3.特上
「なぁ、料理って教えてもらえないか?」
屋上でおいしそうに焼きそばを頬張ってる鷲に聞いてみた。どうやら今日は学食で買ってきたもののようだ。
「え? 料理ですか?」
焼きそばだが、まるで生そばのようにつるっとすする彼女を見てると僕まで焼きそばを食べたくなってきた。
「そうだ」
「突然どうしたの? 確かに料理ができる男性ってもてそうだよね」
「あぁ、お前にもてたくてな」
「え!? は!? え!?」
「嘘だよ馬鹿」
僕は笑いをこらえ切れなかった。彼女がここまで良い反応をするとは思っていなかったからだ。
「むぅ……教えてあげませんよ?」
「逆に教えてくれるのか?」
「別にかまわないよ……でも理由がほしいな。もてたいなんて理由で國定君やりそうもないしね」
「よくわかるな。いやうちの両親が一ヶ月家を離れて僕は一人でお留守番だからさ。いやずっと弁当とかでも悪かないが、少しでも作れるならそっちのほうがいいじゃん」
「そうなんですか……。でもまたなんで両親が一ヶ月も?」
「いやお父さんが海外から帰ってきて、長い休みもらったんだよ」
3ヶ月というのは、お父さんが働き続けた結果である。非常に長いが、その分休まず働き続けたお父さんの姿があったということだ。
「で、一ヶ月海外旅行お母さんとするんだってさ。お父さんとお母さん、ほとんど面と向かって会話したことないぐらいお父さんが帰ってこないから、喜んじゃってさ」
といいながらお弁当を見せる。
「うわぁ……綺麗だね。おいしそうだし」
「こんなうまいもんくってたら舌も肥えそうだわ……」
「おなかも肥えそう……?」
「あぁまったくだよ」
弁当を床に置く。
「でも場所あるかな?」
「料理同好会……は科学室に毛を生やさせたのか」
鷲は以前のように暗い顔にはならなかった。そのため僕は言葉を続けた。
「この学校に調理室らしきものないしね……」
「うぅん、どうしようかねぇ……」
弁当を一口。うまい。
「そうだ! 國定君の家でやろうよ!」
「は?」
「いや、だって、作ったものをすぐに食べれるし、場所も両親いないから問題ないんでしょ?」
「いやそうだな……まぁ、どうせ一回来たことあるし、鷲がよければそれでいいよ。むしろお願いします」
「え、う、うん。國定君が畏まるなんて怖いね……」
「そうか、意外に僕は礼儀正しいぞ? 自分で言うのはなんだけど想像以上に」
「ふぅん」
焼きそばをまたすする鷲。鷲がおいしそうに食ってるからか、焼きそばがうまそうにみえるのか、食いたくなってきた。そう思いながら僕は弁当を頬張る。おいしいけど何か物足りない。
「料理はね、作ろうと思うからうまく作れないんだよね。食べるために作るからおいしく作れるんだよね」
「は?」
急に話し始める鷲。僕は自販機で買ったお茶でのどを潤す。
「たとえば、牛肉に、もやしとかキャベツとか加えていためて、それに焼肉のたれをかけるだけで普通においしいよ。でもカレーライスって同じ材料、同じカレールーを使っても、家庭によって違う味になるってよく言うじゃない。あれはそれぞれがおいしく作ろうと思って、材料の入れる順番とか、材料の煮る時間とか、カレーのルーの個数とか、同じような組み合わせってなかなかないのよ。でもみんな食べるときにおいしいと思えるように工夫してる」
「は、はぁ」
言いたいことが全然明白でなかった。
「ま、作ろうと思って作るより、自分が後で食べると思って作ったほうが全然おいしくできるよ」
「そっか、アドバイスか。ありがとな」
「いえいえ、どういたしまして」
彼女の焼きそばはもう空っぽだった。




