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屋上少女  作者: 悠(はるか)
第三章「動き出した歯車、止まる歯車、壊れた歯車」
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9.現状

 5月の終わり。上機嫌な母親の横で、さっき図書館で借りた小説を読んでいた。理由はわかっているから問わないのだ。

「お母さん、うるさい」

 小一時間、最近はやりの曲を永遠と歌い続けている。聞き飽きたというか、そろそろ耳にタコができそうな僕は、今年で32になる母親の鼻歌を止める。その年の差14である。もしかしたら母親よりは姉貴という気持でもいいのかもしれない。

「むぅ……少しぐらい機嫌がよくたっていいじゃない」

 彼女はわざとらしく顔を膨らませる。32にしては若い顔だが、何か複雑な気分に陥る僕がいる。

「まぁ、お父さん帰ってくるの明日だしな……」

 そう、海外へと出張していたお父さんが帰ってくるのだ。しかも明日。その一報が届いたのは屋上で鷲に負かされた日、今から四日前のことだ。

 珍しくお母さんのCメールの着信音が鳴る。さまざまな表情を一度に負ったお母さんがメールを見て、文字通り発狂した。そこには五日後の飛行機で日本に帰る、という言葉に付け加えてこんな言葉もあった。

「三か月の休みをもらったから一か月海外へ旅行しないか?」

 その言葉を見たお母さんは、なんか目を輝かせて、今まで見たこともないような張り切りを見せた。準備は一日二日で終えていた母親、後はただお父さんを待ち望んでいるウブな女性が残ったのだ。お母さんのことを勘違いしないでほしいのでいうが、彼女は決して海外へ行くことを期待しているわけではない。「お父さん」と旅行することに期待、幸せ、その他もろもろを感じているのだ。今までまともな旅行どころか、お父さんとの会話すらほとんどしていないのだ、そのことを思うとお母さんの喜びもわかる。ちょっと抜けてるお母さんは、だれよりも普通の人だ。

 しょうがないので僕は二階へと上る。窓が開いていなかったので多少熱がこもっている二階へはあまり踏み込みたくなかった。僕は窓を開放する。涼しい風が部屋をくぐる。今でも耳の中にお母さんの鼻歌が聞こえてきそうだ。それを振り切ろうと首を振ったとき、携帯が鳴った。

「メールか」

 珍しく、というか初めて鷲からメールが来た。流れに任せてメアドを"聞かれた"のだが、今まで一回も使われることがなかった。

「明日、友生会あるって、小春先輩が今言ってる。あと、小春先輩と泉先輩とたまたま会って今お茶してるけど来る? 小春先輩が呼んでって言ってるけど」

 最近僕は女子との絡みが多い、と最近はよく言っている。最近の僕は僕がわからない。

「泉が嫌そうな顔するだろうけどな」

 僕が返信を返すと、少したってからまた返信がくる。

「泉先輩は……特に何も触れてなしい大丈夫じゃない?」

 そっか、泉が何か言ってると思って賭けたんだが。つまり僕は行きたくないということだ。

「絶対来てね」

 なぜかまた送られてきたメールの文章にはこれだけがあった。なぜだ、なぜこうしてまで僕をそこに行かせたいのか。そして一番謎なのが、どこへ行けばいいのかの指定がなかったことだ。行けるかボケ。そう送りながら大体行きそうなところを思い浮かべ、お母さんの鼻歌が多少聞こえる玄関へと向かった。

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