プロローグ
雨が降っていた。
しとしとと静かに降り続く雨。
私は傘を差しながら石畳の道を歩いていた。
名前は――
**白藤 美琴。**
大学を卒業して数年
東京で働いていたけれど、
少し疲れていた。
仕事も
人間関係も
将来のことも
全部が上手くいかない気がしていた。
だから今日は、
一人で旅行に来ていたのだ。
知らない土地を歩けば何か変わるかもしれない。
そんな曖昧な理由だけど…
そんな中
気付けば私は見知らぬ路地に立っていた。
「……あれ?」
スマホを見ると、
圏外だった。
おかしい
さっきまで繋がっていたはずなのに
周囲を見回しても人影はないし
雨音だけが静かに響いている。
妙な胸騒ぎがして引き返そうと
そう思った時だった。
路地の奥に灯りが見えた。
古びた建物で小さな店だった
まるで昔からそこにあったような雰囲気の所で
懐かしく思うけれど初めて見る店だった。
木製の看板に
曇ったショーウィンドウ
並んでいるのは人形や時計、装飾品
どれも古くて
怪しくて不思議な雰囲気を纏っている。
「こんなお店あったっけ……?」
思わず呟いた。
その瞬間…
――カラン。
勝手に扉が開き
私は肩を震わせた。
すると奥から声が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
柔らかな男の人の声だった。
恐る恐る店内を覗と
そこには一人の男が立っていた。
整った顔立ちで
年齢の分からない不思議な雰囲気をしている。
優しそうに笑っているのに
なぜか目を逸らせない。
「雨宿りでもどうぞ」
そう言われると、
不思議と断る気になれなかった。
私が店へ入ったら
背後で扉が閉まる。
――カラン。
その音がやけに大きく聞こえたが
店内には静かな音楽が流れていた。
古時計の針が時を刻んでいて
どこか落ち着く空間だった。
私は棚に並ぶ品々を眺める。
その時…
一つの髪飾りが目に入った。
銀色の細工に小さな鈴が付いていて
どこか神社のお守りにも似ていた。
不思議と目が離せない
なぜだろう?
まるで呼ばれているようだった。
私はそっと手を伸ばした。
そしたら
鈴が小さく鳴った。
――ちりん、と
その瞬間…
耳の奥で誰かの声が聞こえた気がした。
『……やっと』
私は息を呑む。
今のは何?
聞き間違い?
気のせい?
困惑する私を見て
店主は静かに微笑んだ。
まるで、
それを待っていたかのように
「その品にまつわる恋物語を知っていますか?」
私は首を横に振った。
そしたら
店主は優しく目を細め
そして髪飾りを見つめながら言った。
「それは――」
一拍置いて
静かに語り始めた。
「数百年前
ある神が、
一人の少女を愛した物語に出てくるものです」
外では雨が降り続いていた。
まるで帰り道そのものが消えてしまったかのように
私はまだ知らない
その物語の花嫁が
自分とよく似た名前を持っていたことを
そして…
その神が今もなお
花嫁を待ち続けていることを――




