4.症状
たちまち消える雨の音。……死んだのかもな、そう思いながら目を開けると、目の前には雨粒。
時が止まったってことか。
前回止まってから一週間と経ってない。短いスパンで訪れるのは初めてだな。彼女の焦る表情が向けている銃口からは、多分ビービー弾らしきものが放たれている。所詮偽モンだったってことか。
僕はちょっと考えて、放たれたビービー弾を人差し指と親指で挟み、彼女の顔の前に持ってくる。後は、時が満ちるのを待てばいい。
自分の中で時間を刻む。一秒、二秒、三秒……十三秒目をカウントしたとき、たちまち轟音とともに目の前の雨粒が重力に押さえつけられ地面へ激突する。その間に、彼女の表情は驚きがまったく隠れていないものへと変化した。驚きと、何か畏怖の念を感じる。
「ど、どうして……」
敗北を確信してか。彼女の表情は曇天の空に負けず劣らず暗くなり果てた。
「相手が僕だったから悪かった。やろうと思えば何でもやる男だぜ、僕は」
「何クサいこと言ってるニャ……」
言ってる本人がそう思ってるから言われたってしょうも無い。
「わかったにゃ! もう私をどうしようとしても良いニャ! 好きにして! ほらどうせ乱暴するんニャ! エロ同人誌みたいに!」
……ずいぶんとネット方向な迷言が聞こえたんだけど。
「一つ、お前をこのまま屋上に放置。二つ、十発ぐらい殴られる。三つ、屋上から突き落とされたい」
一本一本指を立てていき、彼女の目の前に突き立てる。
「4の乱暴されるネ」
「お前逆にされたいのかよ!」
なんか頭痛くなってきた。
「一と二と三をすべて混ぜたい」
「冗談冗談。でもすごいネ。時でも止められるみたいだニャ」
「……ほう」
いきなり彼女は図星を突き刺してきた。
「私もいきなりでさすがに驚いたニャ」
「お前の存在がいまいち分からないな」
「君の存在だって私には分からないよ。でも、なんかとっても面白そうニャ」
彼女は少し笑いながら天を見上げる。
「あんた名前なんて言うニャ?」
「國定悠馬だ」
「悠馬ネ。君はこの子に近づいてもいいと思うニャ」
「……は?」
「この子の因果をすべて断ち切る存在に為りそうだニャ」
「ちょっと待て、何を言ってるのかまったく分からない」
「いずれか分かるニャ。そろそろ遅いし、帰ったほうがいいと思うネ」
時計を見る。五時四十七分。……寝すぎた代償がこれか。
「あぁ、ちょっと待て。お前は傘差して帰れ」
「私の心配? 嬉しぃネェ。でも、私は風邪とか引かないけどニャ」
「お前じゃねぇよ。鷲だ。帰って鷲に戻って、っていうとなんかメルヘンチックでちょっと僕にもピン来ないけど、冷えて風邪こじらしたらお前のせいじゃねぇか」
「ほぅ。以外にやさしいネェ」
「レディーファーストの気持ちは大切にしなきゃな」
「将来大きい男になると思うよ、悠馬」
お互い一応初対面のはずなのだが、意気投合でもしたのか、お互い憎たらしい黒い笑みを浮かべて僕は屋上を去った。……寒い。




