4.旅情
「っと終わった終わった。親からは準備は見通しを持ってずっと前からやっておけといわれてたが、前日で良いよなこんなもの」
「三日前から確認し続けるのが一番安全な方法の中で一番楽だろ」
「面倒だね。なかったら現地調達よ現地調達」
「財布忘れたら?」
「ブラックジャックにでもなればいいよな」
旅行前日、僕はお父さんと一緒にリビングにいた。お母さんは遠足前日はいつもより早く寝るタイプなので9時前には寝ていた。お父さんは遠足前日は姿には表さないが心でうきうきしすぎて寝不足になるタイプで、今も準備をしている。
「明日どこから何処へ行くの?」
「羽田から、まず中国に行く」
「そっか、駅ぐらいには見送りには行ってやろう。どうせ学校あるし」
「五時には出発するぞ?」
「早起きした分学校で寝るから大丈夫」
「それでこそ俺の息子だ」
それでこそ、ってお父さんも何かあったら学校で寝ていた性分なのか。血は争えないというが、お父さんと僕に限っては多分クローン人間な気がする。
「ま、どうせ一ヶ月も外国だ。ちょくちょくお土産ぐらいは送ってやるよ」
「とか言って、北欧行って世界一まずいあめでも送ってきたら拒否して送り返すからな」
「サルミアッキとか言ったっけ? 地元じゃ愛されてるとは思えないまずさだぜ、あれ」
「食べたことあるの?」
「あぁ、少し味が弱くて、少し甘みもあったけど、うん、朝に食って、そのまずさにコーヒーをがぶ飲みしたのにもかかわらず一日中つらかった」
それはコーヒーの飲みすぎのせいではないだろうかと突っ込みたかった。
「フィンランドから来てる人が土産として持ってきたんだが、二度と持ってくるなと厳重に注意してやったよ。でも、あれの上位互換があるらしいけど、多分ゴムの味でもするんじゃないか?」
「なぜフィンランドの人は勧めたんだよ」
「さぁ? あそこの人たちにはおいしいと感じる何かがあるんじゃないか? 日本で言うなら納豆とか海草とか。でも最近は海草も外国では健康食品として認められてるし、グローバルな今でもあの飴はとても不評だから、フィンランドから国外輸出はしちゃだめだと思う、あの飴」
「そこまで言わせるか」
僕は笑う。お父さんがものを貶すときは冗談がない。もちろん笑い話のように見えるが、ここまで言わせるということはヤバイものなのだろう。
「食いたかったら送るぜ」
「今の話を聞いて食べたくなるような頭のねじが飛んでるような息子に育てた覚えは?」
「ない」
「なら送るな」
お父さんはトランクをバタンと閉め「ビールでも飲むか」と僕を誘う。
「お前の息子はいつから20を超えた」
「精神年齢は多分俺を超えてる」
「……お前心が女だからって女湯入るのか?」
「別にいいだろ、心が女なら。お前も心はよぼよぼのジジイみたいな感性してるんだから、ビールの一本ぐらい飲んだってかまいわしねぇよ。病に近づくわけでもないし」
「近づくのは法だよ! ったく、医者の不養生というか、頭が不健康だなうちの親は」
バシャっと良い音を立ててビールをあける。
「ビールにゃアルコールは全然入ってないから、別に子供も飲んで構わない気がするけどな」
「ビールが段々と日本酒とかに変わるから問題なんだろ? ただ、こんな苦い味のない水飲んでる大人は意味がわからないね」
「お前が飲んだのはノンアルコールのビールだろ? あんなのうまいわけないだろうが」
「どっちも僕にとっちゃ同じだ」
「なんだ、こっちのほうがうまいぞ?」
「って言って勧めるなや。明日の旅行大丈夫かよ?」
「酒には強いからな」
顔を少し赤らめてるお父さんを見ると少し心配になってきた。




