第四幕:雑草食堂、開店
「――無許可営業は規約違反だ」
商業ギルドの男は、冷たく言い放った。
「登録料、月次税、売上報告。すべて義務だ」
「いくらだ?」
「初期登録で銀貨五枚」
高い。
今の俺の全財産――銅貨数枚。
払えるはずがない。
「払えないなら?」
「営業停止、もしくは――排除だ」
空気が一段、重くなる。
村人たちが一歩引いた。
“権力”だ。
「……なあ」
俺は、あえて笑った。
「もし俺がこれで稼げるって証明したら?」
「関係ない」
即答。
「規則は規則だ」
なるほど。
話が通じないタイプか。
「じゃあ逆に聞く」
俺は鍋を指す。
「これ、禁止する理由は?」
「衛生不明、成分不明、危険性不明」
淀みない回答。
「つまり、“責任が取れない”」
筋は通っている。
だからこそ――
「じゃあ、取ればいい」
「……は?」
「責任、俺が取る」
沈黙。
「その代わり――」
俺は一拍置いて続けた。
「“売る権利”をよこせ」
男の目が細くなる。
「面白い」
「だろ?」
「三日だ」
男は言った。
「三日で、安全性と価値を証明しろ」
「できなければ?」
「即、排除」
いいね。分かりやすい。
シンプルでいい。
「乗った」
◆ リナの決断
「……あんた、正気?」
リナが呆れた顔をする。
「三日で証明なんて、無茶よ」
「だからやるんだろ」
「失敗したら終わりよ?」
「成功したら?」
リナは言葉に詰まる。
「……認めるしかないわね」
「じゃあ決まりだ」
「まだよ」
リナは腕を組む。
「私も条件を出す」
「何だ?」
「私を使いなさい」
「……は?」
「薬師として監修する」
まっすぐな目だった。
「危険なものは止める。効果も記録する」
「その代わり――」
「……その代わり?」
「成功したら、私もこの店に入る」
一瞬の間。
「共同経営よ」
俺は笑う。
「いいね。最初の従業員だ」
「違う、“パートナー”」
「はいはい」
こうして――
ツンツン薬師、正式加入。
◆ 看板娘
「……あの」
小さな声。
昨日の少女だった。
「また、食べてもいい?」
「もちろん」
即答する。
「ただし」
「……?」
「働け」
「え?」
「皿洗いでも、呼び込みでもいい」
少女は戸惑う。
「その代わり、飯は出す」
数秒の沈黙。
「……やる」
小さく、しかし確かに。
「よし」
「名前は?」
リナが尋ねる。
「……ミア」
「じゃあミア」
俺は笑った。
「お前、看板娘な」
「……かんばん?」
「店の顔だ」
ミアは少しだけ笑った。
◆ 雑草料理、進化
「時間がないわよ」
リナが草をつまみ上げる。
「三日で証明するなら、これじゃ弱い」
「スープだけじゃダメか」
「当たり前でしょ」
そこから一気に動き出す。
● 焼き草パン
刻んだ草を練り込み、焼き上げる。
「……香ばしいな」
「栄養も残ってる」
ただの主食が“商品”になる。
● 揚げ草チップス
薄切りにして油へ。
「……うまっ」
ミアが目を丸くする。
「塩だけでいけるわね」
リナも頷く。
軽食として完成。
● 乾燥栄養草
選別、乾燥、粉砕。
「これ、保存効くな」
「しかも軽い」
「携帯食ね」
冒険者向けの完成品。
◆ 三日間
一日目:試作
二日目:販売
三日目:評価
村の空気が変わっていく。
「パン、普通に美味い」
「チップス止まらん」
「遠出にちょうどいい」
“草”という概念が崩れ始める。
◆ 判定
三日後。
ギルドの男が現れる。
「……報告しろ」
机の上に並べる。
商品。
売上。
記録。
「安全性、問題なし」
「売上、右肩上がり」
「需要、確認済み」
「――証明は終わりだ」
沈黙。
やがて男が言う。
「……認めよう」
空気が動く。
「条件付きだ」
「来たな」
「ギルド登録を許可する」
「その代わり――」
「“独占は禁止”」
「情報開示か?」
「違う」
男は続ける。
「管理下に置く」
「やっぱりな」
だが――
「断る」
即答。
空気が凍る。
「俺は俺でやる」
「……強気だな」
「勝てるからな」
視線がぶつかる。
数秒後。
男は、わずかに笑った。
「……いいだろう」
「その代わり、潰れても知らんぞ」
「上等」
◆ 開店
木の板に雑な文字。
【雑草食堂】
その下に並ぶ商品。
「焼き草パン」
「草チップス」
「栄養草(保存用)」
リナが呆れる。
「……本当にやるのね」
「もう始まってる」
「ミア、いくぞ」
「……うん!」
小さな声が、村に響く。
「いらっしゃいませ!」
その瞬間――
価値のなかった“草”が。
商品になり、店になり、
そして――文化になり始めた。




