1.雨情
屋上で傘をさす。馬鹿らしい行動だと自分で思っている。しかししょうがないのだ。
「暇ニャぁ……」
一ヶ月程度あっていなかったにゃんこは、代わり映えもなくただつぶやく。鷲と同じ姿をしているのが非常にむかつくのだが。
「だったら鷲にでも戻れ」
「それも面倒ニャ。國定くんとぉ、一緒にぃ、いたいしぃ」
「……語尾忘れてる上にうぜぇなおい」
「あ、語尾はキャラ付けニャ」
キャラ付けとか言っちゃった。いや、ただでさえキャラが強いのに、そのキャラ付けはもはやコーンポタージュの上にかけられるイタリアンパセリだよ。見えないことはないけどほとんど存在感がねぇよ。
「なんでちょっと得意げな顔してるニャ?」
「うまい言い回しを思いついたからな。おしえないが」
雨は嫌いだった。活気をなくした商店街、熱気をなくした校庭。今はそこに正気をなくした鷲が追加された。
「そうだ、どうせ暇ニャんだから、ちょっと鷲ちゃんのこと教えちゃうよぉ」
「語尾はもうどうでもいいんだな」
僕は少々面倒でござる。
「鷲ちゃんが厄病神だって理由わかったかニャ?」
「わかんない」
「そっか……長い間"症状が"出てないのニャ」
「"症状"?」
妙に引っかかった。鷲が行っていた"病気"とにゃんこの言っている"症状"のイントネーションがどうも違うようには思えなくて。
「そう、彼女が知らないうちに彼女には災害が降りかかる。それが、一緒にいる人にも降りかかる。だから、私は悠馬にこの子に近づくなっていったんだ……ニャ」
最後……完璧に語尾忘れてたな。まぁいいや、触れないでおいてやろう。
「でも、僕は君のテストに無事合格したわけだ」
「テストじゃニャいんだがニャ……まぁ、いうニャればそういうことニャ。悠馬はほかの人とは違う力も、違う感性も持っている。だから、私も悠馬ニャら推薦できるニャ」
もうこいつの語尾のことについて触れるのはよしておこう。突っ込むだけ疲れる。
どこかから吹奏楽の音が聞こえるが、それよりも雨の音が強い。かすれかすれ聞こえる吹奏楽の音色からは、どんな曲かすらわからなかった。
「今年の夏は暑いニャ」
「今日は雨降ってるからそこまで暑くないけどな」
「私は雨のときにしか出てこれニャいんだから、雨のときの気温しかわからニャいニャ」
「雪の日はどうなんだ?」
「寒いからでてこニャいニャ」
「……風邪とか引かないんじゃないのか?」
「寒がりニャの」
そういって鷲の顔をしたニャンコは僕に擦り寄ってくる。鷲の顔をしたっていうのが非常に重要な点である。
「……さっき暑いって言ってただろうが」
思いっきり蹴り飛ばす。「グフォ」っと低い声とともに地べたに這いつくばる。勢いあまって強くけってしまった。中身はにゃんこでも外見は鷲なのだ。
「……悪い」
「謝るニャら蹴るニャ!」
「いや、鷲に謝った」
「……私への謝罪は」
「微塵もニャい」
「キャラ被せかニャ……」
「好き好んでこんなキャラ作ってるお前もすげぇな」
「……やめてよ」
いじめてる気はなかったのだが、彼女が段々としゅんとしてしまった。雨にぬれて段々と下を向く葉っぱみたいに、首が下がっていく。多分、相当このキャラ恥ずかしいのだろうか。少し悪いことしてしまったか? いや恥ずかしいなら第一やらないだろう。
「鷲もわからないが、それ以上にお前もわからないな」
「何を考えてるかわからないミステリアスな少女なんて素敵ニャ?」
ちょっと悪いことしたとか、反省したことをひどく後悔した。




