4.心情
屋上には彼女がいそうな気がして。僕は階段を上る。一段一段踏むたびに、二年前の屋上の道とは全然違う気持ちが湧き立つ。
「本当にいるよ」
僕は単純にそう呟いて彼女に近づく。屋上のフェンス越しに向こうを見ているのだろうか。あの時と変わらないように風になびく髪。山の木々も葉っぱを飛ばしながら存在感を示してる。
「ここの景色好きなのか?」
「好き……なのかな? でも私が住んでる町に見えなくて。広々として、すごく温もりに溢れるこの町に私が住んでるように思えなくて」
僕は単純にその言葉を受け取った。深い意味なんて無いもんだと思ってた。
「そういや、頭良いんだってな?」
少し驚いた様子でこちらを見る。「小春から聞いた」と告げると、大きく首を振って納得したのか、また景色へ視線を戻す。
「頭に関していえば親は何も言わないのに、何か張り切っちゃったら結果が伴ってきたって感じかな?」
「うん? 親は厳しい人なの?」
「半分は放任して、半分は束縛するような人、っていっても分からないと思うけど。一部のことに関しては私の好きなようにしてもいいけど、一部のことに関して言えばすごく厳しく取り締まってさ」
取り締まる、そんな表現に少し笑ってしまう。
「こんな田舎。僕にしてみれば存在する理由が分からないんだけどさ」
彼女はいきなりのことでキョトンとしてる。
「こんな鄙びた土地でも暖かい友好とか、存在する理由があるはずだ。だからこんな土地に愛着もって住んでる」
やはりこれだけいっても何を言ってるのか分からないような顔をする。
「お前……鷲も親が何かを託すためにわざわざそういうことやってるんだろ?」
彼女は表情が少し暗くなる。
「……分かったように言わないでよ」
僕からしてみれば、意外な返事だった。彼女は親が嫌いだ。それぐらいは言わなくても分かる。理由は多分教育方法。そこだろう。さっきの話でこれぐらいの情報は得た。だが、彼女の心の闇は思ったより深いようだ。
「……悪い。親がいるだけで羨ましいからさ」
「え?」
「今の母さんはお父さんが再婚した人だ。昔の母さんは僕が確か11の時に、もともと病弱だった上に癌になっちゃってさ。お父さんは五年ぐらい前から海外出勤になってさ、一年に一度帰ってくるか、ってそれぐらいなんだよね」
「でも、お母さんはいい人なのかな?」
「新しい方は、なんつうか僕と年が十より少し上ぐらいな差だから、少々気まずい部分もあるけどな」
「いいと思うよ。愛情があれば親なんて誰でも」
すごく悲しそうな顔な彼女。かける言葉を捜せなくなった。
「なぁ、何で屋上に来るか、だけは教えてくれ。二日前までは知りさえしなかった僕にいろいろ話しながらなんて物好きな物の理由をね」
「言ったよ。『病気』を治す為、だって」
「……そうか」
夕暮れに染まる彼女の顔が、妙に大人びて。
「いくら春って言ってもそろそろ暗くなり始めるし、帰ったほうがいいと思うぜ」




