1386 不思議な夢の話
気づいた時、私は真っ白な空間にいた。
ここはどこだろうか……。
見覚えのある気もして、私、クウ・マイヤはあたりを見回す。
ああ、そうか。
ここは神界なんだろうか。
クウ・マイヤとなる時、私は真っ白な空間にいた。
そこなのかも知れない。
なので目の前に、不意に誰かの気配を感じた時――。
私はそれをアシスシェーラ様だと思った。
私を異世界転生させてくれた創造神様だ。
「ねえ」
だけど聞こえたその声は、私の知るアシスシェーラ様のものではなく、もっと幼い眠たげな感じのものだった。
「お姉ちゃん」
「え」
呼びかけられて、私はまばたきした。
すると目の前に、私によく似た空色髪の少女がいた。
ぼんやりとした眠たげな顔をしている。
「……ネル?」
「うん」
その少女が誰なのかは一目でわかった。
ネル・マイヤ。
私の妹。
ゲーム世界でそう設定したマイNPC――フェローと呼ばれる個人専用のAIキャラクターだった。
「おやすみ」
ネルはそう言った。
「寝るの?」
私はたずねた。
「寝ている」
ネルはそう言った。
「そうなんだ。今は起きているように見えるけど」
会話しているし。
「ずっと寝ている」
「ごめんね。起こさなくて」
ゲーム内で私は、ネルを屈強に育成した。
レベルはカンストまで上げた。
スキルも、武器はショートソード、魔法はサポートキャラクターが習得可能なもののすべてを限界値まで鍛えた。
だけど、完成させた後は放置してしまった。
サポートキャラクターに出番のないエンドコンテンツばかりしていたからだ。
「いい。寝ているのは好き」
「そっか……。それで、今は?」
「わからない」
「そっか。私もわからないや」
要領の得ない会話だけど、本当にわからないから仕方がない。
「お姉ちゃん。私はお姉ちゃんのフェロー」
「うん。そうだね」
「私には指示が必要。それが合図」
「合図……? 何の?」
「わからない。だけど、わかる。私には指示が必要」
「ネルは寝ていたいんだよね?」
「うん」
「なら寝ていていいよ」
「わかった」
「でも――」
ずっと寝たままというのは、いくらなんでも駄目だ。
私に責任があるのならば――。
ネルが夢の中の存在だけではなく、どこかに居るのならば――。
「でも、もしも誰かがネルのそばにいて、ネルの助けが必要になったら。ネルが助けてあげないと大変なことになってしまいそうなら――」
「どうすればいい?」
「目を覚まして。その誰かのために、力の限りに戦って」
限界まで上げたのに使うことのなかった力を――。
存分に振るってほしい。
「わかった」
「それが私の指示、というかお願いかな。あ、そうだ!」
私は急いでアイテム欄を探した。
あった!
「これ、持っていって」
「私の武器」
「うん。ずっと私が持ったままだったから」
「受け取る」
私はネルに一本のショートソードを渡した。
これはきっと、夢の中だからだろう。
私は転生の時、「アストラル・ルーラー」以外のアイテムをなくした。
私はそれを忘れて、思わず探してしまったけど……。
なのにそれは普通に存在した。
それは、漆黒の刺突剣。
魔剣「ルミニアス」。
私の「アストラル・ルーラー」には及ばないものの、ゲーム内でも屈指の攻撃性能を有していた闇属性の武器だ。
この武器であれば、私の装甲を貫いて致命傷すら与えられる。
さらには「昏睡」という凶悪な追加効果もついている。
きっと役に立つことだろう。
「あと、これも」
「私の鎧」
「うん。ずっと私が持ったままだったから」
「受け取る」
私はネルに一式の防具を渡した。
それは、黒と銀のライト・プレイト・アーマー。
夜天外装「ステリア」。
夜であれば私の「アストラル・ルーラー」の攻撃にさえ耐えうる、ゲーム世界で最高峰の防御力を誇っていた鎧だ。
昼でも普通に堅い。
並の武器による攻撃なんて、昼でも完全に無効化する。
きっと役に立つことだろう。
ちなみにこちらも属性は闇。
ネルは私と似た外見ながら、夜と闇の支配者な魔法少女だったのだ。
「お姉ちゃん」
「うん。なぁに?」
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
ネルとの会話は、それでおわった。
気がつくと、朝。
眩しい朝日に照らされて、私はベッドの上で目を覚ました。
いったい今の夢は、なんだったのだろう。
ネルの姿を鮮明に見るだなんて。
ネルは、まるで、生きているかのようだったけど……。
私のことを、お姉ちゃんと呼んで……。
ごめんね、薄情な姉で。
ゲーム時代から、まったく相手にしてこなくて。
ただ、その感傷は続かない。
なぜなら――。
「うわ! やばっ! 完全に寝過ごしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう!
今日から夏の旅が始まる!
初日なのに、もはや集合時間が来ようとしている!
南の島が待っている!
「うわああああ!」
私は大急ぎで身支度を整えた!




