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屋上少女  作者: 悠(はるか)
第三章「動き出した歯車、止まる歯車、壊れた歯車」
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7.異状

 本日七件目のナンパをめちゃくちゃ低い声で断ったとき、小春が現れてしまった。ただ、最初は僕に気付かなかったようだ。

「よぉ小春」

 小春は「あぁくにさ……だ……くん?」と言いながら、振り返る。振り返った後左右をキョロキョロと見まわす。

「ワザとか? ワザとなのか?」

 ちょっと泣きたくなってきた。

「え、國定君……國定ちゃん?」

「君でいい、君で。こうなった経緯は……勝手に想像してでもくれ」

「認めたくないけど……可愛い」

 急に赤面した。主に僕がなんだが。唐突に死にたくなった。恥ずかしさってのは、限度を超えると顔から火が出るような感じになると初めて分かった。

「な、なんかごめん」

 僕の気持ちを察してくれたのか、謝ってくれた。むしろ心に突き刺さった。

「こうなるといろんな恰好させてみたいね。いろいろ似合いそう」

お人形さんを見るような、そんな感じが見受けられた。

「僕はリカちゃん人形じゃないぞ……」

 小説を書いてるとき、小説を読んでるとき、小春は目を輝かせるらしい。その時、彼女は非常に楽しんでる時らしいのだ。わからないが、多分今がまさに、その目をしている。彼女の、新たな顔であろうか。

 この会話の間でも、廊下では僕を狂気の目で見る人がちらほらといる。ただ、その中には好意を含んだ目を持っている人もいる。悲しいことに男性に恋をされている。世の中は非情である。

「ね、学生会室きてよ」

「……わかった」

 さまざまな危険と、さまざまな未来が見えたが、僕の返事は了承だった。

 他と変わらないいたって普通の教室のドアの中、アルストロメリアの軽やかな香りが微かに広がる、会議室のような部屋。窓の外には運動日和と名高い晴天の空。カラフルな色のアルストロメリアの花言葉は「未来への憧れ」や「幸せな日々」、「持続」といった意味に白の花には「凛々しさ」という意味もあるらしい。僕が一年生の時――二年前に選挙で当選した会長が好きな花らしい。その会長は今は副会長の座についているらしい

「紅茶でもいる?」

 このようななことを教えてくれたのは、いつかの朝出会った御坂という四年生だった。ちなみに僕が男であることはもう知っているし、あの朝あったことも覚えていた。

「小春のお友達にも変わり者がいっぱいいるから」

 そういって僕の女装を笑ってくれた。僕が変わり者ではないことを説得したのももちろんのことである。

「いや、ここなんだかんだでいろんな衣装あるから、國定君に着替えてもらおうと」

「……この人はリカちゃん人形か何か?」

 そんな言葉を尻目に、小春は服を選び始めた。

「あぁ、私でも初めて見たわ。あんなルンルンとした小春」

「あれに遊びつくされる未来を考えると胃が痛くなりますね」

「……がんばってね、國定君」

 御坂先輩のありがたいお言葉を聞いた瞬間、「これなんてどう!」と小春が寄ってくる。清楚な感じの学校の制服である。メイドよりは……ましか。

「着替えるところがないよなここ」

「そこだと入り口から以外見えないよ」

 教室の奥を指さす御坂先輩。……笑ってる彼女を見る限り、先輩も絶対にこの状況を楽しんでいる。

「……わかったよ」

 文句の一つも言えずに制服を奪うように小春の手から受け取る。なれてない服なので思ったより時間がかかったが着替えられた。さっきとは違い少し長めのスカート。そしてブラウス。さっきよりもゆったりとした服装なので、ずいぶん動きが楽である。僕はそのまま外へと出て、女子二人の意見を求めた。しかし期待とは裏腹に、声も出ないような表情を二人とも見せた。

「男と知っていなければ抱き付いてたかもしれないぐらい可愛い」

 もう心はずたぼろである。

「すごい似合ってるよね。うん、國定ちゃんはなんでも似合うね」 

 小春は多少笑いをこらえながらこちらを見る。顔から溶岩が出そうだ。

 ちなみにこの格好で学校をうろついていたら、11番目のナンパで掛川が声をかけてきたという事例が起きたのも一つの事件である。

 掛川からおごってもらったポテトは、いつもよりしょっぱかった。

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