8.日常
明るい空気の食卓は、多分初めて四人で囲むこととなった。
ニヤニヤしている顔のお母さん。
緊張気味の琴音。
いつも通り少し無愛想なお父さん。
そして事の展開が早く、そしてうまくいきすぎてることに多少の戸惑いがありながらも、運命だと信じている僕。
「ニュースで見なかったか? 確かニカラグアだったかで内戦が起きたとか」
「……あぁ!」
確か琴音と望月との、あまり思い出したくないあの場面の後に耳に入っていた気はする。
「ちょうど巻き込まれちゃったってわけ。大変だったわね……」
「ま、その分ちょっと飛行機を手配してもらったりとか、うれしいこともあったな。旅行の最後の方のアジアあたりには行けなかったが」
「……話を聞いているようだと世界一周でもしてきたのかな?」
「ま、だいたいそんな感じの想像でいいわ」
「す、すごい……」
小声で琴音は驚く。
「いやぁ、でも内戦がすぐ治まってくれてうれしかったよ。基本的にずっと続いてるもんだと思ってたから。一週間? 一回ドカンとでかく爆発したが、それきりで収束したんだろうな……」
「治まったら命の無事ぐらい電話してくれよな……」
「悠馬だって私たちに電話とかかけてこなかったよね!」
何も言い返せない。
「親も親なら、子も子だね」
「うるせぇ」
琴音は微笑を浮かべながら僕に耳打ちする。少しばかりであるがこの場にも溶け込めているようだ。
「でも琴音ちゃん? っていったっけ。本当よくこんなやつ選んだね? だいぶ物好きだわ」
「お父さんにも言われたよそれ……」
「こういってるが、こいつだって俺を選んでるんだから十分物好きだがな」
ハハハとお父さんは笑う。自分で言ったらそれはもうおしまいだろ。
「物好きであるのは自覚してますが」
「自覚してるのかよ!」
遠まわしに僕を貶しにかかるのはやめていただきたい。
「心に決めた人なので」
……よくもそんな歯の浮くようなセリフを。
お父さんの方を見ると、さっきまでの楽しげな顔は少しもなく、真面目そうな顔をしていた。
「……大変だと思うが頑張ってくれ」
「は、はい!」
畏まる琴音。食卓に不思議な空気が漂う。
「固くならないでよ! ごはんも固まっちゃうわ」
「お母さん、上手いこと言おうと思って失敗するのだけはやめて」
「ごはんだって固くなるさ」
お父さんはまた楽しげに笑いだす。
お母さんは頬をぷくっとふくらます。
琴音はもう完全に打ち解けたかのように、緊張した面は見えない。
かくいう僕は、不思議な違和感にいまだ包まれていた。




