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異世界雑草食堂 〜誰も食べないものを、俺は喰う〜  作者: レモンティー


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2/11

第二幕:最初の客

草原の先に見えた煙。

それは、確かに“人の匂い”だった。

「……行くしかないな」

俺は歩き出す。

腹は満ちている。

体も軽い。

さっきまでの“死にかけ”が嘘みたいだった。

――ただし。

「問題は、“普通の食い物”を知らないってことか」

俺は苦笑する。

今の俺にとって、パンも肉も“未知”だ。

代わりに――

「雑草なら、無限に分かる」

この歪さが、少しだけ可笑しかった。

歩くこと、数時間。

やがて、木の柵が見えてくる。

小さな村だった。

畑。家畜。煙突。

どこにでもある、典型的な農村。

「……助かった」

正直な感想だった。

いくら草が食えても、情報がなければ詰む。

俺は門へ近づく。

「止まれ」

低い声。

槍を持った男が、こちらを睨んでいた。

「……何者だ」

「旅人、ってところかな。金はないけど、働く気はある」

半分本当で、半分嘘だ。

男は俺の格好を見る。

汚れている。武器もない。

完全に“弱者”。

「……飯は?」

「食ってる」

「何をだ」

一瞬、迷う。

だが、正直に言った。

「草」

沈黙。

そして――

「は?」

当然の反応だった。

「いや、冗談じゃなくて」

俺は足元の草を一本抜いて見せる。

「これ、食えるぞ」

「……やめろ」

男の顔が歪む。

「それは家畜の餌にもならん雑草だ。腹壊すぞ」

「壊してない。むしろ元気だ」

「そんなわけあるか」

完全に信用されていない。

だが、問題ない。

これはいつか来る壁だと思っていた。

“常識”。

「じゃあ、こうしよう」

俺は周囲を見渡す。

道端、柵の隙間、畑の端。

雑草はいくらでもある。

その中から――いくつかを選ぶ。

「火、借りていいか?」

「……何をする気だ」

「料理」

その一言で、空気が変わった。

村の片隅。

使われていないかまどを借りた。

周囲には、野次馬。

「何してるんだあいつ」

「草を煮てるぞ……」

「頭おかしいんじゃねえか?」

好きに言わせておけばいい。

俺は黙々と作業する。

選んだ草を、水で軽く洗う。

そして、刻む。

鍋に入れる。

「……ポイントは組み合わせだな」

甘味のある草。

苦味の強い草。

刺激のある草。

単体じゃまずい。

だが――

「混ぜれば、“料理”になる」

ぐつぐつと、鍋が煮える。

香りが、変わる。

青臭さが消えていく。

代わりに、ほんのりとした旨味。

「……おい」

さっきの門番が、眉をひそめる。

「変な匂いじゃ、ないな」

「だろ?」

俺は笑う。

そして、ひと口すくって飲んだ。

「……いける」

確信した。

これは“食い物”だ。

「ほら」

木の椀に入れて、門番に差し出す。

「試してみろ」

「……毒じゃないだろうな」

「さっきまで食ってた俺が生きてる」

「……」

数秒の葛藤。

そして――

男は、口をつけた。

沈黙。

周囲も静まる。

全員が、男の反応を待っていた。

「……」

もう一口。

さらに、もう一口。

「……なんだ、これ」

男が呟く。

「普通に、食えるぞ」

ざわ、と空気が揺れた。

「嘘だろ?」

「草だぞ?」

「ちょっと寄越せ!」

野次馬が群がる。

俺は苦笑しながら、椀を配る。

「……ほんとだ」

「味、あるぞ」

「腹に入りそうだ……」

評価は、上々。

いや――

「これ、金になるな」

確信に変わる。

「おい、旅人」

門番が真顔で言う。

「これ、いくらで売る」

「……は?」

「冗談じゃない。冬は食い物が足りなくなる」

その一言で、全てが繋がった。

この世界には、“食料問題”がある。

そして俺は――

それを“雑草で解決できる”。

「……じゃあ」

俺はゆっくりと笑う。

「一杯、銅貨一枚」

「安すぎるだろ」

「最初だからな」

信用は、まだゼロだ。

だが――

「次は上げる」

その日。

村の片隅で。

“雑草のスープ”が、初めて売れた。

夕方。

小さな銅貨が、手の中にある。

「……異世界での初収入が、雑草か」

笑える話だ。

だが――

「悪くない」

空を見上げる。

煙が、静かに昇っていく。

「次は、店だな」

価値のない草は、もう終わりだ。

これからは――

「価値を作る側だ」

こうして。

誰も食べないものを売る、奇妙な商売が始まった。

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