9.日常
鷲を抱きかかえながら家に着いた刹那、目をくらませるフラッシュの洗練を受けた。僕は一瞬で誰が焚いてるのかを察した。
「望月か」
「ご名答ー」
僕と鷲を助けてくれた一番の恩人だったが、なぜだか感謝をする気持ちにはなれなかった。
「え、何で望月ちゃんが?」
僕の腕の中で鷲が喋る。
「お前があそこにいたことをメールで教えてくれたんだ。命の恩人みたいなもんだ」
「いやぁ……二人の仲がちょっと引き裂かれてたんで助け舟を出しただけなんですけど……こんなにまでいい方向に風が吹くなんて私ですら思ってなかったよ」
下を見ると恥ずかしそうに鷲が顔を赤くしてる。
「立てるか?」
「え? うん、もう大丈夫だと思う」
彼女は弱弱しく吐きながらも、その足を地面につける。
「えっと、なんかいろいろありすぎて頭の中がごちゃごちゃしてる」
「國定氏はそんな彼女にいろいろなことしたのか……?」
半ば狂気の目を光らせる彼女。
「全力で否定したいけど否定できないな……」
「まぁまぁ仲良きことに敵うものはないですな」
望月はまさに老人のように言葉を発する。
「望月にもこんなイベント起こればいいな」
そして僕は家へと入ろうとする。
「望月も上がるか? 飯ぐらいご馳走するよ」
「おぉ……普段ならお断りするところでござるが、腹の虫がおさまらぬので、お言葉に甘えさせていただく」
どこから突っ込んでいいのかわからないが、「腹の虫がおさまらぬ」というのは「腹が減った」というのを言いたかったのか、それともことわざ通りの意味で使ったのか……。「まぁいいや。こんなこと想定してるわけないから量が少ないかもしれないけどごめんな」
「私も手伝おうか?」
ちょっと心配そうに鷲は僕の顔をのぞきこむ。
「まぁ手伝ってもらえるのならしてほしい……かな?」
いかんせん彼女は頭も体も多分疲れ切ってるのだろう。こちらの身からすれば休んでもらいたいが。
「邪魔者は退散したい気分だけど、据え膳食わぬは男の恥なのでひっそりと家具にでも変すね」
「いや……まだ据え膳出してないんだけど……」
僕ら二人がキッチンへいるとき、確かに望月は家具にでもなったかのようにじっとしていた。しかしながら首だけはネタを探している、いやなんというか初めて彼氏の部屋に上がった女子のごとく――実際のところ僕の初めての彼女は鷲なので想像だが――あたりを見回していた。
「何作るつもりなの?」
「ニラタマ。ニラレバのレバーを卵にして、まぁ豚肉と一緒に炒めて、味付けは焼き肉のたれでもなんでも」
「……知らない間に國定君スキルアップしてるね」
ちょっと悲しそうな目を床に向けた。
「鷲のおかげだって。ほら望月が待ってるし早くつくろう。冷蔵庫の中身は何使ってもいいよ」
僕はそのニラタマを、彼女は何かスープを作っていた。その間、望月の行動は何一つとして変わっていなかった。
彼女は疲れとか、そんなものを一切として見せなかった。常に笑顔で、料理を楽しんでいた。
十数分ののち、食卓の上にはおいしそうな匂いが香り、それを囲んだ三人が「いただきます」と声を合わせていた。




