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屋上少女  作者: 悠(はるか)
第八章「日常と"ナ"付けた子供の帰宅」
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5.佳境

 去年一年間と、この三日間を比べたら、どちらかというとこの三日間の方が長かった。一分一秒が、某物理学者の語を借りるなら、熱いストーブに手を乗っけたときのようだった。

「いい朝だ……」

 カーテンからこぼれる太陽。デジタル時計の表示は「6:30」。もちろん午前だ。楽しみすぎて少し早く起きてしまった。

 着替えてから下に降りるとすでに琴音も料理を作っていた。

「早起きだな」

「寝れなくて」

 似たもの同士だったようだ。

「お母さんには悪いですけど、ご飯作っちゃいました。食べますよね?」

「もちろんだ」

 「悠馬君のお母さん」というのが面倒になったのか「お母さん」と呼ぶようになったが、正直複雑である。二重で複雑である。もっというと三重で複雑である。

「今日は電車に乗って向こうへ行くんだが、ちょっと海で遊ぶ時間が長いとこっちへ帰ってくるの大分暗くなるから、その時は近くにホテルとかあるしこの時期なら空きは結構あるらしいから向こうで泊まることも視野に入れてるんだが」

「大丈夫だよ、私は。悠馬君なら変なことしないもんねー」

「僕だって男だわ」

 朝から変な空気になりかねないので「これ美味いな」と料理を褒めておく。

「二人とも早く起きちゃったから電車二本とか三本はやい奴でいい気もしてきた」

「駄目だよ、悠馬君の両親にとりあえずいってきますの挨拶ぐらいしなきゃ」

「……そうだな」

 正直一刻も早くいきたいと気持ちだけは焦がれている。

 数分するとお母さんがやってくる。

「あら? お出かけ?」

「あぁ。二人でな」

「デートか何か? まぁ楽しんできなさい」

「あ、あと料理勝手に作っちゃいましたけど大丈夫ですよね?」

「いいわよいいわよそんなことぐらい。好きなときに使ってもらえればいいわよ」

「ありがとうございます」

 深々とお礼する琴音。それと同時ぐらいに上から物音がする。そして階段を下りる音。

「おはよう、二人とも早いな」

「出かけるからな」

「おう、そうか。気を付けてな」

 何とも取り留めのない会話だが、お父さんは振り返りざまに僕にウインクをする。そのウインクの意味はよくわからないが、少なくともいい意味だろう。

「挨拶は済んだし、行こうか」

「そうだね」

「えっと次の電車は、所川方面、所川方面……っと、七時二十八分か」

「少し余裕はあるね」

「所川っていう大きな駅の近くの駅なんだから、正直もうちょっと運行本数増やしてくれねぇかな」

「まぁ、でもこっち人口すくなさそうだし」

「そうだな……(ひな)びてるもんな」

 彼女に向けた皮肉なんだが、伝わらなかったみたいだ。

「じゃあ、いってきます!」

「いってきます!」

 両親は二人仲良く「いってらっしゃい」と声をそろえる。

 そして玄関を開けた時だった。目の前に謎のスーツ服の男が五、六人現われた。僕はとっさに小春を後ろにし、前に立った。

「誰ですか?」

「小春御嬢さんをお家に帰らせろと、龍太郎様のご命令です」

「……話聞いてるのか?」

 まるで話がかみ合ってない。

「私たちは龍太郎様のご命令以外は聞きません」

 古めかしいお城の騎士(ナイト)だ。

「なんで今頃私を連れ戻しに来たのよ!」

 珍しく小春は怒りを露わにした。僕が親の事を口に出して以来だった。

「龍太郎様のご命令です」

「あんたたちはそれしか言えないの! じゃあ龍太郎の子供の私の命令も聞けるわよね! かえって、うっとうしいわ!」

「私たちは龍太郎様のご命令以外は聞きません」

 まるでロボットだ。気味悪さを感じる。

「ただ、僕は断るぞ。彼女を帰らせない」

「私たちの仕事は、龍太郎様のご命令を実行することだけです……たとえどんな邪魔が入ろうが」

 彼のその言葉を終えた瞬間、サングラス越しに目がきらりと光った気がした。しかし瞬間だけしか考えることが出来なかった。もう、気が付いたら僕は腹に痛みを伴いながら、地面に倒れこんでいた。耳からは小春の叫びが聞こえたが、正直多分殴られた衝撃が強すぎた。

「こ……こと……ね……」

 僕は琴音が連れ去られていく様を地面に倒れながら見続けるしかなかった。無力だった……またしても、彼女は不幸の淵をさまようのか……涙を流して、僕は目の前から光が消えた。

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