましょう!」と胸を張る。美咲は子どもたちと手を取り合い、にぎやかな笑い声が広がった。


 ――もう一人で夢を追う必要はない。

 この町には夢を分かち合える仲間と、未来を待ち望む子どもたちがいる。


 その夜、田主丸小学校で小さな祝賀会が開かれた。農家も移住者も観光客も、みんなでテーブルを囲み、温かい豚汁や地酒を酌み交わした。ステージでは子どもたちが歌を披露し、拍手が絶え間なく続いた。


 町長がマイクを取り、誇らしげに言った。

 「この田主丸は、もう一つの名前を持ちました。“絵本の町”です!」


 その言葉に拍手と歓声が沸き起こり、隼人の胸はいっぱいになった。

 ――夢を追いかけるだけだった自分が、今は夢を広げる一員になっている。

 都会で失ったものは、この町で確かに取り戻せたのだ。


 夜空を見上げると、満天の星が瞬いていた。

 まるで次の物語のページを照らすランプのように。


 「さあ、次はどんな物語を描こうか」

 隼人の心に、新しい炎が静かに灯っていた。


 その時、子どもたちが広場の真ん中で一斉に叫んだ。

 「ねぇ、次の絵本はなにー!?」


 町全体が笑い声に包まれ、冬の夜は温かく輝いていた。

 ――物語はまだ、これからだ。


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