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屋上少女  作者: 悠(はるか)
第八章「日常と"ナ"付けた子供の帰宅」
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3.愛情

 屋上から急いで戻ると教室が何やらざわついていた。息を切らした琴音を待ち、教室に入り「何があったんだ?」と聞く。

「次の授業が急に休講になったんだ」

「あれ? 今日の授業は次の一コマで終了じゃなかった?」

「だからだよ。どうせみんな遊びに行く予定でも立ててうるさいんじゃない?」

 一瞬何かあったのかと思うが、心配はいらなかった。正直"厄病神(琴音)"という存在が及ぼす悲劇が、どの程度なのかは全くわからない。しかしながらにゃんこが言っていたことが本当なら、自惚れながらもうこういったことは起きないと考えていいのだろう。

「今日なんかあったっけ?」

 僕は後ろを振り返りながら琴音に聞く。

「友生会は……何もなかったよ? 他も私の知る限りじゃ用事もないし」

「そっか……暇だな」

 帰るか……少し悩むふりこそしたものの、僕の決断はなんだかんだで一通りしかない。

「智也君、一緒に帰らない?」

「ん? ああ、僕もちょうどそう思ってたところだ」

 彼女は少し笑ってから僕の右側で荷物を鞄につめる。僕も同じように鞄に荷物をつめた。

「あいつらやっぱり仲良いな」

「えぇ、私たちが何もできないでござる」

 漫才師である掛川と望月が遠くで何か言っていたが無視を決め込んだ。

 学校から出ると、快晴の空が僕たちを待っていた。雲一つないブルーキャンバスに僕は思いを馳せた。これからは、平和な日常が待ってますように。

「なんだかんだ言って、悠馬君と帰るのって初めてじゃない?」

「……そうだっけか? 確かにそんな気がする」

 正直琴音が隣を歩いてる、それだけで何かうれしいものがある。いつもの日常だったはずなのに、何か違って見える。

「少なくとも()()以来は一緒に帰ってないな」

「なんか、いつも帰るときとやっぱり何か違うね。景色とか、同じはずなのに」

 小さな息とともに僕は意を決して彼女に近づき、彼女の手を握る。驚いたように震える手、瞬間の後、握り返してくれた手は冷たかった。こっちを向いて恥ずかしそうに笑う小春が愛おしかった。

「悠馬君、顔真っ赤だよ」

「うるせぇ」

 僕はそっぽを向く。手はもちろんそのまま。すると、彼女は手を大きく揺らし始めた。

「アハハ……なんか夢みたい。恋人らしい行為を、悠馬君としてるなんて」

「恋人なんだから、少しぐらい良いだろ。恋人らしい行為の一つや二つ」

「だね」

 少し暑い二人の間を風が吹き抜ける。彼女の髪が風と共になびく姿は、屋上で見る彼女に似てるけど、まるで違う気がする。

「風が気持ちいね」

「いよいよ夏だな」

「まだ夏じゃないのかぁ。長いね。それだけ、この三か月が楽しかったからかな」

「そう思ってもらえるなら、いつも隣にいる僕としてはうれしい限りです」

「悠馬君がいなかったら私……」

 風が吹きやむ。琴音がうつむく。僕は声をかけた。

「あのさ、土日空いてる?」

「え? うん、暇だよ」

「今どこ行くか決まってないけどさ、デート、しない?」

 デート、という言葉がここまで口に出しづらい単語だとは思わなかった。なんていうか、恥ずかしいし。

「え!? あ、いいよ! えっと、その私でよければ!」

 焦りすぎて、何を口走ってるのかよくわからない琴音であった。

「琴音以外にだれとデートするんだよ……行先どうしようかなって。海、とかは早いか」

「いいんじゃない、海。今なら人は少ないだろうし、例年より暑くなるみたいなことニュースも言ってたしね、泳げると思うよ」

 ……泳ぐのか。そうなると話は違う。琴音の水着姿……。

「行こう。海に行こう。明日にでも行こう」

「明日は学校あるよ……でも悠馬君が良いっていうなら、いいよ」

 少し小悪魔口調の彼女。いつもの、なんというか、バトルであろうか。

「ただ土日となると、どうやっていけばいいんだ」

「電車でいいんじゃないの?」

「そうだな。計画は練っておこう。楽しみにしておけよ」

「もちろん」

 二人は手を繋ぎながら家まで歩いた。お天と様が、僕たちに微笑んでくれればいいな。

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