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7/12

七

 人間は進化を続けてきた。火を扱い、言葉を持ち、農耕を覚え、都市を築き、文字を書き、科学を発展させ、ついにはこの星を包みこむほどの知識と情報の網を張り巡らせるに至った。その星を、十分に壊せるほどの兵器だって持ち合わせてるし、生命の倫理に迫るまで科学は発達した。神の為せる技というのが、段々と現実に再現できるようになった。知性を武器に、数々の困難を乗り越え、今日まで生き延びてきたのだ。

 すごい。素直にそう思う。これはもう拍手ものだ。尊敬する。俺もその末席に名を連ねる端くれの一人だしな。

 ……で、その結果がこれかよ。

 いや、違うな。順番が逆か。俺が今いるこの状況に対して、「知性」が全く通用しない。理屈が通らない。感情はあっても論理はどこかに失踪してる。進化した人類の叡智ってやつは、こんな異常事態に対応できるようにはできてないらしい。

 つまり、だ。人間ってのは、たとえどれだけ言語を操ろうが、宇宙を観測しようが、予測不能な事態には途端にあたふたするもんらしい。

 そういうものなんだな。理不尽の前では、みんな等しくアホになる。

 それが今、俺の目の前で起きている。いや、俺の中で起きていると言ったほうが正しいのか、もう分からん。

 ……正直、ちょっと泣きたい。

 目の前には、二人の人物がいる。性別も年齢も判然としない。だが、どちらもこの空間にふさわしくないほど「整いすぎた」姿をしている。服も、声も、存在感も、すべてが作り物じみていて、逆に不安を煽る。

 「……で、この場所についてですね。『存在しない場所』と先ほど申し上げましたが、まあつまるところ、『転生時の情報処理に際するバグの生成空間』ってとこですね。ああ、たまたま適する単語があった。これが説明できないと話にならないどころじゃないですからねえ」

 はあ、もうなんなんだよ。「バグ」だって?なんだあそりゃ。一体何が「バグ」だったっていうんだ?「転生時に~」って話だから、転生は「バグ」じゃないのか。俺から言わせればそこからがもう「バグ」なんだが……

 (ねえ、『バグ』ってどういうこと?……ああそうね、やっぱり、こうして私たちが一緒の体にいることが問題ってことかしら?)

 (まあ、普通に考えりゃそうなるだろうな)

 俺は、この二人を前にして立ち尽くしているだけだ。何も言葉が出てこない。

 「……うん、君のような存在たちがこう反応するのも慣れているからね。おおよそ何を考えているかは分かる。君は特殊な存在だしね。まあ、一度や二度ならずも死んでいるからね」

 待て、なぜ俺が死を繰り返していることを知っている。コイツらは一体……

 「ちょっと、一体全体何をおっしゃられているのか分かりかねますね。あの、私が何度も……その、死んでいるというのは?」

 (ねえアンタ、なんでとぼける必要あるわけ?確かにコイツらがアンタの事情を知ってるのは気になるけど……)

 (さあな……)

 (何よそれ)

 無知なふりをするのが果たしてコイツらに対して有効なのかは知らんが、そういうスタンスで行こうとしたのは一体どういうわけなんだろうね。俺のことだが、俺も分からん。

 「まあ落ち着いてください。そうですね、ずっとここいいるのも気持ちが悪いでしょう。場所を変えましょう、きっとリラックスできますから」

 「場所を変えるってどういうことですか?」

 「『テレポーテーション』ってとこですかね。大丈夫です。ダメージは一切受けませんよ。『無痛!正確!安全!迅速!』がモットーの革新的な移動手段でしてね。いやあこれが発明された時は世界が180°変わりましたね。偉大な発明家ですよ。私らじゃ誰でも知ってる」

 そう言われても不安しかないがな。誰だって初めてのことには恐ろしさを覚えるものだ。

 (なあ、お前はこれってさ、ついていっていいやつだと思うか?)

 (確かに不安ね……でもついていかないとどうなるか……って考えるよりはマシかもね)

 それもそうだ。コイツらに逆らったら一体何されるか分からないしな。

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