10.終場
「でも二人はなんでちょっと喧嘩してたの?」
望月は目の前の僕たちに問いかける。
「それは……その」
鷲は言葉を濁らせる。確かに言いづらいことだろう。
「ま、全面的に僕が悪かったんだ」
「いえ! 全部私が悪かったんです……」
ある意味責任転嫁の応酬が始まりかけた。
「ま、二人とも悪かったんだよ。私たちだって結構心配したんだから」
僕たち二人はシュンとしてしまった。
「ま、よかったよかった二人がこうしていい結果で結ばれちゃって」
ちょっと鷲が顔を赤くする。
「それを最初に知れたのも私だし、いい働きをしたよ」
「まぁ確かに望月がいなければどうなってたかわからなかったけど……」
なぜこんなにまで感謝の気持ちがわかないのだろう。
「鷲ちゃんもしっかり見張っとかないとこの男を狙ってる女の子なんていっぱいいるし、この男も何するかわからないしねぇー」
望月の目が少し光る。
「僕はヒモか何かか?」
「く、國定君はそんなことしない! ……よね?」
さっきより顔を少し赤らめた鷲が大声を出す。最後弱気なのがちょっと心に来る。
「わからないよぉ。男なんてコロッと性格を変えるからねぇー」
お前に言われたくねぇよ。お前だけには言われたくねぇよ。
「國定君なら、きっと大丈夫……。く、國定君は私のものだから」
さっきより顔を赤らめて、さっきより弱気なのだ。そして、何かさらっと恥ずかしい言葉を口にしてる。
「でも行動に移さなきゃすぐ男なんて逃げちゃうよ」
望月もそんな鷲につられてヒートアップする。
「こうやってね」
そういいながら望月は鷲と反対側の方から僕の体を抱きしめる。……冷静に考えるととんでもない状況だ。
「あの離してくれ……」
「だーめ」
望月は楽しそうだ。
鷲の方に目を向けると、何のせいかわからないがすごい顔を赤く染めていた。もう夕焼けなんてもんじゃない、顔から火が出てるんじゃないか本当に。
「わ、わ、私のものだから!」
鷲も僕の体を抱きしめる。女子二人に抱きしめられている。昔の感覚がよみがえって鳥肌が立ちそうだ。こんなことが起きながら、頭はいたって冷静――というか現実逃避を行っていて、掛川にでも話そうものなら一週間縛られるんじゃないだろうかと不安になる。
「だから離してくれ……」
「だめだって」
「望月ちゃんが離さないと離しません!」
あぁ……僕鷲から愛されてる。うれしいなぁ。涙が出てきそうだ。ただ、やけに鷲が解放的だ。望月が酒でも飲ましたのだろうか。
「このままだと埒が明かないよ?」
望月は鷲を囃し立てる。このままだと鷲が爆発しそうだ。
「だから離せうっ!?」
言葉を遮る、というか口が封じられた。僕は肩をビクンと揺らす。一瞬何が起こったかわからない。目の前の状況を冷静な視点で見る。僕のすぐその目の前に鷲の顔。それしか見えない……。
「ん……!?」
鷲がキスをしているのか? そう考える以外になかった。キスというよりか、ただただ唇を押し付けてるような、そんな感じだ。僕は身を動かさずそれをゆっくりと受け入れた。
静かな鷲の鼻息が聞こえる。そして、目を開けると、彼女の閉じた瞳から涙が流れている……そんな風に見える。
数秒。たぶんそれだけだった。時が止まるその感覚とはまた違った感覚だ。
「…………」
彼女は蕩けきった顔をこちらへ見せる。刹那の無言のうち、一瞬間に表情をコロコロとかえ彼女は「イヤー!!」というような感じの叫び声とともにどこかへ逃げてしまった。
僕は静かに望月の方を見て、彼女の呆気にとられた顔を見て僕ははにかんだ。
「なんか、叫び声あげられると心に来るものがあるな」
「目の前で熱いキスシーン見せられた私の方が心に来るよ」
そういいながら望月はテレビをつける。ニュースがちょうどやっていた。
「ニカラグアでの起きていた内戦は……」
「あ、これ治まってたんだ。早かったね」
「なにこれ?」
僕は望月に聞く」
「いや、ニカラグアで大きな内戦があったらしいんだけど、規模の割にすぐに治まったみたい」
「初めて聞くな」
「ま、國定氏は大変だったしね。ま、アメリカが近くにあるからすぐに治まるだろなんて言ってた人いたし」
「ふぅん……」
しばらく二人でニュースを見ていた。
「CMの後はカップルで行きたい旅行先ベストファイブ発表です!」
こういう話題にまったく興味がなかったのに、今になるとちょっと恥ずかしい。
「あぁ、うらやましいなぁ鷲ちゃん。あんなの見せられたら國定君盗れないよ」
「……盗る気あったのかよ」
「誰よりスクープとゴシップを愛した私が初めて好きになった男性だよ?」
内心異常なぐらいヒヤヒヤしている。今日は厄日なんだろう……厄日というのは申し訳ないな。
「女性は好きになったことあるのか?」
「私は男性より女性の方が好きだなぁ」
にやにやしながら彼女は僕に言う。……怖いよ。嘘かどうかわからないから。




