2.日常
「うっす、今日は良い天気だな」
「よぉ掛川」
軽い朝の挨拶を交わす二人。
「なんかお前から話しかけるのって少ないよな」
「どうした、急に」
「いやぁ、そう思っただけだ」
掛川はさびしいのか? 気持ち悪いな。
「お前絶対今失礼なこと考えてただろ」
「掛川様は今日も麗しいということを思っているのが失礼というか」
「逆に失礼だ」
彼は不適に笑みを浮かべた。気持ち悪いな。
「少しお前うれしそうな顔してるよな、ってずっと思ってるんだが何かあったか?」
彼の観察眼は僕も見惚れるレベルだ。彼には多分隠し事はできないのだろうか。
「よくわかったな。多分お父さんが帰ってきたからじゃないか?」
「仕事、単身赴任とかなのか?」
「あぁ、アフリカだ」
「あ、アフリカ!? すげぇな、日本国内だと思ってたら外国だったよ。何の仕事だ?」
「お医者様だ」
「ほえぇ、すげぇな。俺の親父みたいにだらっだらとしてるような奴と違うと、どうしても輝いて見えてしまうな」
彼はまた笑う。僕は窓の外を見つめる。庭の松の木は光に照らされ、乱反射を繰り返していた。揺らぐ松の木は、僕に催眠術をかけていたようだ。
「……國定、おい寝るな。眠そうな顔してるぞ」
「大丈夫だ、授業中いつも寝ている」
「……その頭、その頭脳、僕にください」
腰を90度曲げた掛川は、なんだか滑稽に見えて笑ってしまった。
「お前が笑うところを久々に見たな」
「どういうことだ?」
彼の言っている意味がぜんぜんわからなかった。
「そういうことだ」
やけに美しいウィンクをひとつ。そして、掛川はどこかへと去っていった。
「なんだったんだ」
僕はため息をひとつついて、また視線を松へと戻した。さっきのように眠くはならなかった。なんて思っていたら、また違う人が僕に近づいてきた。
「掛川君とおできになられてるんですか? これは大スクープね」
大スクープとか言う奴はこのクラスには一人しかいない。新聞屋は、今日はスカートをはいて、酷いことを言ってるかもしれないが、女の子らしい格好だ。
「お前は嘘は記事にしないんじゃなかったか?」
「真実にすれば問題ないですね?」
「それは無理だ」
このクラス、というか僕の周りには個性的な奴らが多いので普通の返しというのが僕の中で定義がなされていない。が、多分「真実にすれば問題ない」という回答よりは「そ、そうですね。嘘はかけません」とか言ってくれると僕的にはやりやすかった。彼女がそんな返しをするとか微塵に思っていない時点で僕の敗北は決定していたが。
「マジにならないでくださいよ、そんな一部の人にしか興味がないこと書きませんよ」
「お前は興味あるのか?」
「え、そ、そんなこと聞かないでくださいよ!」
「ないな」
「なぜばれたし」
最近、こいつの話術にはまり、こいつとの漫才がよく開かれる。観客は、0だ。
「でもまぁ、最近新聞委員も暇なんですよ」
「事件がないのか? 平和でいいじゃないか」
「違いますよ。悠馬ちゃんが可愛すぎて、ほかの事件が霞んでるんですよ!」
「……なんで地味に僕の影響が出てるんだよ」
まったく、國定ちゃん事件はクラスじゃ笑いもんだし、小春にはいじられるし、踏んだりけったりだよ。……踏んだりけったりの使い方が少し間違ってるかもしれない。
「地味じゃないですよ! 死活問題ですよ!」
「そっか、僕を売ればいいんじゃないか?」
不敵な笑みを浮かべてみる。
「そ、そんな大切な仲間を売るなんて、私にはできません……」
彼女が演劇部に見えてきた。
「……悪い、ありがとな」
彼女の耳元で言ってみる。
「!? 望月ちゃんは今、不覚にも國定君にキュンとしてしまいました!」
顔を真っ赤にしながら何かメモ帳に書いている姿を見て、僕は逃げ去った。実は、今のは掛川が言っていたガールハンティング術のひとつをちょっと拝借したのだ。効果はむしろ反射して僕に返ってきそうだが……。




