10.「小春」同情
お祭りよろしく、左手にはほのかに温かいからあげ。私は爪楊枝をつかみ、刺さったからあげを頬張る。
「鷲ちゃん、これおいしいね」
「ご飯と一緒に食べたかったです」
鷲ちゃんはちょっとすねたようにしゃべる。それは國定君がいけないのだ。
「自分の家だから、怪我させないように張り切ったんでしょうかね」
「犯人の國定氏は『何か箱の中に入ってたと思った。というか、絶対危険なものだと思った』などと供述しており、私たちの体を触った行為を正当化しているものと見られます」
「何処のニュースキャスターですか。本当に何かあったら小春先輩も病院行ってたんですから、少しは感謝したほうが良いんじゃないですか?」
いつになく鷲ちゃんが厳しいのだ。どうしてなのだろうか。
「そうだねー。でも國定君がさ、あんなことする人だとは思わなかったからさ」
「多分私たちを触る目的を抱くことは、こんなことをするよりも圧倒的に確立は低いと思います」
「確かに、國定君真面目だもんね」
「よく授業サボりますけどね」
「それでも頭良いんでしょ? うらやましいなー」
桐谷先輩にも見習って欲しいなぁ。あ、でもあの人はあんまり頭よくないからこそ良いのかな?
「私たちを助けても何も出てこないのにね、よく体張って」
「小春先輩は唯一の恩人だ……って言ってましたしね」
「恩……人……?」
私は彼を助けた覚えも、むしろ助けられた覚えばっかりなのに。
「教室の隅から助けてくれた恩人だって」
「あ、あぁ……國定君はいつも教室で一人静かに何かやってたから気になって。何してるのって声かけて。國定君ね、私がこの学校に来て、違うわ、私が初めて書いた面白くもない小説面白いって言ってくれてさ。嬉しかったなぁ」
過去を思った。彼との出会いは二年前、9月。文化祭の時だったっけ。小説部で初めて書いた短編ものが、小説部の作品に載ることになって、嬉しさ半分、怖さ半分の気持ちでいて。彼に話しかけたのは、その小説部の作品集を読んでいたから。
「ちょうど私のを読んでたとき、私が話しかけて。私が書いたって言ったら、すごいなーみたいに褒めてくれたんだよ」
「当人は小春先輩が小説部に入ってるってことあんまりぴんと来てるような表情はしてませんから忘れてますよ、きっとそんなこと。だけど國定君が素直に人を褒めることなんてするとは思えないですね」
「……なんか酷いこと言ってるね。でも、今じゃ確かにひねくれものだよねー。当時の私はそこに気づかなかったね」
でも、鷲ちゃんは國定君が私のこと『恩人』だって言ってたと話してる。彼にとっては、私がいつも一人でいるところから救い出したってことかな? 分からないけど、そういうことだって受け取ると、壮大な勘違いを國定君はしてることになっちゃう。
「私は國定君を騙しちゃったな。ただ私が書いた小説が載ってる冊子を読んでるから話しかけたのに」
「でも彼は、いろんなところで小春先輩のこと褒めてるし、多分それだけじゃないと思いますよ。小春先輩は騙してないですよ、絶対」
「ありがとう。鷲ちゃんも優しいなぁ。私の周りは優しい人ばっかりで、頼もしい限りね」
「小春先輩が優しいからそうやって周りが優しい人ばっかりになるんですよ。類を友を呼ぶって」
なんだか恥ずかしくなってからあげを頬張る。すっかり冷めちゃったからあげは、それでも私を温かくして。




