第10話「広がる夢」
桃太郎の完成から一週間。畑に浮かぶ巨大な物語は、地元だけでなく全国の話題になっていた。
「畑一面に桃太郎」「空から読む巨大絵本」――そんな見出しが新聞を飾り、テレビ番組ではドローン映像が繰り返し流された。
隼人のスマホにも取材依頼や応援メッセージが次々と届く。
「東京から家族で行きたいです!」
「こんな形の地域活性化、初めて見ました!」
「次はどんな物語を描くんですか?」
週末になると観光バスが何台も止まり、畑の周囲は笑顔であふれていた。町の飲食店は連日満席となり、商店街も活気を取り戻していた。
「本当に……人が戻ってきた」
夕方、畑の端に立ち、賑わう様子を見ながら隼人は呟いた。
何にもないと思っていた町。その町が、今は物語を通じて新しい色を帯び始めていた。
子どもたちの声も明るい。
「次はシンデレラがいい!」
「いや、浦島太郎も面白そうだよ!」
園児たちが無邪気に語る未来の物語に、大人たちも笑顔で耳を傾けていた。
夜、作業場に集まった隼人、亮、俊、美咲の四人。ちゃぶ台に広げた地図の上で、次の計画を話し合っていた。
「シンデレラなら、空いてる畑を舞踏会の会場にできるな」
亮が腕を組んで唸る。
「観光客をカボチャの馬車で送迎する……なんてのもアリかもしれませんよ」
俊が笑いながら付け加えると、美咲も目を輝かせた。
「子どもたち、大喜びするわね!」
アイデアは次々と飛び出し、まるで本当に魔法が畑にかかるような空気だった。
しかし隼人の胸には一つの不安もあった。
「でも……資金はどうする? 桃太郎はボランティアと協力で何とかできたけど、規模が大きくなれば維持費もかかる」
その時、俊がにやりと笑ってタブレットを取り出した。
「実はもう考えてあるんです。ほら、見てください」
画面には、桃太郎の畑を一枚一枚撮影した写真が並んでいた。空から見た桃が流れる川、犬・猿・キジと出会う場面、船に乗って鬼ヶ島へ向かうシーン、そして勝利のラスト。まさにページをめくるように物語が進んでいた。
「これを本にするんです。“畑絵本”として。写真絵本にして販売すれば、活動資金も作れるし、来られない人たちにも物語を届けられる」
その場が一気に沸いた。
「いいじゃないか!」亮が手を叩く。
「園の子どもたちに配本できたら最高だわ」美咲の目は輝いていた。
隼人も胸が熱くなるのを感じた。
――畑は物語を描くだけじゃない。その物語を本にして、さらに遠くまで広げられるんだ。
俊が続けた。
「絵本にしたら、町の外の人も“次は現地で見たい!”って思うはずです。つまり、次の物語への架け橋にもなるんですよ」
仲間の言葉に、隼人はゆっくりとうなずいた。
「……そうだな。畑を絵本にして、この町全体を本当に“絵本の村”にしよう」
四人は顔を見合わせ、声をそろえて笑った。
外では秋の虫が鳴き始めていた。物語は一冊を描き終え、今度は本となり、そしてまた次の物語へとつながっていく。
「桃太郎は第一章。ここからだな」
隼人がそう言うと、俊が軽口を叩いた。
「じゃあ第二章は……世界初の“カボチャ馬車送迎つきシンデレラ”で決まりっすね」
美咲も亮も大笑いする。
――夢はまだまだ広がる。
隼人の目には、未来の畑がページのように並び、次々と物語が描かれていく光景が鮮やかに浮かんでいた。




