6.友情
ふかふかしたベッドの上で、僕は目を覚ました。不思議な感覚だ。もしかしたら、今まで見たものはすべて夢だったのかもしれない。琴音との思い出はすべて幻想だったのかもしれない。しかしながら、誰かの声で僕は現実へと戻される。
「お前やけに重くなったな。二階へ運べなかったぞ」
お父さんの声だ。間違いない。これは、現実だ。さっきまで見ていたものの、延長線上だ。
「こ、琴音は?」
ずきずきと痛むお腹を堪えて喋る。声にならない声だった。
「お前の方がよく知ってるだろう」
お父さんは素っ気なかった。
「……ごめんな」
お父さんはぼそっと謝った。僕は何もしゃべれなかった。
しばらく無言の時間が続いた。正直もどかしかった。琴音が今どんな状況なのかわからないのに、ただただベッドの上で空虚な時間を浪費していくなんて、僕に到底こらえきれるわけがなかった。悔しくて、ベッドを叩く。まだ、お腹が痛い。すべての動きに連動してお腹が痛む。やり場のない怒りに、また僕はもどかしくなる。
「気持ちはわかるが……今俺にどうすることもできない。解決できるのは……多分お前だけだ」
お父さんは意味深気味に何かを言い出す。この状況を解決できるのは、僕だけ。そんなことを言われたら、また悲しくなる。その大事なカギは、今こんな状況だ。不甲斐ない。そんなとき、ピンポーンと無機質な音が鳴り響く。お父さんは玄関へと向かう。しばらくして帰ってきた。
「お友達だ」
その後ろには望月の姿があった。ワンピースの上にジャケットと望月にしては"女の子らしい恰好"をした望月は心配そうに僕の近くに座り込む。
「死んだような顔してるよ。もしかして死んでる?」
「ど……どうして」
「あぁ? どうしてあのことを知ってるかって? 私が張り巡らしているこの町の情報網を舐めてはいけないよ」
正直、ここまで来ると感心するしかない。
「知ってるとは思うけど、あの車は鷲氏の父上の会社の車であることは間違いない。私の知る限りではまっすぐ鷲の父上の自宅まで車は走っていたからね」
僕は言葉の代わりにうなづいて意志を伝える。
「……あと、これは知り合いのライターの話なんだが、不確定情報だから世には回ってないが、鷲氏に結婚相手ができたそうだ」
「!?」
僕は今にも飛び起きそうになったが、やはり腹の痛みが強すぎてそれは叶わなかった。
「おっと、無理しないで。っていう方が馬鹿か。今になって鷲ちゃんを連れ戻したのはそういう理由の可能性が高いかもね」
……マジか。……マジか。……マジか。
正直頭が混乱する。彼女にとって、親の会社を引き継ぐであろうその結婚相手と結婚した方が圧倒的に未来は有利だ。だが、それが最も彼女が嫌うことだ。僕は、どうすればいいんだ。
「こういうのも悪いけど、ギャルゲとして売れる展開だね」
「このことは……言うのか?」
少し喋るのが楽になってきた。
「いや言わないさ。確かに連れ去ったってう事実はあるけど、所詮出来事だ。でも理由はまだ確定しない。それをああだこうだ言うのはただの憶測、妄想であって。私は真実を作らない。真実は語られるものだから。だからさ、その真実を、國定氏の口から告げてほしいの」
彼女のまっすぐな思いが僕の心に直接作用する。
「あ、ありがとう……な。いつか、礼……するよ」
「お礼なんていらないでござる……これは友がする当たり前のことなのだから。でも、お願いをするとしたら、國定氏と、その、キスがしたいです」
お前は何を言ってるんだ。正直最初に思ったのはそういうことだ。
「せ、拙者が馬鹿だったでござる! そんな彼女持ちの男にせ、接吻の頼みごとなど、武士の恥であるな!」
「もう……わけがわかんねぇ」
笑うと腹が痛くなるが、笑いたくなってしまう。
「ふざけるのはやめるよ。でもさ、覚えてほしいのは、國定氏を好きでいるのは鷲ちゃんだけじゃないってこと」
彼女は不器用にウインクした。そして立ち上がり、「じゃあ、これだけだから」と望月はいう。
「最後に……一言だけ。ずっと……下着、見えてた……ぞ」
彼女は天を見上げる。ほんのり赤くなってたのが見えたが、「これは……國定氏を元気づけようと思っただけであって。げ、元気になるって別に変な意味でなくってですな!」
「ハハハ……知ってる……よ。ありがと……な」
「どういたしまして」
なんだ、望月だって、かわいいところあるじゃん。
少し急いでるように、おさげを揺らしながら外へと出てく。そしてお父さんが入れ替わるように部屋に入る。
「いい友達持ったな」
ほんとだよ、僕は心の中でそう思っていた。




