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屋上少女  作者: 悠(はるか)
第七章「甘さ控えめコーヒーと恋」
80/90

10.誕生

「ねぇ國定、お前コスプレする気あるよな?」

 クラスメートだが、いまいちによくも覚えていない名前の男が僕に話しかける。語尾が「当然だよな?」みたいな感じで癪に障る。

「……そうだな、望月への礼として」

「そうか! ありがとうな」

 爽やかな笑顔を見せる彼。……しかしながら見知らぬところで綺秋祭のことは運ばれているのか、と僕は顔が暗くなる。気付いたら僕も勝手に落とし穴にはめられているかもしれないし、今後はクラスの事にも気にかけないとなぁ。

「私があなたを助けましたっけか?」

 後ろからふらっと声をかける望月。もうこんなものにもなれてきている自分がいた。

「いろいろとな……約束したじゃんか。別にネタを上げたわけじゃないが、お前には散々感謝をしようと思わなかった助けを頂いたからな」

「とか言って、実は着たいんじゃないですかぁ? メイド服」

「メイド服なら、まだ制服とかの方が着やすくて楽だな」

「國定氏が随分と前向きなんだけど……キモいね」

「キモいいうなよ……着せたのはお前たちなんだからな!」

 もうこの期におよんで怒りを露わにするのは少々気が引けるが、少なくとも怒りたくても誰に責任をぶつければいいのかすらわからない状況だ。……僕がコスプレをするしかもう道は無い。

「でもメイド國定よかったじゃん、俺は好きだぜ」

「あれはかわいかったな」

 男子に喜ばれる男子の気持ちっていうものをひとかけらでも彼らにお裾分けしたい。

「正直私たちよりかわいいんじゃない?」

「あんたは少なくとも負けてるね」

 女子に妬まれる男子の気持ちは彼女たちに理解できるのか。

「でも、友生会長からも國定氏のコスプレは人気みたいですしね」

 ニヤリと望月は笑う。

「……誰だ?」

 その事実をばらした犯人は。いったい誰なんだ。

「教えません」

 少々僕を見下げるかのような視線を浴びせる。微妙に勝ち誇った顔なのが非常にうざったらしい。

「でも、それなら鷲に男のコスプレでもさせるか」

「何その性別逆転カップル」

「面白そうだなそれ」

 遠い方では僕の耳をもうそこでシャットダウンしたい話が聞こえた。僕と琴音との関係はクラス中にはすぐに広まったが、逆にそれ以上はあまり広まることもなかった。

「なんか、琴音に非常に申し訳なく感じてしまった」

「貴方のせいだよ。國定氏がそこまでコスプレ似合っちゃうから」

「だからと言って琴音に飛び火するのはやめていただきたいね」

「でも鷲ちゃんなら喜んで引き受けそうだけどね」

「小春じゃあるまいし……。…………。……ありそうだな」

 よく考えると、確かに小春ほど周りを楽しませるようなキャラではないが、そういうことは喜んで引き受けそうではある。ごめん琴音、と今謝っておくしか僕には罪を償う方法がない。

 と、いう時に限って琴音が笑顔で現れる。

「お! 鷲ちゃんいいところに来た! コスプレとかやる気ない?」

 コスプレのプという文字を発した時点で僕の方を向くその琴音の目は、まさに琴音が獲物を狙うような、そんな恐怖感はあった。僕が目を逸らしたのは言うまでもない。

「あぁ、アツアツだった二人の心にヒビが……大変痛ましいですねぁ」

「……もし本当にヒビが入ったら望月に一生新鮮なネタが上げられなくなる呪いを掛けてやる」

「私もヒビが入らないように善処しないとねぇ」

 昼休みの予鈴が鳴る。ざわめきは、次第に小さくなる。

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