2.鎖状
通年緑一色の山々は、それでも光の反射、角度によりさまざまな色を僕たちに見せる。このA棟で一番高いだろう、屋上から見る景色。一つ寂れた町があることを除けばこの町が非常に見栄えのあるものへと変わる。
ここ一週間、僕と鷲は毎日放課後ここへきている。何をするわけでもない、お互い話さない時間の方が長いが、彼女にとっても僕にとっても、ここは大切な、何か意味をする場所なんだと思う。
「今日の友生会は、なんかこういう議論みたいな感じでしたね」
「そうだなぁ。でもまぁ息が詰まるほどの議論を交わしてるわけじゃないから平常運航っちゃ平常運航なんだろうな」
「でも泉先輩はすごいなとか思いますね。怖いけど」
「あんなんに噛みつかれるなんて想像したくもないな」
寝転びながら僕は笑う。非常に気持ちがいい風が吹いてきたのだ。
「ですね」
彼女もつられて笑う。つられて寝そべる。一週間の間、というかあの雨の日の次の日、僕が休んだ時以来彼女と少し近づけている気がする。
ただ、彼女について知るという大目標の進歩は一歩も歩けてない。感じとしては砂漠に立っている気分だ。どこへ進むかわからず、広大なところを歩き回る。オアシスを求めて。蜃気楼になって出てくるオアシスを追い力尽きるかもしれない。もしかしたら近くにオアシスがあるかもしれない。簡単に言えば、何もわかってないのだ。
ふと横を見ると太陽に照った彼女の長い黒髪が見える。彼女が不意にこっちに顔を向けてきたので、僕もパッと真上を向く。
僕はこの学校に来てよかった。そう思い始めてる。小春も鷲も、泉や望月、まぁ少女Aも少女Bもそうだが、昔のような気持ち悪さはない。むしろ心地がいい。だんだんと過去に囚われない自分に生まれ変わったようだ。
「そういえば國定君は小春先輩とどんな関係なの?」
「と、いうと」
「いやすっごい仲良く見えるから、付き合ってでもしてるのかとすら思ってたんだ」
「あんなうるさいのの彼女は当分はごめんかな……。ま、親友の一人ってことかな。教室の隅から僕を助けてくれた唯一の恩人、かもしれない」
「ふぅん……」
何か僕の言葉に疑問を感じたような、そんなあいまいな返答を返された。
「なんかいつもならこういうことに関して真面目に答えないのに、小春先輩については真面目に答えるんだね」
彼女はにやにやしている。僕が小春のことを好きだとでも思っているのだろうか。
「何にやにやしてんだ。鷲が想像してるようなことはないよ。まぁ、確かにあいつには感謝をしてもしきれないぐらいだし、そういうことなんだよな。僕が事故ったあと、意識が戻らない僕のところに彼女も忙しいのに2週間か一月ぐらいにいっぺん来てくれたらしいんだよな。意識が戻ってもまた一月にいっぺんぐらい家に来るし」
「小春先輩が國定君のこと好きなのかもね」
彼女はまだまだにやついてる。
「どうかね。いや奴のことをよく見ろ。どんな人にも愛想を振りまくクラスの中心的存在だ。誰にでもこういうことをするんだろうな」
第一僕は彼女が好きであろう人を特定している。
「確かにそうだね。水木先輩とか完璧そんな感じですね。小春先輩、そこのところも天然だから、罪づくりな女って人なんだろうね」
「あれで気づかないのもなかなかなもんだわ」
不意に会話が途切れる。それこそ時が急に止まったように。風の音は聞こえるが、彼女だけが止まったのではないか、そんな風に。
太陽の光が体中に刺さる。人間が光合成でもできれば便利ではないか、そんなことを今考えている。
「そろそろ帰るか」
「私もう少しここにいますね」
「そっか、戸締り忘れるなよ」
お互い別れの挨拶を告げる。彼女が残ることは初めてであった。




