第11話「二冊目の挑戦」
朝の空気に少しずつ秋の気配が混じり始めた頃、隼人たちは次の一歩を踏み出していた。
「次は……シンデレラでいこう」
作業場のちゃぶ台の上に広げた地図に、隼人が太い文字でそう書き込む。瞬間、空気がぱっと明るくなった。
「舞踏会のシーンはどうだ? 畑を丸ごと使えば、城も広間も再現できる」亮が乗り出す。
「カボチャの馬車を実際に走らせましょうよ。観光客を送迎したら絶対SNSで拡散します」俊がタブレットを叩きながら笑う。
「子どもたちにドレスや王子の衣装を着せて撮影会ができたら最高ね」美咲は目を輝かせた。
桃太郎を描いたときと同じように、夢の断片は次々と飛び交う。だが今回は違う。噂を聞きつけた人々が、次々と町を訪れ始めていた。
「ぜひ協力させてください!」
そう言って訪ねてきたのは、美術大学の学生グループ。デザインや造形を学ぶ彼らは、畑を舞台にした大規模アートに挑戦できると目を輝かせていた。
また、桃太郎のドローン映像を見てやって来た写真家、移住を考える若者家族まで現れた。
「町がにぎやかになってきたな……」
畑を見渡しながら亮がつぶやく。
人が増えることは喜ばしい。けれど同時に、課題も大きくなる。
「宿泊はどうする? 今の民宿だけじゃ足りないぞ」
「観光客が急に押し寄せたら、交通の整備が追いつかないっす」俊が眉をひそめる。
「資材費も人件費も、桃太郎の時の比じゃないわね」美咲の表情も真剣だった。
ちゃぶ台の上には夢と同じくらい現実的な問題が積み重なっていった。隼人は静かにノートを開き、何も書けずにペンを握りしめる。
――このままでは空想で終わる。夢を持続可能な形に変えなければ。
そんな空気を破ったのは、やはり俊だった。
「まあまあ。大丈夫っすよ」
にやりと笑い、タブレットを取り出して画面を見せる。
「この前言ってた畑絵本をネットで予約を始めたら、あっという間に注文が殺到してます」
「えっ、もう動いてたのか!」隼人が驚く。
「やるじゃないか、俊!」亮が豪快に笑う。
「園児たちに配れるくらい刷れたら素敵ね」美咲の声は弾んでいた。
俊は自信満々にうなずく。
「資金面はこれでなんとかなります。来られない人には本で物語を届ける。読んだ人は“次は現地で見たい”って思うはずですよ。つまり、シンデレラへの招待状になるんです」
隼人は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
――畑は物語を描くだけじゃない。その物語を本にして、遠くへ運ぶことができる。夢をさらに広げることができる。
「……ありがとう、俊」
ゆっくりと顔を上げ、仲間たちに言った。
「俺たちはただ夢を追いかけるだけじゃない。町と子どもたちのために、持続できる形にしよう。そうすれば“絵本の村”は本物になる」
その言葉に三人は深くうなずいた。ちゃぶ台の上の図面と写真が、希望の灯りのように輝いて見えた。
「桃太郎は第一章。次は第二章だ」隼人は力強く宣言した。
「カボチャ馬車送迎つきシンデレラ……っすね」俊が軽口を叩き、みんなの笑い声が作業場を満たした。
外ではコオロギが鳴き始めていた。夢は確かに膨らみ、町を巻き込み、次のページを開こうとしていた。




