8.静場
腹の痛みは治まったが、他に収まりきらないものはいくらでもある。
僕は布団から起き上がる。つい三時間ほど前、望月と掛川が来た時よりは圧倒的に調子はいい。
「腹の具合はどうだ?」
「だいぶましになった」
喋っても痛みはない。これなら、大丈夫だろう。
腕を回してみたり、足を動かしてみたり、軽くジャンプしてみたり、多少痛みはするものの五体満足だ。
携帯を見ると望月からのメールが来てた。
「ごめん。大丈夫?」
とても簡潔な文であった。しかし、その裏に秘められた気持ちは少しはくみ取れる。
「大丈夫だ。ありがとうな」
そう返信する。
「……彼女を取り戻す気はもちろんあるよな?」
唐突に、そして力強くお父さんは僕に尋ねた。
「もちろん」
即答した。お父さんは「それでこそ俺の息子だ」と笑う。しかし、その目は笑っていなかった。むしろ、何か遠くを見ているような、遠くを思い出してるような目だった。
「さっきも言ったが、今回俺は何もできない。お前しか解決できない」
「なんでわかるんだよ」
「俺の勘だ。よく当たるんだぜこれが」
そういいながらお父さんは何か準備をする。どこかへ出かけるのか?
「どっかでかけるの?」
「は? そんなの聞かなくてもわかるだろ」
「え?」
「鷲の家だよ」
数分後、僕とお父さんは車の中にいた。流れる景色を目で追いながら、僕は心中の複雑に絡み合った糸を一本一本取り除いていた。
望月からもらった話は、正直規模がでかすぎた。琴音に結婚相手が決まった。しかしながら、多分それは政略結婚だろう。琴音は大きな世界、大きな会社の持ち駒の一つにしか捉えられていない。こんな大きな話に関与してしまうのか……と考える。
しかしながら、僕には打開策が一つだけある。記憶を導いて、心理を辿り、ようやく見つけた真実。僕は、その武器を片手に鷲家へと乗り込む。
「これが終わったら、酒でも飲み比べるか」
「……僕は未成年だっつうの」
携帯を見ると、また着信が一件あった。マナーモードにしてなかったのに何で気付かなかったんだろう。
望月からであった。
「頑張れ」
今の事を見越してるかのごとく、望月の言葉は重かった。
「当たり前だろ」
二人の会話は簡潔だ。しかし、重かった。
車が止まる。外を見ると森の中だった。
「ここは?」
「もう鷲の家の敷地内だ」
正直この町の事は結構知ってると思っていたが、初めて見るような場所だ。
お父さんは車から出て、門のようなものの近くにある何かに向かって話しかけた。話してる内容は部分部分しか聞き取れない。
「龍た……合いだ。あい……に……ろ」
暫く風と、木々が揺れる音だけが耳にはいる。そしてまたお父さんのとぎれとぎれの会話が耳に入る。しかし、さっきより風の音が強く何も聞こえない。ただ、確かに聞き取れた単語は「復讐」であった。復讐? いったい何の?
そして話し終わったのか、車へと戻ってくる。
「話はついた。後はお前一人だ。大丈夫だよな? 今頃帰りたいなんて言い出すなよ」
「当たり前だろ」
「じゃあ行け。門が開いたら男が来るらしいからそれの指示に従えだと」
僕は固唾をのみ、車の外へと出る。
「戻ってこいよ」
僕はお父さんの声に、左手を上げ親指をグッと突き出して答えた。




