1.私情
「お前があいつの娘と付き合うとはな……」
お父さんは僕とリビングで一人きりになると、ふと思い出したかのように喋りだした。お父さんたちが帰ってきて三日。微妙な感じの霧が家の中で渦巻いていた、そんな中だんだんと太陽も照ってきた。
「鷲のお父さんか? 学校で同級生とか言ってたけど?」
「まぁ、おかしなやつではあったな。ちょっと古風で、頑固で、御曹司って陰で呼ばれてたほどに」
「あぁ……」
すべて僕の空想ではあるが、思い当たる節がいくつかもあるので納得する。
「懐かしいな。あいつも変わっちまった」
お父さんは手にした古ぼけた懐中時計を、懐かしむような、憐れむような、そんな瞳で見つめていた。
「お前が通ってる鹿波は私立なんだが……正直私立にしたら異様なぐらい学費が安い。もろもろ原因なんかはあるんだが、鷲の会社も鹿波に出資してるらしい。あいつは昔から学校っていうものが嫌いだった部分があって、今にしてみたら、彼にとってみれば馬鹿げた行為をする意味が分からないんだよな」
「娘が通ってるから?」
「……そんな理由じゃないことは明らかだろ」
娘が家出して、それも探さないような親が、娘の通ってる学校に寄付するなんてちゃんちゃらおかしい話だ。
「オフレコな話だが、鹿波を中心として様々な金銭経路が出来ていたらしく、警察がそこへ介入したらしいだが……いや介入したのかすらよくわからない。最終的にその話は消えたそうだ。あの学校は、何かがおかしいんだろうな。カルト教団の一種みたいな。……なんて暗い話はする気がないが、ちょっと頭の隅にでも置いといてくれ」
お父さんはおもむろに立ち上がり、大きな箪笥の上に載ってる小さな物置のようなところに、懐中時計を無造作に置いた。
「何が言いたいの?」
「いや悪い、話してるこっちも見失ってた。そんなことより、彼女との出会いってどんなだったんだ?」
「は? え……いやぁ……」
「あれか? 死にそうなところを颯爽に助けた白馬の王子様的な?」
「あはは……そんなわけ、ねぇ?」
図星でした。
「うらやましいねぇ、青春。あのときの医学部なんてほとんど女子がいなかったんだよ」
「でもお母さんとはそこで出会ったんじゃないの?」
「あいつはとても勉強熱心だったし、とても親思いだった。なんせ親の病気を治すためにこの分野に入ったって言ったぐらいだ。ま、あいつも親のその病弱な体を引き継いじまったが……ま、お前らは大丈夫だろ」
「ら?」
「単なるいい間違いだ」
「まぁいいや……大丈夫って自信が湧く理由がわからんけど」
「俺がいるからに決まってるだろ?」
「だろうと思ったよ」
急に時が止まった様に静かになる。
「でもお前の事だから、どうせカップルらしいことでもしてないんだろ? 今度デートでも連れてってやれよ」
「あぁ……確かにそうだな。ってか、今までこんなことが起きたことがないんだから知るわけないだろ。どこ行きゃいいかもわからんし」
「俺の息子ながらに心配するぜ……連れて行く場所はお前が自分で決めろ。大丈夫好きな人と行く場所なんてどこでも楽しいから」
「お父さんが恋愛を語ってるとか地球滅亡待ったなしじゃないかな」
「俺は意外にもロマンチックな男だぜ?」
「勝手に言っててくださいって話だわ……」




