第71話 王都から来た銃
鉄道は、荷と一緒に銃も運んだ。
王都の工場で作られた、新型短銃。
回転式の弾倉に六発。
リボルバーだと、俺はすぐに思い当たった。
従来品より小さく、外套の内側へ隠せる。
更に撃つたびに火打ちを起こす必要がない。
木箱一つ、二十四丁。
「注文していない」
倉庫でルカが言った。
荷札には『農具部品』。
宛先は、ベランディ共同工房。
差出人は存在しない商会。
箱の底に、試供品という手紙がある。
-港の最大手へ、優先販売権を。
署名はない。
「罠だ」
テオが言った。
「贈り物かもしれない」
「触るな」
銃に触ろうとするジャコモを、テオが静止する。
「名のない贈り物を、何と呼ぶか知ってる?」
セレステが聞く。
「得」
「買収です」
それでも銃は調べる必要がある。
送り返せば安全、ではない。
同じ物が敵へ渡っている可能性がある。
射撃場へ一丁だけ運んだ。
エヴァとニコが分解する。
六つの薬室。
ばね。
撃鉄。
部品は精密だが、鉄の質が均一ではない。
「三番の穴だけ薄い」
ニコが測る。
「六発続けて撃てば、熱で膨らむかもしれない」
テオが一発目。
乾いた反動。
二発目。
三発目。
四発目で、弾倉が回らない。
無理に引き金を引かず、台へ置く。
冷えた後に開くと、薬莢が膨らんで張り付いていた。
「六発撃てる銃が、四発で止まる」
ジャコモが不満そうに言う。
「四発撃てた銃、と売る者もいる」
エヴァが答える。
別の一丁は六発撃てた。
三つ目は二発目で不発。
品質が揃っていない。
製造番号もない。
誰が作り、誰へ売ったか追えない。
「全部、警吏へ渡す」
俺が決める。
「一丁も残さない?」
テオが聞く。
護衛として、敵だけが持つ武器は怖い。
「試験記録と一丁は、証拠として共同保管。使う武器にはしない」
ジャコモは納得していない。
「古い銃で、新しい銃に勝てるのか」
「新しい方が先に止まるかもしれない」
「止まらなかったら」
「相手が撃つ前の場所を変える」
その日の夜、ジャコモが射撃場へ戻ってきた。
試験に使わなかった新型短銃を、保管箱の外から見ている。
「一丁、俺に持たせろ」
「使う武器にはしないと言った」
「敵は持つ」
「だから?」
「俺は刃物も預けてる。古い銃は二発目までに持ち替えが要る。向こうが六発なら、守れない」
守る、と言いながら、彼の目は何も下がっていない自分の腰を見ていた。
「持てば、強くなる?」
「少なくとも、逃げられないとは思われない」
ブルーノが射撃場の扉を閉めた。
灯りを一つだけ残す。
「俺が最初に人を撃った時、銃には一発しか入っていなかった」
ジャコモが彼を見る。
古参が自分の昔を話すことは少ない。
「何歳だった」
「十七だ」
「死んだ?」
「死んだ」
ブルーノは壁の古い弾痕へ触れた。
「敵の見張りだと聞いた。走ったから撃った。後で、姉を迎えに来た荷運びだと分かった」
「間違えたのか」
「命令した者は、間違いではないと言った。あの時間にあの路地を走った方が悪いとな」
「本当は?」
「俺が引き金を引いた。相手が誰か知らなかった。それだけだ」
知らない者へ、命令の形をした一発を渡した。
「六発あれば、六人間違えられる」
ブルーノが新型銃の箱を叩く。
「だから古い銃がいいって話か」
「違う。弾の数を、強さと呼ぶなという話だ」
ジャコモは黙った。
「でも、何もなければ怖い」
やがて言った。
「皆が俺より強い。刺した後、刃物を取られた。正しいと思ってる。
でも、揉め事で相手が腰へ手をやると、俺だけ子供に戻る」
声だけは、もう強がっていなかった。
「怖いまま立て」
ブルーノが言う。
「俺は、怖くないふりをして撃った」
「逃げても?」
「守る相手より先には逃げるな。守る相手と一緒なら、走れ」
翌日から、新人の射撃訓練を変えた。
当てる練習より先に、不発で止まる練習。
相手が六発持つと仮定して、扉の外へ退く練習。
銃を抜かず、子供と負傷者を低い壁へ移す練習。
ジャコモには、新型銃を渡さなかった。
訓練用の空の銃を持たせた。
最初の三回、彼は引き金へ指を置いた。
四回目、先に出口を見た。
「強くなった?」
