8.開状
太陽の光がとても気持ちよく感じる。屋上に寝そべりながら僕は目を瞑る。
「今日もいい天気だね」
二日連続の快晴。多少は暑いが心地よい風が舞い込む屋上は、とても気持ちがいい。
「そういえば、今日って満月だな。これぐらい晴れてれば綺麗にみえそうだな」
「いつかこの屋上で月とか見てみたいな」
不意に僕と鷲は目が合う。しかしお互い即座に目を離してしまう。前回の屋上での一件以来、お互いが近づいて、お互いが離れてしまった。
静かな屋上に、寂しく風が吹く。このまま寝てしまいそうだ。しかし、そんなことしたら昼飯を食わずにこれからの授業を受ける羽目になる。
「そういや屋上にいるときは勉強はいいのか」
「こんなところにまで勉強は持ってきたくないし」
テストの日まで指折り数えるだけとなったが、彼女は屋上で勉強はしたことがない。何か理由があるのか。そう思いながら僕は買ってきたパンを頬張る。
「そういえば前回の料理教室日に、たまたまネット使ってニュース見てたんだが、鷲と全く同じ字の会社があったんだよ。偶然かな」
他愛のない話のつもりで聞いた。しかし、彼女は少し顔を強張らせる。
「え、ふぅん。偶然じゃない。でも私と同じ苗字って珍しいね」
少し焦っているとも見て取れる彼女に、僕はこれ以上同じ話題を振るのはやめた。しかし、この話題を僕の中で取り消したわけじゃない。
その日の放課後。僕は掛川と例のイートインスペースにいた。
「で、鷲について聞きたいことがあるんだろ。なんだ?」
「お前、鷲って会社知ってる?」
その言葉を聞いたとき、掛川は何かを悟ったような顔をした。
彼は多少間を置き、僕に向かって話しかける。
「何で知ってるんだ?」
「たまたまネットで知ったんだ。同じ名前だから珍しいなと」
「この話にはあんまり関与しないほうがいいぞ。俺の経験だ。彼女はこの話をとても毛嫌う。何よりもだ」
掛川の目は厳しく僕を見る。
「それを知っているだけで俺は彼女から相手すらされないんだ。困ったもんだぜ」
「もしかしてだが、あいつの親が経営してるとか?」
「まさにというか、大正解だ。正確には鷲一族の会社で、今はよく覚えてないが何代目かの社長が鷲の親父だ」
さらっと衝撃的事実を聞いた気がする。
鷲は、親が嫌いだと言った。その親は古参企業の社長。かけていたピースが集まり始めた。
「でもお父さんが社長って、結構若いんじゃないか」
「いっても確か52,3歳とかだし、それなりだろ。お爺さんは割と若くして亡くなってしまったらしいし」
何より驚きなのは、掛川の情報量である。ここまでくればストーカーのそれに近く、鷲から相手にされなくなったのもその可能性が原因とすら考えられる。
「しかし、まぁお前がこんなことにたどり着くとは。なんか、予想してなかったわ」
「これは彼女に言っていいことなのか?」
「俺はお勧めはしないが……あるいはお前ならいい結果に導いてもらえるかもな」
「ずいぶんとアバウトだな」
掛川ははにかみながら「俺だって知らないし」と言う。
「まぁ、結局知っちまったんだからしょうがないんだろ。俺は最後まで隠したかったし、鷲の口から聞けたらそれ以上のこともないしな」
「まぁいいや、それだけ聞けたら十分だ」
「また、聞きたいことがあったら教えられるだけのことは教えてやるよ」
僕は掛川に感謝をする。




