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屋上少女  作者: 悠(はるか)
第七章「甘さ控えめコーヒーと恋」
74/90

4.正常

「なんか二日三日しかたってないのに掛川と会うのがすごく久しく感じる」

「……なんかあったのか?」

「やっぱり察しが良いな」

 土日も明け、やけに開放的な月曜日がやってきた。外から入り込む陽射しは明るい。

「ま、見当もついてるけどな……」

 彼はちらりと僕の右側――琴音の席を見た。彼はどこまで気付いているのだろうか。

「俺も彼女と仲直りできるものならしたいね」

「今日はできるかもしれないぞ。そんなチャンスがきっとめぐってきてるさ」

「そんな楽観的だったらずいぶん人生楽になるぞ」

「いやいや今日は絶対に違うから。僕の言葉を信じろって」

「あっそう」

 興味なさげに声を出す掛川。あとは琴音がどう動くかだ。

「そういや今日鷲遅いな。いつもこれぐらいに来てるのに」

 掛川が時計を見ながらまた僕の方向を向きなおして喋る。

「そうだな」

 僕は掛川相手に心の内をばらさないようにと言葉を端的に切った。

「何だ仲直りした割にはつれないな」

「別に仲直りしようが前と変わることなんかないさ」

 琴音は僕が出発してからだいたい十分後ぐらいに家を出る予定だ。今から後一、二分といったところか、彼女がつくだろう時間まで。

「おはよー」

 いつもと変わらないような印象の声で教室へはいってきた琴音。僕はその動きを瞳だけで追う。

 だんだんと僕らに近づく琴音。机と机の狭い通路を体を横にしながらこちらへと向かい、そして僕たちの目の前で止まった。

「掛川君、智也君おはよ」

「!? お、おう、おはよう」

 掛川の少し戸惑った顔を見ると笑いが込み上げてきそうだった。

 琴音はそのあと何もなかったかのように自分の席に荷物を置いて次の授業への準備を急いでいた。

「……お前が何かしたの?」

 掛川は僕の耳元で囁いた。

「知らない」

 これ以上掛川の顔を見てると笑いそうだったので、必死に目を逸らしながら僕はそう答えた。

 琴音は掛川に挨拶はしたものの、僕が言った"挨拶"とは多分違う意味の挨拶だったんだろうが……まぁ掛川もこんなだし良しとするか。

「……心臓が止まりそうなぐらい驚いたが冷静に考えてみればお前のこと『智也君』って呼んでなかった? 仲直りしても何も変わらないんじゃなかったっけか?」

 攻め立てるように掛川は喋る。その圧力は非常に強い。

「仲直りしても何も変わらないよ。仲直りならな」

 これだけで彼はだいたい察してくれるだろう。

「……まさか、そんなまさかなわけないよな?」

 彼は僕の肩をポンポンと叩く。ちょっと痛い。

「やったじゃん」

 満足そうな顔。掛川はなぜかそんな顔を掲げた。

「そっか、お前と鷲はついにか……」

 掛川は心遣いからか直接言葉としては出していないが、多分全てを読み取ったんだろう。

「親友として祝福しよう」

「僕はいつから掛川の親友になった」

「親友じゃないということはつまりもはや心の友?」

「餃子でいうところの、焼いた後のあの餃子のの羽根かな」

「その心は」

「別になかったところでどうでもいいけどあったらあったでまぁお得感はあるが実は食いづらい」

「……まぁ緊箍児(きんこじ)よりゃましか」

 随分と懐かしいネタを持ってきたな。

 彼はさっきよりは少しニコニコとしながら僕を見ている。

「國定はどこまで行ったんだ?」

「どこまでってどういう意味?」

「別に変なこと聞いてるわけじゃないぞ……。親とか鷲の心情的な進捗とか」

「そうだな、掛川に琴音が話しかけるようにできるぐらいには進んだかな」

「その時点でもう俺の数倍も先に進んでるな」

「……いや、僕は掛川には追いつけないかもしれないな」

 快晴の空から注ぐ光はいつまでたってもその明るさを変えなかった。


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