訓練後に聞く。
「怖い場所が増えた」
「それでいい」
納得はしていない顔だった。
それでも彼は、空の銃を箱へ戻した。
交渉場所の入口を増やす。
身体検査の手順を変える。
隠せる大きさなら、上着だけでなく靴と帽子も確認する。
発砲後は、六発撃ち切るまで近づかない。
銃を買わず、護衛方法を変える。
三週間後、東市場で新型短銃が使われた。
小さな賭け屋への強盗。
犯人は十六歳と十八歳。
二人で一丁。
最初の一発が天井へ。
二発目で店主の肩。
三発目は出なかった。
犯人は銃を捨てて逃げ、ジャコモたちが捕まえた。
「どこで買った」
「貨物駅」
「誰から」
「黒い帽子の男」
黒帽子荷役へ話を聞いたが、服装を使っただけだと分かった。
銃の箱を追う。
同じ列車で四箱入っていた。
一箱はうち。
一箱は警吏の倉庫。
残り二箱、四十八丁が街へ出ている。
「警吏も受け取った?」
フェッリが聞く。
「試供品として」
警吏長は、数丁を部下へ配っていた。
合法な組織へ渡った箱と、マフィアへ渡った箱。
差出人はどちらも同じ。
売り手は、先に両方へ慣れさせ、後から弾薬と修理で金を取るつもりだった。
「国と一緒に調べるのか」
古参が嫌がる。
「同じ銃で撃たれる」
警吏と共同の回収を出した。
持っているだけでは逮捕しない。
購入額を申告すれば、同額で買い戻す。
犯罪に使った物は証拠として押収。
十日で三十一丁。
残り十七。
全部は戻らない。
価格が上がり、隠す者も増えた。
それでも、回収品の薬室番号から製造工場を突き止めた。
工場は閉鎖されなかった。
鉄の厚さを改め、製造番号を刻み、販売先を記録する条件で営業を続けた。
「粗悪な銃を作ったのに?」
ジャコモが言う。
「職人全員を路上へ出せば、別の工場で番号のない銃を作る」
「悪い奴が残る」
「直さない奴は外す。直す者まで同じにしない」
四十八丁すべては戻らなかった。
番号のない十七丁が、誰かの外套に隠れたまま港へ残った。
灰冠の指輪より小さな銃を、誰でも六発持てる時代が来ていた。
残り十七丁のうち、一丁が診療所へ持ち込まれた。
持ってきたのは、肩を撃たれた賭け屋の妻だった。
布に包み、赤ん坊を抱くように胸へ寄せている。
「夫が買いました」
強盗の後、自分も持たなければ守れないと言った。
寝台の下へ隠し、毎晩確かめた。
肩の傷が治る前に、夫は熱を出して死んだ。
銃は一度も撃たれていない。
「買い戻しは、まだ同じ値段ですか」
「同じです」
セレステが銀貨を数える。
女は受け取らない。
「名前を残さないで」
「記録は必要です」
「夫が強盗の仲間だと思われる」
番号のない銃を番号のないまま回収すれば、次に誰かが箱から抜いても分からない。
かといって、持ち主の名を公開すれば、返す者はいなくなる。
俺たちは回収台帳を二つに分けた。
外へ出す台帳には、銃の寸法、傷、薬室の歪み、回収日。
封をした台帳には、持参者と入手経路。
封を開けられるのは、市の判事一人、警吏の監査役一人、ベランディの会計責任者一人。
三者の鍵がなければ箱は開かない。
「マフィアへ名前を預けるのが怖いのに、マフィアが鍵を持つの」
女の疑いは正しい。
「だから、うちだけでは開けられない」
彼女は考え、夫の名を書いた。
銀貨も受け取った。
その金で肩の治療費を払い、残りを娘の靴へ使った。
女は銀貨で娘の靴を二足買った。
誰の銃だったかは、封をした台帳の外へ出さなかった。
回収台帳は、その後も残った。
粗悪な短銃だけではない。
持ち主の死んだ猟銃。
抗争の後に壁から出た弾。
番号を削られた警吏の拳銃。
回収台帳には、持った日ではなく、手放した日が一行ずつ増えていった。
ただ、最初に港へ残った十七丁のうち、戻ったのはまだ一丁だった。
残る十六丁の欄には、手放した日を書く場所だけがあった。
寝台の下で、一度も撃たれなかった銃。
手放した金で買ったのは、娘の靴が二足。
封をした台帳の中に、夫の名がある。
新しい靴を履く時には、その箱を開けなくてもいい。
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