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屋上少女  作者: 悠(はるか)
第三章「動き出した歯車、止まる歯車、壊れた歯車」
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10.「鷲」私情

「鷲ちゃん?」

 話しかけられたのは、朝十時のことだった。暇だった休日なのでいつともなくぶらついていた。そんな日、小春先輩と泉先輩のペアが私に話しかけてきたのだ。小春先輩はいつも通りカジュアルな服を、泉先輩はいつも落ち着いている服装だが、今日は珍しくミニスカートなんかを履いている。私はいつも通り、Tシャツにハーフパンツだ。

「こんにちは。今日はお二人で何してるんですか?」

「お買い物ー」

「小春が色々買いたいって言ってるから、着いて来たの」

 楽しそうな小春先輩に比べ、一段とクールな泉先輩である。泉先輩が小春先輩の保護者みたいだ。

「早くないですか?」

「そうね、確かにこんな時間じゃ服屋もぎりぎりあいてるかどうかだわね」

「ちょっと張り切って早起きしすぎちゃったかな」

「早起きは三文の徳なんて誰が考えたのかしらね。時は金なりという言葉もあるんだから、三文以上損しているわ」

 いや、時は金なりなら三文以上得してませんか? とは聞けなかった。

 私はあまり二人の会話になじめなかった。入る隙も余地もないというか、二人との壁があるというか。

「そうだ、そこの喫茶店9時から開いてるんだし、鷲ちゃんも一緒に入ろうよ」

「一杯ぐらいはおごるわ」

「いえ、そんなおごられるなんて……」

「上司の命令を無碍にする人は嫌われるわ、さぁ入った入った」

 半ば強引に喫茶店へと連れていかれる。二人には強い信頼と、そして憧れ、尊敬の念こそ持っているが、いまいち歩み寄れないのだ。

 私は目の前に置かれるグラスと、二人の顔を見比べながら、冷や汗を一つ。

「今回の買い物の目的って何ですか?」

「うぅん、もちろん私の服を買いに来たのもあるけどね……」

 泉先輩が一つの写真を出す。

「いや、やつは女なんじゃないかって私は思うの」

 学生服――しかも女子の――を着ているのは最初はわからなかったが、國定君だってことに気付いた。確かに、メイド服だった國定君がいつの間にか女子の学生服に変わっていた。それは小春先輩たちの陰謀というか、なんというか、それだったのか。

「憎たらしいぐらい可愛いわねこれ。殴りたい、國定を」

「確かに軽く嫉妬はしていいぐらい可愛いけど、それをもっと可愛くするための服選び」

「……え?」

 写真を見せられた時からうすうす気づいていたが、まさか本当だとは。

「今回の買い物、國定君へのプレゼントですか……?」

「プレゼントというか」

「無理やり着せるわ」

 二人が顔を見合わせる。悪に染まった小春先輩の顔を初めて見た。そして、私は國定君にご冥福を祈ることも忘れない。

 でも先輩が二人本気になるほど、國定君は似合うのだろう女装が――なんていうと國定君はまた得意の言葉攻めで私をののしるんだろうけど。なぜか、得意げになっている私がいた。

「そうだ、忘れてたけど明日友生会の役員会あったんだった」

「え、私ですら初耳なんだけど」

「忘れてた、てへ」

 可愛げに小春先輩は舌を出す。

「てへ、じゃないわよ……全く、適当さで言えば今の会長なんかより数十倍馬鹿よ」

 途端に桐谷さんの話が出て私は少し気まずくなった。

「あの人の文句は言わないで」

 途端に静かになった小春先輩。

「え、あの……ごめんなさい」

 謝る泉先輩も、今まで見せたことのない慌てっぷりが表情によく表れている。

「そ、そうだ、ここに國定君連れてきませんか? 私が適当に口実つくるので」

 私はやばいと気づき、空気を変える。二人とも静かに私のほうを見て、私を見つめる。蛇に睨まれた蛙、虎ににらまれたシマウマのような気持だったが「それいいね」と小春先輩が呟き、また空気は元へと戻った。

「ま、来なかったら来なかったでいいよ。どうせ明日に被害が回るだけだし」

 私は苦笑いしながら彼にメールを打つ。もちろん、私はご冥福を祈ることも忘れない。

 三日ほど國定君が休んだのは、私のご冥福が少なかったせいであろうか。私の携帯のメモリには、彼のあられもない姿が残っている。弱みを握る、そういうことを覚えた日であった。

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