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灰冠の指輪 ~愛を知らず死んだ俺は、異世界で没落マフィアを再建する~  作者: ぬゅうた
第2部 4章 次の手に渡る鍵

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第72-4話 父の誕生日



父の誕生日、母とマルコと俺で墓へ行った。


誘った時、ソフィアは首を振った。


「三人で話す日でしょう」


墓前には、誰かが酒を置いている。


父が好んだ銘柄。


瓶の封は開いていない。


母は白い花を持ってきた。


墓の前まで来て、足が止まる。


白灯を思わせる花。


自分で選んだのに、置けない。


俺が受け取ろうとする。


母は首を振った。


しばらく待ち、左手で墓石の横へ置いた。


「遅くなりました」


誰に向けた言葉か分からない。


父へ。

俺へ。

自分へ。


全部かもしれない。


マルコは酒の封を切り、三つの杯へ注いだ。


最初の杯を墓前へ。


残り二つを俺とマルコ。


母は薬があるため飲まない。


代わりに、小さな水筒から湯を杯へ注いだ。


父なら薄いと文句を言っただろう。


「誕生日に、水で乾杯されたことは?」


「一度あります」


母が驚く。


「いつ」


「若頭が生まれた年です。旦那様は祝いの酒を全部、使用人へ開けました」


「私には飲むなと言ったわ」


「医師も同じことを」


「自分は飲んだでしょう」


「水でした」


俺が生まれた年、父は自分の酒を人へ配り、水で祝った。


前世の誕生日は、欲しい物を聞かれる日だった。


欲しいと答えれば値段を見られ、要らないと言えば可愛げがないと言われた。


この家では、父の誕生日まで俺の話へ変わる。


嬉しさはあった。


同時に、父の人生を息子の思い出だけで埋めたくなかった。


「俺がいない誕生日は」


母とマルコが顔を見合わせた。


「ひどかったわ」


「奥様」


「本当でしょう。港じゅうへ酒を配って、自分は夜中まで戻らない。

帰ってきたら台所で冷えた肉を食べて、翌朝お腹を壊した」


「敵方の宴へ呼ばれていました」


「断れたわ」


「断れば港が二つに割れました」


「だからって、帰ると書いた紙まで忘れる?」


父の失敗が、死者の罪でも英雄譚でもない大きさで残っている。


帰宅を忘れ、腹を壊し、妻を怒らせた男。


その話を聞けることが、少し苦しかった。


俺が知らない父を二人は共有している。嫉妬に似た感情が生まれ、三十一歳にもなってと思う。


母は俺の顔を見た。


「あなたが八歳の時は、何をしたか覚えてる?」


「宴の途中で仕事へ行った」


「戻ったでしょう」


「血の匂いを持って」


「そうね」


俺はようやく、二人の知らない父を一つ持っていると思えた。


「ヴィットリオは、あなたに何を教えた?」


母がマルコへ聞く。


「銃を抜いたら、相手の手ではなく目を見ろと」


「なぜ」


「撃つ者は、引き金より先に目を決める」


父らしい。


「悪かったところは」


マルコの手が止まる。


「墓の前で?」


「本人が反論できないから、言えるでしょう」


母は容赦がない。


マルコは長く考えた。


「自分が耐えられることを、皆も耐えるべきだと思っていた」


俺も同じだった。


父は撃たれても立った。


仲間が死んでも決定した。


家族を守るために自分を使い切り、ほかの者にも同じ形を求めた。


「ほかには」


俺が聞く。


「一つと言われていませんか」


「言っていない」


「部下が黙ることを、同意だと思う時があった」


「ほかは」


「若頭」


「聞きたい」


父を愛した者の口から、愛だけではない履歴を聞きたかった。


「奥様がいなくなった後、捜索を早く打ち切りました」


母が墓石を見る。


「家を守るため?」


「表向きは。実際は、自分が見つけられないことを部下に見せたくなかった」


「知っていたの?」


「後になって」


父も怖かった。


妻に捨てられたかもしれない。


守れなかったかもしれない。


その恐れを、捜索終了という命令へ変えた。


母は墓へ手を触れた。


「私は、見つけられないように逃げた」


「はい」


「それでも、捜してほしかった」


「矛盾しています」


「人間ですから」


母は自分で言い、苦く笑った。


俺は父の杯を墓石へ傾けた。


酒が名前の溝を濡らす。


「父上」


呼んでも返事はない。


「家は、大きくなりました」


六分の一から、港最大へ。


父がいれば誇ったかもしれない。


やり方を甘いと叱ったかもしれない。


「でも、あなたの家には戻しません」


母も、マルコも何も言わない。


「あなたが作った道を使います。あなたが流した血も残します。その上で、違う家にします」


墓へ宣言しても、許可は出ない。


出ないから言えた。


母は湯の杯を墓石へ少し傾けた。


「誕生日おめでとう、ヴィットリオ」


許したとは言わない。


愛していたとも、ここでは言わない。


名前と祝いだけを置いた。


マルコも残った酒を一口飲む。


俺は杯を空にしなかった。父の分として、底へ少し残した。


帰り道、マルコは母と同じ速度で歩いた。


俺は半歩先へ出て、待った。


誕生日の墓前で、父はずいぶん叱られた。

帰りが遅かったことも、冷えた肉で腹を壊したことも、二人はよく覚えている。

酒の杯と、湯の杯。

反論する声のないところで、今年も名前を呼んで祝う。


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