3.無情
朝ご飯の後、何をするわけでもなく一緒にテレビを見ていた。ニュース番組を見ながら、ソファーに並んで座る。無言であった。
「AB型のみなさん! 今日はとてもいい日になるでしょう」
テレビから血液型占いの結果が聞こえる。
「やった、私1位だ」
「畜生僕は最下位かよ」
「國定君はA型なんだ」
時折かわす会話もこんな程度なものですぐに会話は散ってしまう。
「もうすぐ夏休み! 夏休みに行ってみたい隠れた名所」
テレビのテロップが僕の目に入る。そうか、もう少しで夏休みか。
「夏休みどこか一緒に行きたいなぁ」
「お前の家行って結婚の申し込みでもしてきたいな」
僕が言葉を発し終えた後約五秒の間。その間に聞こえたのは外からの小鳥のさえずりだ。
「け、結婚!? え、ま、まだ考えるのは早くない? というかまだ私たち高校生だし」
「冗談冗談。でも、鷲はいやだっていうだろうけど、一回でいいから家には行ってみたいな」
「ごめんね……」
「いや謝ったら元も子もないだろ……」
鷲は昔に戻ったかのように冗談にすぐ引っかかる。
「夏休み恋人と過ごすならこんなところ!」
夏休み前のテレビのニュースはだいたい話題はこんなのばっかりだ。こう、既成事実があるとないとでこういう話題への触れ方が違うことに今更気付く。
「昔からずっと憧れてたんだけどさ……好きな人を名前で呼んで、好きな人から名前で呼ばれたいんだ。名前って、下のね」
「琴音」
彼女が言い切った瞬間に僕は彼女の「下の名前」を呼んでやった。
「うぅ……恥ずかしい。今まで一度も呼ばれたことないから。悠馬君もそうでしょ?」
「琴音は下の名前で呼んでも君はつけるんだな。構わないけど。確かに呼ばれたことはないな」
「好きな人に下の名前で呼ばれるだけで、うれしい気持ちになれるね」
「まぁ、"特別"って感じは確かにするな」
ギャルゲの1シーンのような会話を終えた。そして二人はまたニュース番組を見ながら黙っていた。さっきと違うのは、琴音が僕の肩に頭をかけ、僕がそれが気が気でならず背中をピンと立てていたことぐらいか。
ソファーに点々と染みを残す木漏れ日はとても気持ちよく、僕は現実半分夢半分に浸かっていた。
「私っていろんな人に迷惑かけっぱなしだよね」
眠りかけたその耳に入ってきた言葉。
「そうだな。否定はしない」
「悠馬君に言われたらもう心がどん底に突き落とされちゃうよ……」
「多分一番迷惑かけてる掛川のことも少しは見てやってくれよ。あいつのどこが嫌いなんだ?」
「あぁ……」
彼女は掛川の名前を聞くと僕と反対方向に視線をずらす。
「掛川君は、悠馬君にとってみての小春先輩……だって思ってくれればわかりやすいと思う。心の底から疲れていた私を引っ張り出してくれた人」
僕は一瞬で彼女は掛川を嫌ってるわけじゃないと悟った。だったら、彼女はあそこまで棘を出しているのか。わからない。
一瞬で冷めた目、彼女の口はしばらくは動かなかった。
「掛川君は私のこころを見通すように一つ一つの言葉を投げかけてくれて。國定君と小春先輩みたいに、恋という意味では好きかどうかはわからないけど、命の恩人みたいな」
「じゃあ、なんで。……やっぱり親か」
気付いたらソファーの上の染みも消え、薄暗い部屋に男女が二人だけになった。
「そう。彼は親のことを知ってしまった……でも彼は普通の人とは違う質問をしてきた。『学園生活は好きなのか?』って。今までの常識的にされてきた質問と違うのと、何より私が学園生活じゃない……家での生活が嫌いだって見透かされているかのようだった。……自分勝手だよね……今まで優しくしてくれた掛川君や悠馬君みたいな人を自分の判断だけで遠ざけて」
「人間だれだって殻に閉じこもりたい時ぐらいあるだろ。琴音みたいな事情ならもっと。掛川のことだ、謝ればすぐに許してくれるよ。だから、明後日、話はつけとくから『命の恩人』に"挨拶"ぐらいしてやれよ」
「……そうだね、ありがとう」
彼女はどこか思いつめた表情のまま、返事だけを投げた。僕はまた木漏れ日の中夢に浸りだした。




