6.症状
走り終えた僕は称賛の声と、カメラと新聞委員のようなやつらが押しかけてきた。それらを切り抜けたのはリレーが終わってから二十分後のことであった。
たかが数十秒走っただけであった。しかし、それだけでなぜかこの服に愛着がわいてしまったのも僕にとっては不思議なことだ。どうせなら今日一日ぐらいは着てるか、そんなことを思っていたのは僕の理性が崩壊してしまったからかもしれない。そのため行くところ行くところ僕は狂気と好意にさらされていた。
割かし運動ができることがクラスに知れ渡ったため、参加する気がなかったのに、参加する羽目になってしまった。バスケとサッカーの二つである。ただサッカーは補欠程度だし、バスケもあまり得意ではないためできるだけほかの人に参加してもらうことにするつもりだ。だが、一応のため体育館へ来た。プレイ中の人も、僕のほうをちらと見る。視線が痛いとはまさにこのことである。
と、周りを見渡しているとギャラリーのところに鷲がいるのを見つけた。ぼぉっとただバスケのプレイを見ている。確か彼女はバスケ部に入っていると掛川が言っていたな。
「鷲は何してるんだ?」
「見てわかりませんか?」
「わかるけど聞くのが日本人だ」
僕はそっと彼女の隣に腰かける。僕が視界に入ったのか
「何その恰好? ってあれ本当にやったんだ……」
とあきれ口調で言われてしまった。
「着替えないの?」
「今日一日ぐらいはこの格好でいるほうが面白いじゃないか」
「……変態さんですね」
「聞き捨てならないなそれは」
僕がそう言った瞬間、彼女はびくっと体を震わす。見ると、ある男の人がシュートを決めていたところだ。どこかで見たことがある人だな……。
「すごいなぁ……なんでバスケやめちゃったんだろ」
「知り合いか?」
「一方的に知ってるだけですけどね。私がここへ入った原因の一つかもね。私の憧れの人」
僕はその憧れの人の顔をよく見てみる。どこかで見たことがあるんだが……思い出せない。
「バスケ強いのか?」
「県選抜にも選ばれてる人なのに、高校に入ったらバスケやらないで小説部って部活に入ってるらしいんです。小春先輩とか泉先輩とかと同じ」
「あ、思い出した、会長か」
現生徒会長、桐谷智也。彼がそんなバスケうまいのか……。
「鷲はやっぱりバスケ好きなのか?」
「やっぱり?」
口を滑らしてしまった。
「いや、バスケやってたこと聞いてたからさ」
「そ、そうですか」
恥ずかしいのか、それとも違う理由からか、顔を隠す。そこで会話は途切れた。
クラスマッチだから和気あいあいとみんながプレイしている。が、会長はその中でも切れが違うというか、素人目から見てもとてつもなくうまいと思える。
「お前が憧れるだけあるな」
「そうですね……別に恋をしてるってわけじゃないですよ? バスケに対しては憧れてますけど」
「なんかそこまできっぱり言うと失礼じゃないかな……?」
「そ、そうですね」
また会話は途切れてしまった。外から木漏れ日が差し、メイド服の黒い部分が少し熱くなっている。しかし露出も多いので結構涼しい格好だ。
「何でバスケ部行ってないんだ?」
くっきりと、はっきりと、くどいことなしに直球で聞いてみた。
「……教えません」
彼女の眼は、何を見ていたのか、僕にはわからなかった。




